TEXT 2009.11
2010.0.4 冒頭加筆
住まいに対する想い ~未来に引き継ぐために~
私たち現世に生きているものは、過去の人が残してくれたものの上に成りたっています。仮に悲しい過去があっても過去を否定する事は現在の自分を否定する事になり、大変さびしい行為です。また一方で私たちには未来につなぐ責任を持っています。過去の人が築いて来たものを消去することなく、その上に積み上げていくか、分解し再構築していく必要があります。
その受け渡し方法はただ一つ「生命」そのものしかありません。人間には科学、技術、文化、言語など様々な受け継がれる学ぶべき分野、形態がありますが、それを生かすも殺すも「人」しかありません。その人から人への受け渡しはどのようなことなのでしょう。私はその核が「親子」であるといつも考えてます(これは血がつながっていない親子も含みます)。
「一人で裸でうまれ、また一人で去ってゆく」人は最初と最後はすごくシンプルです。しかしもうすこし詳細にみると、生まれる時は一人ですが、生まれる前でもすでに母の胎内にいます。卵子はそれが「ある」時点から母に守られ暖かい愛情に包まれてその時を待っているのですね。もうすでに最初の親子が始まってます。
「三つ子の魂百まで」ということわざがあります。これは先人が残してくれた大切な知恵です。ある解説には「満2歳までに身に付けたものはその子の性格となる」とありますが、私は「性格」ではなくその子の生きていく上での思考、感情の核であると思ってます(性格はすでにDNAで引き継がれると考えてます)。
哺乳類を除く生命のほとんどが、親から生まれた途端に自立し生きてゆけます。ところが哺乳類は生まれてから自立できるまである程度の期間を要します。人は生まれた瞬間はまだ未成熟で歩く事すらできません。しっかり歩くまで期間が2年間最低必要です。従ってこの2年間は親の愛情(命に変えても子を守るそんな感情であり、躾ではない)の中にくるっと包まれている必要があると思います。この2年間が仮に愛情のない期間となってしまったなら、それを哺乳類でない他の生物に例えると、卵が途中で割られてしまう事を意味し、本来現世では存在できない事になるからです。ですのでこの2年間は人として特別な期間と解釈し、だから「三つ子の魂百まで」という諺になると考えています(三つ子は満で2歳の事)。
さらに社会に自立できるまでまだ相当期間がいるのですが、本格的な集団行動ができる6歳までが核が分裂し増産される数の次期になると考え、更にその後9年間がその配列を決める時期なります。つまり15年間は人としての思考、感情の親から子への未来への引き継ぎの期間と考えてます。
さてお話が住まいと違う話題のような気がしますが、しっかりつながっています。
この15年間は親子として住まいとその周囲の環境を中心に活動します。特に母と子の関係は重要で、母の家・庭・人に対する思いはダイレクトに子に引き継がれると思ってます。住まいや周りの環境の善し悪しで引き継ぐものが全く違うとは思いませんが、影響はすくなからずあるといつも考えてます。ですので私たち建築士はその事をいつも感じ、真剣に未来に引き継ぐ重要な「人間形成の巣」を造っていると心にとめております。
家造りに最も大事な事
① 自社の家造りの歴史の公開
② 地震、暖かさ、素材などを数値や論理的に実証している事。
① 家造りの歴史の公開
あなたが電化製品を買いました。一年後その製品の取り扱い説明書を見るためにメーカーのホームページに行くと、「過去の商品」というところに仕様や説明書が必ずあります。ユーザーを大事にしている証です。
しかし、住宅メーカーや、施工会社には「過去の商品」と言う項目がありません。いわゆる売りっぱなしの体制です。一番高価な家の情報が、メーカー企業のHPから一年で削除されてしまう不思議・・・。
これはあってはならないことです。
その設計者が過去にどのような家造りをしてきたかは、その設計者(会社・団体)の家の造りを姿勢を
示します。
例えば去年までは「高気密住宅はだめ。断熱は必要あるけれど気密は必要ない。」と言っていた会社が、今日から急に、「超高気密住宅ですよ」と言っていたらどう思いますか?これから建てる人には気になりませんが、去年その企業を信用して建てた人は「えっ・・・」と思うでしょう。このような売りっぱなしで誠意のない企業で家を建てると、将来は自分が「えっ・・・」と言ってしまう立場になります。
お金にとても余裕のある方は、失敗してももう一度建てる事ができますが、普通は金融機関から支援を受けて建てます。ですから正しい情報で比較し納得して仕様を決め、家を建てる事が重要で、間違った家の情報では、何十年も暮らす家になったとしたら残念でなりません。
当事務所では時代を先読みして、その時代の最高の技術と見合ったコストで提供してきた証として、各年代の新聞に折り込んだチラシを公開します。多分業界初の試みではないかと思います。
チラシの公開はとても勇気が要ります。住宅会社のチラシには誇張表現があるからで、数年後見ると「えっ」と思う広告がほとんどです。「そのときはこれでよいと思った」という理由はいえません。なぜなら、その当時でも違うものを薦めていた誠意ある会社もあるからです。
また、当HPは古いHPもほぼ全て残ってます。これは、今までお手伝いさせて頂いた建て主さんのための情報で、これからも削除いたしません。私どもの大切な財産です。
② 数値で実証
折り込みチラシでよく目にすること
・地震に強い家
・暖かい家
・自然素材を使った家 etc
地震に強い家とは
性能表示制度における耐震等級2以上の家のこと。性能表示にいちども申請していない会社や、構造計算書のない自社評価で等級2相当はほとんど当てにならない。まず地震に強くない家と言ってよい。ではなぜ「地震に強い家」といっても法律に触れないのか?厳密には抵触する恐れがあるが、憲法で保障された「表現の自由」があり、自分がそう思っているという事が前提であれば全て個別案件となる。つまり、
建築基準法を守っていて且つ「この家は地震に強く、性能表示の耐震等級2相当です」と宣伝する事は自由。しかし実際はそうではない場合は詐称となる。この場合は裁判や調停にでもならない限りはっきり判断できない。原則民事不介入があり、行政から告発されないため。だから建て主さんは自己防衛し、性能表示の耐震等級2以上を取得依頼するか、構造計算書の入手をするしかない。構造計算書があれば、直ぐに確認可能である。それほど設計図や計算書は重要である。
暖かい家とは
築30年以上の方が今の新しい住宅にお住まいになると、どんな構造や工法、メーカーであれ以前より格段に暖かいと実感するだろう。それほど以前の家は暖かさに対し「ザル」のように熱が逃げる家であった。だから、どの会社が「暖かい家です」と言っても間違いではない。しかし、今の住宅の暖かさは数値で表せる。それが熱損失係数と呼ばれるQ値というもの。このQ値が小さいほど優れた断熱性を示し、Q値が0.9W/m2K以下になると、年間の暖房費が3万以下で全室24時間暖房と言う理想的な暖かい環境を得られる。このQ値が表示されていない家は、暖かさにつて何の責任もない家である。Q値は断熱材の厚さではない。家全体の仕様が関係しプランや窓の数、吹き抜けのあるなしで相当変わる。一棟一棟違うので必ずQ値の計算と表示が必要。因みにQ値における暖房費の比較をすると
30~37坪の家 南向き
Q値 0.9以下・・・1万~2万以内で24時間全室暖房(年間暖房費)
Q値 2.0 ・・・7万~10万以内で24時間全室暖房(年間暖房費)
Q値 2.7 ・・・14万以内で24時間全室暖房(年間暖房費)
Q値 表記なし・・・全室暖房は不可能。
となる。但し快適性はQ値と暖房方式によって少し左右される。
自然素材を使った家
まず自然素材の定義をしないと・・・
「自然素材とは天然素材を切断や採寸しただけのままのもの。または、一部接合、仕上げしたもの。」
とすると大部分の方が納得するのではないだろうか?
例えば木の製材品(建材品を除く)、石、草、紙、土等。鉄やアルミも天然素材に違いないが、加熱、電気加工してあり自然素材と呼ばない。となると漆喰も加熱処理しているし、珪藻土もセメントが入っているので本来なら自然素材ではない。特に最近の漆喰や珪藻土は、その下地処理に「シーラー」と呼ばれる化学物質の塊を入れているので本当に自然素材と呼んで良いのかと思う。せめてシーラーを使わない漆喰ならよいと思う。
さて、そうなると身近な自然素材は「木」と「石」くらいしかない。紙はほとんど漂白されていたり、撥水剤を塗布されていたりしまし、土はそのままでは崩れるので使われない。
そこで木に限定すると、木でも一番身近な木である床に天然木を使ったと言っても、ほとんどが蜜蝋ワックス塗りだったりする。蝋=ろうそくのことで、常温で固形化の物質を木に塗ったとたん、木は湿気を吸収する穴が全てふさがれ、その自然素材の良さが半減する。木はそのままで使う事が大事(堅木を除く)。和室の自然素材の代表の畳や障子戸が汚れやすいやすいからと言って蜜蝋ワックスを塗るか?塗らないはず。塗ったら気持ち悪いと想像できるから。同じように一度無塗装の木に触れると、蜜蝋が塗ってある木は絶対いやだと思うはず。ある実験では、蜜蝋ワックスを塗ると、吸放湿が半分以下になるという実験結果がある。木はそのままでなければ本来の持ち味が出せず、人工素材となる。自然素材はそのまま使う事がその特性を生かしきる事。決して木にワックスや蜜蝋は塗らないことが自然素材を自然素材のまま使った家となる。