「 2010年01月10日 」一覧

長く愛する住宅を造る為に③ 建築士として

家の構造図や構造計算書が手元にありますか?

長く愛する住宅を作る為にその住宅の履歴は必要です。特に基礎構造や柱、梁、土台、耐力壁が書かれた構造伏せ図がないと、長く愛する事を途中で止めなければならなくなるかもしれません。

長く愛するスパンとして通常住宅ローンが終わる30年くらいが節目と考えられます。30歳で建築したとすると60歳がそのころですね。その頃にはもしかしたら、息子娘夫婦と同じ敷地に住むかもしれません。そうなった時に増築やリフォームが考えられます。またその頃までにはエネルギー変革がありそれに対応した家に改造する必要があるでしょう。
その時に必要となるのが、家の構造図や構造計算書です。私も築40年くらい経った家のリフォームをお手伝いしますが、その時に一番困るのが構造図や構造計画書(構造計算書)がないことです。
実はある法律がありまして、少し柔らかく表現するとそれは・・・
「設計者の了解がなしで構造等に関わる手直しするときは、その家の責任を新しい設計者が引き継ぐ事になります」
当たり前ですね。構造が変えられたのに、前の設計者がその構造の責任を取れるはずがありません。だから変えた設計者が責任を引き継ぐことになります。そうです、このときに前の構造図や構造計画書がなければ、その責任を引き継げるはずがありません。いくらプロの建築士でも壁の中の状況や、隠れた接合部がわかるはずもありません。もちろん基礎の配筋でも同じです。専用の装置を使ったとしてもあくまでも推測の域をでません。それで責任を引き継げと言われても普通の感覚なら首を縦にはふれませんね。だからローンが終わったばかりの家を「リフォームなら建て替えた方が早いね」などと住宅メーカーから薦められてしまうのです。

さて、リフォームのとき一番困る住宅は何と大手ハウスメーカーの特別なオリジナル工法なのです。大手ハウスメーカーの工法は、ほとんどがクローズでブラックボックスですから、一般の設計者では構造の把握しようがないのです。仮に建てたメーカーに聞いても(存在していればですが)、そんな30年前の昔の仕様は残っているはずがありません。理解できない構造は責任が取れないので、取り壊され新しい家を再び建てる事になるのです。

日本の住宅産業はこの点が世界から見ると大変いびつなところです。世界をみると、クローズされた工法を持つ会社が最も大きい住宅メーカーであるという国はないでしょう。世界の先進国の住宅の寿命は50年以上がほとんどです。だから1度や2度は大きなリフォームや増築があることも多いでしょう。そのとき、○×メーカーの工法は構造的に理解できないから取り壊そうなんていうもったいない考えはないからです。家は国の財産でもあり流通商品でもあり、債務を引き受ける銀行の財産でもあるため(日本ではこの仕組みが待ち望まれる)、ブラックボックスになる事を避ける政策なのでしょう。
さて、日本はこの点についてこれからどうするのでしょうか?残念ながら、大手メーカーは国の機関に大きく食い込んでいる(天下り?)ため凄く難しい問題です。本当は国が「住宅は個人の財産ではあるが国の資産でもある」という大方針が出れば改善されるかもしれません。

では現在どんな工法がオープンなのかといえば、2×4工法や木造軸組み工法、普通の設計事務所が計画する鉄骨やコンクリート(S、RC)工法がオープンな工法(わけ隔てなく設計できる)です。
反対に特別な工法として、セキスイさんやミサワさんダイワさんパナホームさん旭化成さんパルコンさん等が有名です。また木造軸組み工法では珍しくSE構法、KES構法などがクローズされた工法(ロイヤルティー、特許料等が掛かる工法です)。特殊工法のようなクローズされた認定工法の場合、巾はありますが外壁を変えたり屋根材を変えたりするだけでも家の重さが変わりますから、それだけでも構造チェックの必要があるかもしれません。

偏った考え方かも知れませんが、もし長く愛する家を造る為には、一般の建築士が理解できる工法や、普通の構造計算された資料や履歴がある家がよいと思います。特殊性の高い工法や構造、計算方法の家は数十年後に同じメーカー、設計者がいれば良いのでしょうが、30年後というスパンでは非常に期待薄です。
そこまで厳密にこだわらなくてもいいじゃない?とのご意見もありますが、家は命を守る器です。せめて構造の責任の所在が明らかな事が求められるのではないでしょうか?

汎用計算方法である構造計算書(許容応力度設計)
緑の家の設計図書(計55枚~100枚) 

国が評価した「住宅の性能評価書」