土間キッチンは日本の豊かさ

                                              TEXT 2012作成、2016年追加写真

sdim4305本格的土間キッチン城山の家。2016年完成

日本の自然環境にふさわしい家に

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土間は部屋と繋がり一体空間となる。

「緑の家」は超高断熱で高気密の家しかご提供しておりません。これは今後も変わる事にない性能だと考えております。しかし「て・こあ」※と出会ってから「て・こあ」の土間キッチンに惹かれております。では気密性も断熱性もないこの土間キッチンから何を学ぶのか?日本の気候環境がもたらした文化に戻る事とは一体何か・・・。その中心は人(家族や友人、ご近所)が寄り合う新土間(靴履厨房)=土間キッチンを提案いたします。

※・・・「て・こあ」とは大正6年に建築され90年間寺院として使われた建物。2012年からこの建物の修繕を委託されている。リンク先→https://arbre-d.sakura.ne.jp/blog/category/築100年の「て・こあ」

 

 

 

 

食文化こそ家の中心

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「て・こあ」の土間キッチンのシンク台。水を大量に使う作業場としてのキッチンが日本の食文化を支える。

少し前の日本は人と人のつながりで生活や文化を形成しておりました。それは一人ではできない自然との関わり=農業が大きな影響を占めており、そのため行事ごとに多くの人数が集まることも多かったのでしょう。今も町内に残る自治会館は、必ず厨房設備も合わせて持っており、何かにつけて酒を酌み交わす祭り事があったりします。

 

人と人が集まると必ずお茶、お菓子から昼食や夕食を一緒に食べる事になります。食べながら会話することは、ただ単に食べるだけより幸福感が高まる手段であり、集団意識が人に幸福感をもたらす行為でもあります。するとそのまかない(造り手)も必要で、その人達にも社交場となる台所が・・・土間キッチンなのです。

 

 

水が豊富の日本のキッチン

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日本のキッチン写真は必ず材料に水の水滴が付いている。
これは常に水で洗う事が一番清潔でみずみずしいと考えているから。

日本の環境は草や木が育ちやすい気候で、季節毎の植物を多く食べる文化です。そしてこれには大量の清水を利用します。春から始まる山菜は灰汁が強いので、真水でそれを処理したり、タケノコ等は沢山の水で洗い下処理して煮ます。ゼンマイもワラビも・・・。夏は木の芽、畑の野菜、秋には木の実といつでも水を沢山使い洗って、茹でて食べております。特に主食のお米などは、大量の水を使い下処理をします。
えッ・・・大量の水?って思う人がいると思いますが、
パンならどうでしょうか?パンに使う小麦粉は洗う必要がありません。少量の水を入れてこねるだけでできますが、お米はぬかを研ぎ洗いする必要がありますし、多くの水を使って炊きあげますよね。良く皆さんが料理の前の台所を想像する風景として、野菜が水につかってタライに入っているところか、水あらいをしたばかりの野菜に水滴がついて風景ではないでしょうか?

 

水のない欧州や北米のキッチン

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欧州のキッチン写真ではパンを含め水滴はないのが普通。これは綺麗な水が豊富になかった事も影響している。

ジャガイモやにんじん、タマネギ、卵がカゴに入っていますが、水はついていない・・・そんな感じではないでしょうか?欧州は飲める水が豊富になかったので(冬は凍結、水は超硬水で)水が少量でも作れる料理になったのではないでしょうか。この事は日本が明らかに欧州や北米と違う食文化であることを示しております。

日本の環境にとって本来ふさわしいのは、水が豊富に使える台所なのです。この台所から日本の文化が創られていると言っても過言ではないでしょう。最近は洗う事が必要な食物がなくなって綺麗過ぎる台所が増えております。米は無洗米や野菜は洗浄してあったり、魚は下処理がしてあったりと・・・。せめてプランターでも良いのでご自分で新鮮な泥付野菜を育てて頂き、それを洗って食べる事を復活させてほしいと思っております。それが豊かな日本の食文化にもどる事だろうと思っております。

 

 

ニワの復活

ニワというと外にある外構の庭ではなくここでいうニワとは・・・最近でいう作業土間です。最近はその良さを見直されて新しい家でもよく計画されます。特に薪ストーブ愛好者を始め、木の燃料のストーブを設置する場所としてはとても合理的な使い勝手の良さが得られます。

dsc09158_3「て・こあ」のニワとして使われていた場所

ニワとは

古い農家の家に見られる作業土間が代表として浮かびますが、実は町屋にも通りニワや、台所と一体となった土間のことも含みます。

戦前の日本の暮らしは、農家を代表とする民家と商家を代表とする町屋(長屋をふくむ)があります。この町屋でも必ず靴で行き来できる廊下のような通りニワがありました。これは日本が、雨の多い気候上どうしても家の中で外作業があったとき必要な場所となったり、逆に湿気の多い環境において靴のままの生活は快適では無かったので、どうしても靴を脱ぐ場所の確保として座敷を造り、日常の作業は靴のままの部分としてニワとなった・・・このためニワが町屋でも必要になったと思います。

 

ニワが生まれた理由・・・

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ニワの延長である軒下で草木染め。雨が3日に1日は降る日本では屋根下の作業は必須である。

日本の大部分は3日に1日は必ず雨天・・・そんな雨の日でも作業ができる場所・・・それがニワだったのです。確かに私も子供の頃は、このニワで梅雨時を過ごしました。生家は家で仕事していたので、そこに吊りブランコを設置できるほどこのニワがとても広かったです。

またお米、魚、野菜中心の食事が日本の文化ということは①でお話したとおりです。考えてみれば当たり前で、一日3回もある欲望は他の寝ることと性欲を抑えて最も回数の多いことから文化の中心といっても良いでしょう。

主食=米がニワを必要とした

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大量の水を使って米を磨ぎザルにとる。
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あふればかりの大量の水で炊く
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日本の主食は1000年間以上は米が続いた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

もう一度おさらいです。ここ数千年、食の中心は、「米」です。特に水稲は東南アジアの主食で、雨の多い地域(水の豊富な地域)でしか栽培することができません。つまり日本は・・・蒸し暑い、水の豊富な東南アジア地域なのです。

米は栽培の時だけ水を使うわけではありません。戦前は一つ屋根の下に暮らす人数が多いこと、白米以外は少量の副食だったり、おやつなどが無い事から米を多く食しました。だから昔の家では羽釜などの1升炊きがあたりまえ・・・。米を磨ぐ、洗う等上で説明したとおり米は炊くときも大量の水が必要ですが、食後も多くの水を使います。
腕良く焦げが無いお釜でも釜にはべったり米デンプンがくっついているので、水を張っておきます。その釜に水の入ること・・・10L以上は入ります。

 

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使い終わったご飯釜・・・
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使用後の釜も、大量の水で洗う。
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季節の山菜も大量の水を使う・・・。

 

 

 

 

 

 

何回か水洗いするのですが、戦前では井戸や小川などに行ってザブザブ洗うことになり、お釜は水だらけ・・・。これを拭くことが出来ない(羽釜裏は煤で真っ黒のため)ので、そのまま竈まで持ってくると辺りに水が滴ります。ですのでこれは外仕事の一つといっても良いでしょう。その時に台所が作業土間の続きなら何にも気兼ねがいりません。隣人でも友人でも兄弟でも夫婦でも気軽に台所に立ち入られるので共同作業ができます。ただ現在は電子炊飯ジャーになっているのでこの水が垂れる外仕事が相当軽減され、米だけではにニワが必要という理由には相当無理があります。

野菜はどうでしょうか?近年は包丁もいらないカット野菜までありますが、今人気なのが家庭菜園で造った野菜や、地場の農業組合からかう土付丸ごと野菜です。一度これらの野菜を扱った人ならわかりますが、以外と下処理が大変。いらないところ取り去るだけでも流しは土だらけ。そして漬け物や生で食するためには、水洗いが相当必要。ジャブジャブ洗うと、流しの下も水が飛び散る・・・。

魚も同じです。丸ごとの魚をさばくと鱗が飛び散るわ、生くさくなるので流しを全部洗うとやはり水が飛び散ります。この時に床が土間だと・・・気になりません。だから水を大量に使う食材を躊躇無くさばくことが出来ます。

靴履きで「台所のニワ」=土間キッチン

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「て・こあ」のキッチン土間。
基本的にここは外ばき可のキッチン。

ニワ(土間キッチン)の復活

でもニワは時代から拒絶されて無くなったのになぜ又提案するのか・・・

それは以前のニワと違い、超高断熱高気密である「緑の家」のニワは暖かく衛生的なのです。台所の床がコンクリートだったり、石・タイルだけなので掃除も水洗いが出来るほど簡単です。
戦前のニワは、床下と地続きでつまり害虫や湿気、寒さがそのままニワにつながっていました。ですから、冬は大変寒くゴキブリ、カビ、ネズミも普通にいてそれを想像してしまうので嫌われ衰退したのです。ですが、超高断熱で床下暖房されたニワは、暖かく、乾燥していて清潔・・・でも靴履きの場所なのです。考えてみれば拙宅には2000年からニワ(土間ラボ)が設けてありましたが、簡易キッチンであり主台所は別だったので土間キッチンの素晴らしさに気がつきませんでした。「て・こあ」に伺うようになって初めて台所がニワにふさわしいと気がつきました。

日本の住いの豊かさは共同料理

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2016年版の本格的土間キッチン。
超高断熱の性能で土間を復活させた。
これなら共同作業しやすい作業場でありくつろぎの場である。

これには殆どの人から同調して頂けるでしょう。日本人は食事の時に語らい、集まる事を良しとしております。何かあれば懇親会といって食事をしながら気持ちを解放させます。また日本食は共同で造る事が多いことも重要です。今でも皆大好きな鍋物は、囲炉裏でみんなが鍋をつついた料理の名残ですし、同じ鍋に箸をいれてつっつくなんて食べ物を分け合う事を絵に描いたような行為です。このように日本には造りながら食べる料理の多い事・・・。そういった参加型料理が大好きな人種だからこそ、昨今の主流オープンキッチン(対面型)などが恋しくなるのです。またBQも参加型料理であり外で行うから汚れも気にならない・・・それだから人気があるのです。つまり今の家のキッチンには過去の食文化にあった共同作業や分け合う事で得られる豊かさ、誰でも参加しやすいような環境(汚れを気にしない)がかけてしまい、それを補うようBQにブームになったのでしょう。家で何時も共同作業していれば、外はおにぎり又は駅弁のような手軽な外食で満足していたのではないかと思います。

リビングをなくしニワ(キッチン土間)をつくろう

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玄関から靴でも入れる土間キッチン。中履きに履き替えもできる。
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土間キッチンはやっぱりキッチンが主役。コストを抑えたメラミン製。
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思い切って使える厚さ100mmのコンクリート製の土間。

 

 

 

 

 

 

 

 

TV鑑賞部屋になっているリビングをやめ、台所のあるニワを家の中心にしましょう。それだけできっと家は豊かになります。無論「緑の家」の特徴の高基礎はそのまま。小上がりがあってもいいし、他の床と同じフラットなニワでも結構です。ニワを造るだけで豊かになれます。

人が幸せと感じる場面は多くありますが、多分・・・心と心を合わせている時にどんな人も幸せを強く感じると思います。・・・その時は相手の笑顔が見られるから・・・です。人は一人では幸せを感じにくい・・・そんな生まれ、育ち方をしている生物なのです。だから共同で料理を造り笑顔を見せ合う食事は心が豊かになれるのです。

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シンプルにコストを抑えた造り付けキッチンであるがガスコンベクションは欠かせない。
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巾2600、奥行き1200のセンターキッチン(アイランドキッチン)。
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コンクリートと要所要所に木を使い堅さを和らげる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

内履きを脱いだり履いたりが苦ではない訳

普通の家は家の中でスリッパを履いて暮らす人が多いと思います。所が「緑の家」は普段スリッパを一切使わない・・・ここがポイントです。というのは建て主さんから

「普通の家でスリッパを脱ぎ履きしている事を考えれば、「緑の家」の土間キッチンで中履きを履いたりする事に抵抗はないよね」

そうだったのです。これには気がつきませんでした。「て・こあ」もスリッパをはかない生活。つまり土間以外は裸足で過ごすのでキッチンだけスリッパを履く事は苦では無かったのです。昔から続いてきたわけです。これで「緑の家」土間キッチンを胸をはってお勧め出来る材料が増えました。

2018年 上山の家 キッチン土間