民家の涼しさを検証する・・・大地露出構造

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さて、冷房中の家でどこに洗濯物を干すか?に少し昔の民家が涼しいと言われる理由をダブらせて考えてみます。ここからは番外ですが、昔の民家のすばらしさわかります。

まずおさらいとして

夏の洗濯物は「排気用換気扇の近くで干す」事でした。これは

洗濯物が乾く時、空気から熱を奪い、これで冷やされた空気は下へゆっくり下がります。一方気化した水は湿気(潜熱)となって均一に広がろうとしますから、これを排気用換気扇で広がる前にできるだけ排出するのです。すると顕熱は冷やされ潜熱だけ排出されやすく、家の冷房効果が上がります。大きな効果は無いですが理屈ではこの方法が良いですね。

と書きました。実はこの原理を昔の民家は家そのものがもっていました。

まず当時(戦前)の民家の構造は・・・

・大地が露出した玄関、庭(家内部の作業スペース)土間。
↑これが一番重要。でもほとんどこの事は業界では言われない。
・壁は全て土壁であった。
・屋根は茅葺きであった(木の屋根でも瓦でも良い)。
・網戸が一切ない大開口部がある。
・待機電力が存在しない(電化製品がなく、室内で熱が発生しない)。


昔の民間の冷却構造。まるで樹木のように室内に露出した大地から大量の湿気を取り込み、土間などで気化し気化熱を奪っていく。更に網戸さえ考えない解放された開口部は、気化した大量の湿気を外気に逃がす。また土壁や茅葺きは湿気の大容量バッファーとなる。水分の吸い上げと放出はまるで樹木の生態のようである。自然素材を使ったから涼しいのではなく、自然そのものシステムとなっている。

この中で気化熱涼しい効果を実現させる最大の理由は・・・
大地が露出した土間や、それとつながる床下(縁の下)は、常に湿気が大地から大量に供給され(実測では10リットル/時間 放出された論文もある)それが気化するときに蒸発熱を奪っていきます。まるでいつも打ち水が自動的にされていると思ってください。仮に10lの蒸発熱であればなんと10kg/h×586kal=5860kal/h・・・20帖用エアコンの冷房能力です。

ただ単に気化しただけでは、空気中に大量の湿気がのこり蒸し暑くなりますが、民家は窓がほとんど開放されている建物です。だから風がなくとも湿気だけ外気へ一直線に向かいます。これは先回お話しした湿気の蒸気圧が同じになろうと瞬時に移動するからですね。
すると湿気による潜熱はなくなり、気化熱で冷やされた空気だけがのこるのです。加えて土間表面が冷やされ放射冷房状態です。だから民家にはいるとヒヤッとするあの独特の感じができあがります。エコ冷却で最近流行の「ミスト冷却」はこの原理です。
さて民家に入るとヒヤッとする感覚以外にもう一つ気づく事がありますね。あの独特の「匂い」です。これも床下が常時結露している大地が室内に解放されているので、この床下のカビ臭まで一緒に部屋に入ってきてますからあたりまえです。床下と室内が積極的に繋がっている証拠のような臭いです。

土壁はこの土間から気化した湿気の大容量バッファーとなり湿気を吸ったり、放出したりしてます。これは気化する現象とは違うので、湿気を吸い込んでも凝固熱気化熱を放出しません。また放出しても気化熱はないので(多少はある)単純に湿気のバッファー(緩和)になり、快適さに寄与します。また茅葺きの屋根も土壁と同じ作用となり、湿気のバッファーとなります。さらに茅葺き屋根は降雨による水分を保持しているときは、直射日光の熱をその高い断熱性能だけではなく、気化熱で日射熱を吸い取り室内には全く影響を及ぼしません。

この民家の冷却構造は自然の摂理をうまく利用してます。まるで樹木が根から大量の水分を吸い上げ葉から放出すること、人間が暑いとき大量に汗をかくことと同じ冷却方法です。

このことを考えずエアコンを使わないで昔の民家と同じ「夏涼しい家」にはなりません。深く民家を観察し、もっと洞察しなければならいと思います。

PS
なぜわかっているのに「緑の家」でそれらを組み込まないか?それは、当時の民家は暖房していなかったので冬のことは全くかんがえてまえせん。またこの家の中に解放された素のまま「大地」からでる湿気が冬にどのような影響を及ぼすかは、まだ研究が全くされてません。
実は基礎断熱も床下が室内に解放されてますが、その基礎にはわざわざ湿気を通さないように防湿シートが敷き込んであります。よって大地からの室内への湿気の供給は皆無です。もし湿気をとおす事になると、床下収納は事実上不可能ですし、独特のカビ臭まで発生します。さらに当時とは違い現在では冷房機で簡単に室内を冷やすことができます。また冷房に掛かるエネルギーは、暖房のエネルギーの1/10以下です。だから暖房にふさわしい家造りが主となるわけです

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