最近多い「キリ」という木についての考察

   2004.06.04更新

数年前から「キリ」という木が家のさまざまな所で使われております。
キリは元々タンス等の家具に多く用いられ、婚礼には桐タンスと言われるくらい
代表的な家具素材です。火事の時に桐タンスの中のものは大丈夫という話が
よく聞かれますが、桐という木は他の木よりも燃えにくいということではありません。
ではなぜ桐タンスの中だけが燃えにくいかと言うと、
1つには・・・キリ材の細胞組織は他の樹種と大きく違って柔組織が多い。
また乾燥による収縮・変形が小さいために、燃焼によって割れや隙間ができない。
2つには・・・表面が燃えて炭化層ができること、これが高性能の断熱材とし働き、
熱を内部に伝えにくくする。
3つには・・・桐たんすは高度な職人の技術によって造られており、
造る職人によって精度差がでます。
品質のよい桐材は、職人の中でも親方クラスのひとしか使うことができず、技術の未熟で
修行中の人は他の材で造って練習したといいます。
その練習したタンスも市場では売りに出されます。
もちろんこのタンスもが火事にあったときは、キリという材ではなことは無論、精度が
悪いので中に火や煙が入りやすくなります。これはキリ材という材質の前に精度の差
によって隙間ができ内のものが燃えやすくなったと思われるのですが、桐材は腕の良い
職人しか使えないといううことが一般的に知られていないため、「桐材でなかったから・・・」
と思われることになったと考えられます。
技術と材質のとり違いがあったのではないかと考えます。

さて、データーから桐という材を考えましょう。
以前のコラムにも取り上げたとおり、キリは他の木材と比べ吸湿量は少な目です(表A)。
これらを理解していないで、桐を押入れに使ったからよく湿気を吸ってくれると
言っている人がいますが、表のしめすとおり、これは正しくないでしょう。
他のスギや桧を使ったほうが桐より多くの湿気を吸ってくれます。
(このため、梅雨時や乾燥している時の材の伸縮が少なく、
いつでもすっと引出しが閉まるのでしょう)
また、桐の強度は木材の中でも低い部類です。20年くらいで大きくなる桐は
成長に無理があるせいかやはりやわらかい木ということがわかります。
したがって、強度がないため床として合板下地ができなかった昔は、
床材として単体では貼ることができずに
使用されにくい木材として敬遠されていたのでしょう。
ただちょっと以外だったのが、磨耗量が杉と同じくらいと言うことです(表C)。
ということは杉の床板と桐の床板の傷のできはほとんど変わりないといえ、
その割には熱伝導率が杉より低いので(表B)あたたかみがあるともいえるので、
杉より床材としてよいかもしれません。
ただし桐は油分が杉より少ないと思われるので、てかりの出方は遅いと思いますが・・・。
又「アク」とよばれるタンニンが表面に黒ずみを作ることも承知しておく必要があると思います。

以下のデーターは
新潟県工業技術総合研究所
県央技術支援センター 加茂センターの抜粋

 

 

 

気乾(含水率15%時)密度 (材のかるさや暖かさ)

キリ スギ ミズナラ ケヤキ
気乾密度(g/cm3) 辺材 0.30 0.36 0.69 0.62
芯材 0.35 0.62 0.61

全収縮率

キリ スギ ミズナラ ケヤキ
接線方向(%) 辺材 5.16 7.19 10.20 6.29
芯材 7.25 8.99 8.74
半径方向(%) 辺材 1.43 2.44 4.59 3.70
芯材 2.90 3.89 4.17
繊維方向(%) 辺材 0.17 0.19 0.33 0.65
芯材 0.25 0.44 0.96
気乾までの収縮率

キリ スギ ミズナラ ケヤキ
接線方向(%) 辺材 2.22 3.46 5.59 2.54
芯材 3.15 4.88 4.76
半径方向(%) 辺材 0.49 1.07 2.00 1.38
芯材 1.31 1.63 1.73
繊維方向(%) 辺材 0.02 0.03 0.14 0.34
芯材 002 0.18 0.55

24時間吸湿量

表A

キリ スギ ミズナラ ケヤキ
木口(mg/㎡) 辺材 188 280 249 258
芯材 303 277 295
板木目(mg/㎡) 辺材 63 76 78 92
芯材 100 100 109
柾木口(mg/㎡) 辺材 60 68 69 77
芯材 105 79 92

24時間吸水量

キリ スギ ミズナラ ケヤキ
木口(mg/㎡) 辺材 174 341 324 304
芯材 1,190 826 635
板木目(mg/㎡) 辺材 40 47 45 58
芯材 75 168 94
柾木口(mg/㎡) 辺材 34 36 41 42
芯材 82 88 97

熱伝導率(あたたかみ)

表B

キリ スギ ミズナラ ケヤキ
熱伝導率(kcal/mh℃) 0.063 0.075 0.122 0.123

 腐朽による重量減少率(%)

キリ スギ ミズナラ ケヤキ
オオウズラタケ(%) 辺材 0 4.8 20.3 0
芯材 11.9 25.6 27.4
カワラタケ(%) 辺材 3.9 5.5 24.8 12.3
芯材 10.8 34.3 24.0
ウスバタケ(%) 辺材 0 0.5 2.7 2.1
芯材 9.3 20.5 16.9

耐虫性

キリ スギ ミズナラ ケヤキ
ヒラタキクイムシ(被害の有無) 有り 無し 有り 有り
シロアリ(抵抗性の大小)
フナクイムシ(抵抗性の大小)

強度

キリ スギ ミズナラ ケヤキ
静的曲げ
ヤング係数(tf/㎡)
強さ (kgf/㎡)
47
439
81.6
646
103
889
90.6
1,020
圧縮強さ
縦方向(kgf/㎡)
229 341 426 452
せん断強さ
板目面(kgf/㎡)
59.9 67.5 117.0 126.0
衝撃曲げ吸収エネルギー
(kgf/㎡)
0.290 0.294 0.968 1.090

硬さ

キリ スギ ミズナラ ケヤキ
木口面(kgm/m㎡) 2.42 2.83 4.980 5.280
板目面(kgm/m㎡) 0.574 0.855 1.670 2.280
磨耗量(板目面)表C

キリ スギ ミズナラ ケヤキ
繊維に平行方向(mm) 0.91 0.97. 0.54 0.48
繊維に直角方向(mm) 1.20 1.00 0.56 0.69
供試試料桐は、日本産樹種である。
スギ:秋田県仙北郡協和村
ミズナラ:北海道上川郡新得町
ケヤキ:群馬県多野郡上野村