text 2005年11月
当初オーブルデザインが担当するのは、
①高気密高断熱部分だけの基本、詳細設計、と
②構造の基本設計だけだった。
そのため、骨格となる古材の詳細寸法や、解体、組み立て時の記録を
その他の設計をされる他社に任せたため、手元には多くの資料がない状態であった。
が、しかし建て主さんの心情の変化により、最初の基本設計から詳細を決める
実施設計までの全てをお手伝いすることになってしまった。
そのため古材の資料の多くが手元にないことが何よりも大変で、
仮組みした古材ビデオを何十回も繰り返し見て、
構造を想像し、図面をおこした。(これは古材を組み立てる大工さんも
解体時の大工さんとは違っていたので、同じように何十回も見たらしい。
どうして違う大工さんになったかは、後ほど解説する)
最近古民家移築が流行っているらしいが、どうもその多くは、法律で
決められた金物(筋交いを含む)を使わない、ちょっと危険な建物らしいことが、
今回お手伝いして改めてわかった。
古民家をよく施工する方とお話すると、古民家で移築したほぼ全てが
今の軸組み工法で定められている金物を使っていないというのだ。
木の端部、また木と木の接合に金物を使わなくて良い場合として、
法律で定められている方法は、「限界耐力による構造計算」をした場合や、
実験などで確かめられた場合となっているが、
「限界耐力による構造計算」は複雑で国内では個別で確認した例は
数件しかないとのことである。
ではどうして接合金物を使わない家が建築できるのだろうか?
答えは簡単で、法律ではごく一般的な木造住宅(述べ床500M2以内
軒高9M以下、建物高さ13M以下、地上2階建て)は、設計者が建築士なら
構造の安全性は、設計者に委ねられているからだ。行政は安全性については
ノーチェックといっていいだろう。
だから、法律で決められている接合金物を使っていなくても、家は建つのである。
これは悪法かと言えばそうとは言い切れない。住宅のような簡便な?建物は、
構造まで行政が見ることによる弊害のほうが大きいのであるといわれている。
ようは、国家資格をもつ「建築士」がしっかりすれば良いのである。
「金物なんて使わなくても、腕の良い大工と良い材料なら、今の建物より
強いよ」と大工さんはいう。それはその通りかも知れない。但し、昔のまま移築し、
昔のまま生活した場合という大前提がある。
今の建て主は、棟梁の作成するプランにいろいろ注文し、折角構造的に安定している
建物が、見る見るうちに不安定な構造になる。昔は、棟梁の造るプランは
「絶対」で、口出しなど考えられないことだった。が今はそんなことをしたら、
もういい!!あんたには頼まない!ということになるだろう。
だから元のままの安定した建物は、なくなり、不安定な建物になる。
もう一つ大きな問題は、昔の生活と今の生活に大きな違いがあるということだ。
昔の生活は、冬は、隙間風が吹き、寒いのがあたり前で、暖房などはしない。
また、囲炉裏や薪を家の中で炊いて、煙でカヤや木材を保護していた。
ねずみと同居し、カビとさえも共にする生活だ。今でも現存する民家に
尋ねて見るとわかる。入った瞬間かびや土の匂いが家の中でもあたりまえである。
民家を手放す人の多くは、使いにくいプランと寒さ、カビ臭で棲みたくないと
思うのである。民家のような自然素材に囲まれた家が良いと言っても、
寒くても良いと思う人は非常に少ないだろう。
そこで民家移築にあたり、オーブルデザインは、まず構造の安定性について、
①移築する前のプランをできるだけ活かす。
②接合部には、躊躇なく金物を使用。(限界耐力による計算はコストと手間が無駄にかかり、
その負担は全て建て主さんになるので、採用できない)
③モデル化による構造計算(許容応力算定)をする。
耐久性、快適性については
①高気密高断熱(外断熱)
②外壁、屋根ともに通気工法
③基礎高1.1M メンテナンス重視
④シロアリ対策として物理的解決とメンテナンス
⑤床暖房ではなく床下蓄熱暖房
以上を計画し。現代の住まいに合わせ、構造の力強さはそのままという
あたらしい民家を計画することになった。
計画建物の断面詳細図(矩計図)
縮尺は1/20でA1用紙に目いっぱいの大きさとなった。昔の民家の合掌屋根とは違い、和小屋と大垂木で構成する。接合部のほとんどは、金物を使用する。
暖房方式は、オーブルデザインではめずらしい、床下蓄熱暖房。これは建て主さんのライフスタイルと立地の諸条件で決めた。