住宅の安易なリフォームやリノベーションに対し ・・・その5 エビデンス

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今年出版された耐震リフォームの要となる「接合部」の評価方法の考え方。それでもまだ「案」止まり。

2年以上前に↓のブログを書いた。賛否はあれども建物構造的な欠陥であればそれは認めなければならず、否定すれば現在の構造検査の義務化の大義は薄れる。

住宅の安易なリフォームやリノベーションに対し<br />・・・まとめ
今までリフォーム・リノベーションは強くはお勧めしないとの理由が 1.耐震性が担保出来ない、 2.それ...

なぜ私が頑なにリフォームやリノベーションに後ろ向きであるか・・・。

それは実務的な構造の難しさを知っているからである。

既存住宅の大部分を占める木造軸組工法は、細い木の部材が接合されて大きな家になっているのはご存じのとおりである。ここで大事なことは「接合」されてできていること。柱と梁で構成される軸組工法は、その接点に不具合又は破壊されれば、ピン構造が故に直ぐにバラバラになる。よって現在の建築基準法、品確法においてのN値計算や許容応力度設計でも木「接合」部の検定は、その建物の耐震チェックの中心となる。

これから家を建てるために行なう新築の設計において、「接合」部の強化とチェックは問題無く可能であるが、既存建物の接合部の強化は・・・大変難しい。なぜならまずA.接合部の全箇所を確認する必要があるから。次にB.既存建物の接合部は劣化していることが多いからである。

A.の全箇所を確認するためには、建物を丸裸にする必要がある。よく外壁廻りだけ確認すればOKだよ的な事で補強を行なわれる事があるが、それが正しければ,新築の建物でも外壁廻りの耐力壁、接合部だけ検定すればOKになる。だがそんな事はない。この外壁廻りだけ補強すれば良いというのは、耐震性のない建物に対し最も効果的な補強であるが、それを行なえば現在の耐震等級2以上になる保証は全くない・・・というより無理だろう。となると全箇所確認の必要があるので、結局丸裸にして確認するしか耐震性のエビデンスは得られない。

そして次のB.接合部の劣化である。これが今回のブログの主題である。木が劣化していれば所定の強度は得られないことは明白である。その劣化についての判断基準が今まで明確ではなかったのである。

日本建築学会からようやく出版された既存建物の接合部の評価。但し「案」である。

そこでこの度日本建築学会から上のマニュアルが出版された。この日本建築学会では、過去に「小規模建築物基礎設計指針」など現在の住宅の基礎構造の指針などについて作成している実質建物の技術的総括の非営利団体で、私も一応20年以上所属している。その団体でようやく既存住宅の木質部材やその接合部についての考え方をまとめている。それでもタイトル通り「案」でしかない。まだ多くの同意が得られず且つ内容が複雑で専門的になっているためである。つまり・・・要約すると、既存住宅の木の接合の評価は大変難しく、その割には社会的恩恵が少ないと私は受け取った。アカデミックで技術的な団体であるが故に、政治的配慮なことはできない。つまり駄目なもの駄目、OKかNGかになる。原則グレーはない。だから内容をみると・・・

上のフローのように、木材を打診(全箇所)できなければ補修の要否の判断は?で終了になる。例えば木が腐りやすいお風呂付近が健全なら他の部分も問題無いという技術的に根拠の薄いことではOKにならないのである。

全体通してみると、専門的で難しいばかりでなく、既存住宅をなんとかリフォーム、リノベーションで耐震性を強化したいとの思いは薄く、「既存住宅の接合部評価は大変」的な内容となっている。

総論としては、部材の残存性能と接合部の残存性能と壁等の残存性能を順番に確認せよとなっているが、現在のリフォーム、リノベーションではこの部材の及び接合部の性能評価に対してエビデンスがなかったのである。そうなると耐震性の要である壁等の残存性能の正しい評価はできないことになる。一方政府をはじめ民間でも耐震リフォームは無論、断熱リフォームも現在推進されているように思えるこの乖離は・・・。

この書籍が出版されたことにより更に以前から申し上げているとおり、リフォーム及びリノベーションの安易な取り組みは行なわず技術者としてしっかり対応する必要がある。インフォームドコンセントを行い、「建物接合部全容がわからない事で、補強しても耐震等級1にも満たないかもかもしれないが、それでもこの建物を残す価値があればリフォームやリノベーションもできます」等正しい説明の上で取り組むべきだと私は思う。

当ブログでは過去にブレることなく下のとおりお伝えしている↓。

https://arbre-d.sakura.ne.jp/blog/?s=%E4%BD%8F%E5%AE%85%E3%81%AE%E5%AE%89%E6%98%93%E3%81%AA%E3%83%AA%E3%83%95%E3%82%A9%E3%83%BC%E3%83%A0%E3%82%84%E3%83%AA%E3%83%8E%E3%83%99%E3%83%BC%E3%82%B7%E3%83%A7%E3%83%B3%E3%81%AB%E5%AF%BE%E3%81%97

ただし・・・完全にリフォームやリノベーションを否定しているのではなく、正しい情報を発信と説明を行ない、それで理解を得られればリノベ、リフォームは想いのある建物を残し活用する魅力的な手段であると考えている。

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