軒の出とは、外壁から屋根(時には庇や笠木)が出っ張っている寸法のことである。昔から日本の建築物は、軒の出をできるだけ大きくするように心がけた。これは、大きく2つ理由がある。1つ目は、軒の出=屋根が大きいとなるが、屋根が大きいと立派に見える。実際軒の出の大きい建物は、コストもかかるし、技術的にも難しくなりやすい。社寺仏閣は、屋根によって美しさが決定されると言ってもよいほど最も大事な建築の部分であり、時には権力等の象徴としてデザインされる事もある。2つ目は、外壁と窓周りを日射や雨から保護する役目である。軒の出が大きい程、高い保護が可能ということである。アルミサッシの無い時代、漏水するところはまず窓周りとなる。これは、日本建築が柱と柱の間に間戸(窓)を計画してきたことに原因がある。木で出来た間戸は間違いなく最初に雨漏りする。しかしアルミサッシ普及に伴い、軒の出の無いビルでも雨漏りが聞かれる事は少なくなったため、この問題はアルミサッシ普及とともに無くなった。残るは外壁の耐久性の保護となる。
壁に比べ屋根に使われる素材は、建築物の中で基礎と同じくらい耐久性がある素材が使われる。例えば瓦、セメント瓦、銅、錆びにくい金属類、石である。これらの材料は全て基礎(地中下)にも使う事のできる素材である。しかし流行のサイディングはどうやっても屋根に使う事は出来ない。つまり耐久性がそこまで確保できないからである。
最近軒の出のない建物が多くなった。デザイン的にモダン(ビルのような箱物ようなシンプルな形)に見えるからという理由らしい。当事務所でも軒の出のない建物は比較的多い。これは、デザイン的理由ではない。一番は、採光上有利であるから。2番はコストがかからないからである。近年市街地の住宅だけでなく、郊外住宅も敷地が多く取れない状況であり、敷地ぎりぎりに住宅を建築する事が多い。そのため外壁を隣地から少し離しても、屋根が大きいと、ほとんど隣地境界線すれすれとなる。こうなると自分の家ばかりかとなりの家まで暗くなり影響が大きい。そこで当事務所は、軒の出の無い建物をご提案する事が多い。但し外壁の素材は、ガルバニュームという屋根に使う素材。理由は上で述べたとおり、軒の出の無い建物の外壁は、ほとんど屋根と同じ過酷な状況。そこで屋根と同じ素材を使う事で、耐久性に影響を極力与えないようにする。チラシや町でよく目にする軒の出の無い建物で、外壁にサイディングを使っている建物がある。この建物の外壁の耐久性は大丈夫なのであろうか?(軒の出の無いビルの外壁は、昔から耐久性に気を使っていた。古くは本物の焼きタイルやコンクリート。今は金属やガラスがおおい。いずれも屋根に使える素材で耐久性は高い。)
写真は左が軒の出が両方ある建物が並んだ場合。右は軒の出が無い建物が片方である場合。