連載!! オーブルデザインが手がける古民家移築 ③

古民家移築  オーブルデザインがお手伝いすると・・・ ③

  2005.09 .15

完成間近なT邸。(施工中)

屋根の葺き始めた頃は、ピカピカひかりまぶしいくらい。
現在は左のように酸化し落ち着いた色となる。

バランスの良さが建物の価値。

古民家部分の構造をできるかぎり残した小屋組み。木と木の接合部には木栓といわれる部材があるが、その効果の期待できない部分全てに、補強金物を取り付けた。(黒く塗られた部分。個所は百以上)
これは建築基準法を守り、現代の耐震性と同等な性能を得るために必要な事。しかし、一般的な古民家移築では、このような金物が嫌われるが、かといってこれに代わり耐震性をあげる補強は行っていない建物が多い。
現在の法律では、このような補強金物を省く場合、他の方法で安全性を確かめなければならない。例えば実物実験とか、限界耐力による構造計算であるが、ほとんどこれらをまじめにやっている会社(建築士)は少ない。
見た目だけで建築する。

完成間近なT邸リビング。(施工中)
中央には長さ2.5mを超えるオリジナルデザインの木の照明器具が吊り下がる。右壁は、壁倍率5以上となる耐力壁。(約1200kgf)
ちなみに「差しガモイ」と呼ばれる、古民家でよく見られる大きな鴨居の耐力は240kgfを想定し、補足程度の耐力で考える。

住宅の価値は、そのバランスででほとんど決まると言っても良いだろう。
古き良き民家は、棟梁が当時の業を尽くし建築されている。人の手間より材料が安かった時代には、今では考えれれない暴れ木を使用し、その組み合わせで建築物を造っていた。曲がった木やねじれた木をそれなりに使った。勿論旦那様衆の家は、曲がった木は使わず、高くてもまっすぐの性の良い木を使った。民家といえば、曲がった木組みを想像するが、庄屋様の家には、まっすぐの木が多く使われている。
いずれにも、木造をしっかりと感じられる、無垢の家である。しかし近年はこういった民家を手放したり、解体したりしてしまう持ち主が多い。
今回の民家もそうであるが、構造材料的にはしっかりとしているのだが、手放す理由はバランスが悪いからである。

1.寒い。
2.間取りが合わない。
3.設備が古い。
4.古くて構造的に心配。

となる。

1.の寒いというのは決定的である。本当に寒いのである。一度このようなだだっ広い空間で冬を過ごしたことのある人ならわかるが、暖めている居間であっても、隙間風が通り抜け、リビング以外は外気温と同じ室温である。今でもMSNにある家のサイトの建築士は、「夏を旨とすべし」が家の基本と言ってられるみたいであるが、全くナンセンス。現代の家は、暖房に全消費エネルギーの1/3を使い、冷房に使うエネルギーは全体の5%にも満たない。これは「夏を旨とすべし」と書かれた徒然草の頃は、現代より平均気温が高く、(夏は今よりもっと暑かったらしい)冷房など存在しない、また暖房という事など考えられない時代背景であった為、夏を中心に考える事が理にかなっていたのである。ところが現在は、町は車が熱を放出しながら走り、アスファルトは熱を蓄熱し、そうかと思えば、オフィスでは冷房ガンガン。これで我家だけ通風、団扇、扇風機だけ過ごすといっても大部分の住人の同意は得られないであろう。また、暖房を当時のように我慢しようといってもこれも大部分の人が同意しない。暖房は人間にとって本能的に快適性を得る重要な要素であるからだ。そのむかし、まだ家を持たなかった祖先たちは、暑さは水があればどうにかなるが、寒さは死活問題。寒ければ即生命が絶たれる事になる。その本能は今でも我々のDNAに引き継がれ、寒さは精神的、肉体的ストレスを生むことになる。
簡単に結論を言えば、民家のような大空間こそ、最高の高気密高断熱性能が必ず必要という事である。

2.は1が解決すれば問題なくなる。間取りがあわないからだめという理由は、やはり冬の寒さからきている。寒くなければ多少広くても困る事はない。
また簡単に仕切れるので、部屋が必要になれば、仕切ればO.Kなのだ.。

3.これは設備を入れ替えれば済むだけ。

4.は少し問題。戦前は、おかかえの大工さんがいて、耐久性の低くなった家の構造の補強なども責任を持って行っていたが、現在ではおかかえの大工さんなんていない方がほとんど。また、平屋建てが多い頃は、大きな地震があってもの今のような押しつぶされる事は少ない。古民家を移築再生する時は、構造もしっかりと現在に合ったものに変更しなければならない。今回古民家を移設を通常は行わない当事務所が、基本設計から実施設計全てを行った理由も、構造的に現代の建築基準法の規定を守ることができると、建て主Tさんが判断されたからである。逆の言い方をすれば、古民家を専門に移築し、年数棟手がけられている建築従事者や、そのネットワーク建設会社さんでは、とても問題ありそうで、頼めなかったというのが理由である。デザインだけ良くても、愛想のいい親切そうな営業さんでもだめである。なぜなら、家は一番大切な家族の命を奪う凶器にもなる特殊な買い物であるため、車や、宝石、カメラのように買い替えは簡単にできない特殊なものなのだ。だから、構造のしっかりした裏づけができる建築士(設計者)がとても重要なのである。

キッチンの発想・・・。

当事務所では、キッチンとダイニングに重きを置く事が多い。それは日本人の気質が原因である。
日本人の多くが、団欒とは、会話をしながら一緒に食する。との思いが強い。欧米人は、食事後別にリビングに集まりそこでの会話が中心となるが、日本にはこういった習慣は薄い。なぜか物を食べながらの方が話が弾む。昔から同じ釜の飯食った仲間とあるように、同じなべをつついたりする事が仲間意識や団欒をつくっていたのではないだろうか?(武士階級は違うようだが・・・)

今回は、ダイニングが「座」スタイルだったので、昔を習い、キッチンは50Cmくらい床を下げ、目線が、ダイニングに座った時と同じ高さになるように計画した。すると、キッチンに立つ人からの目線が窓外の海の景観にぴったりと合う。
左写真の左奥が掘り込んだキッチンが見える。

造り付けキッチン。以前の家の紹介であったとおり、流しは厚さ1.2mmの厚板で長さ4mの一体成型(溶接である)。
海育ちの建て主さんは、真ダイを良く釣るとかで、その大きさは70cm、厚さ10cm以上にもなるそうだ。それを裁くために巨大な流しになった。完成時に改めてご紹介するが、右の引き出しの取っての形状は、建て主さんが拘った三角形。シンプルで機能的です。
木部の仕上は、オイルふき取り(りボスカルデット)で、カバ桜の自然の木目を生かした仕上。
(ピンぼけ写真ですみません)