2020年査読論文から 外貼りEPS湿式仕上の防水

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一番下を除く画像は全てこの論文からの引用・抜粋である。

今回届いた査読論文最後の紹介は

「湿式外張り断熱外装システムの防水性向上に関する研究」

である。

論文のタイトルはその研究者の想いを表すが、「防水性の向上」とつけている。

外壁材に防水という機能は当たり前に必要であるため、一定の防水性が無ければ外壁システムとは呼べない。よって向上とするなら基準に対し安全率の上がった数値だと思うが、内容を読むと通気層を持たない湿式の外張り断熱外装システムの防水性を評価する基準が現状はないとある。つまりその基準を作る研究と防水性の欠点を明らかにしてその対策をする事を目的としているようだ。この論文に限らず興味深いのは、時間も重要なファクターとしており、新築時だけでなく、ある程度年数が経過した時に起きるヒビ等が発生したときの性能の確保が、耐久性に影響を及ぼすため重要である点を研究対象にしている。ここは「緑の家」が最も大事にしているところ。

湿式外張り断熱外装システムとは、構造材の外側にプラ系の板状断熱材を張り、その上に直接外装仕上げ材を塗布又は塗りつけた外装材である。主に欧州や北欧で少し前から行われており、近年では日本の木造住宅でも採用されている。断熱材に防水と劣化防止の仕上げを直接塗りつけるのでコスト、工期面では有利であり、特に火災に対し通気層を持たないことで、炎にさらされた時に通気層内を火が駆け上がる心配がない。

一方、通気層が無いため、適切な防湿層は必須で最外部の湿式仕上げ材に通湿性がないと冬型内部結露を引き起こすことと、逆に最外部に透湿性があると雨水の雨がかりで内部に湿気が浸透することで夏型結露をおこす可能性が高くなる。

今回の論文では外装システムの一番肝心な機能である防水性についての研究となるが、プラ系断熱材(EPS)で覆い、その上をモルタルのような湿式仕上げなら初期の防水性は高い印象がある。しかし本研究では、その一次防水が何らかの理由で突破された時の実測である。例えば施工ミス以外に経年劣化で窓との隙間ができたり、湿式仕上げ材にヒビが入りその裏側に雨水が浸入した事を想定している。確かに通気層があれば一次防水の仕上げ材に問題が発生しても二次防水の通気下にある防水透湿シートにより安全性が高いと考えられる(一方下に示すとおり通気層有りでも横胴縁では浸入しやすいとの見解がある)。その点、通気層を持たない時の一次防水を突破された水分の挙動は明らかになっていないため、この論文の研究はとても興味深い。

で結論を先にお伝えすると・・・

通常のプラ系板状断熱材をそのまま使うと、一次防水を突破された水分は容易に室内側に侵入する。しかしプラ系板状断熱材の裏側(室内側)に細い一定の縦溝があると、室内側に入る恐れがなくなるとのこと。たった溝一つではあるがそれは凄い工夫である。

逆に捕らえれば「湿式外張り断熱外装システムの防水性」はまだ発展途上中であり漏水リスクは高いともいえるが、溝だけで浸入する水が防げることは画期的であるといえる。

一方駆体内部に水の浸入を許す事は欠点であり、やはり駆体に浸入させにくい方が良いと私は考えるが・・・。

直接仕上げる今回のような外壁システムではなく、多くの木造住宅の標準となっている外壁通気層がある工法では、通気層に炎が入ったときに煙突効果により小屋裏に延焼しやすいとの研究があり、通気層内にファイアーストップとして横胴縁を設ける考えもある(上のリンクで紹介)。しかし防水実験ではその横胴縁に水が溜まりそれが壁内結露を引き起こす事も報告されている。二つ前に紹介した論文も同様だが、雨水浸入は横材があることで水の重力落下が阻害されることで引き起こされる。防水(耐久)性と耐火災性の綱引きだが、「緑の家」は現時点では防水性(耐久性)を最優先している。

国総研の「共同研究成果報告書 木造住宅の耐久性向上に関わる建物外皮の構造・仕様とその評価に関する研究」より 防水透湿シートだけでは釘穴から水の浸入を許す事になるが、縦胴縁でもこれだけ滲むので横胴淵なら・・・。

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コメント

  1. ミノリ より:

    胴縁の釘穴からも水が入っているのはびっくりでした。タッカー部分をテープ処理していないともっとひどいのでは・・・。通気胴縁の防蟻剤による機能低下の時にも思いましたが、防水シートなのに、実質濡らしてはいけないラインになっているような。壁の構造一つでもとても難しいですね。

    • Asama より:

      ミノリ様
       
      コメントありがとうございます。

      >タッカー部分をテープ処理していないともっとひどいのでは・・・。

      通常のタッカー(スティプル)穴は多分施工側からみれば特に問題意識はないでしょう。「緑の家」でもテープ処理はしません(タイベックのメーカー標準施工)。これは元々日本の建築は古くから壁内に滲んでも乾きやすければOKとの意識で外壁を造っておりました。だから乾きやすい構造とする事が肝心との考えです(北米は止水スティプルもあり)。
      屋根の防水シートでもタッカー(スティプル)で仮留めします。タッカーを使わない粘着タイプも金属屋根以外で使いますが、主流はタッカーなります。

      >壁の構造一つでもとても難しいですね。

      仰せのとおりです。屋根と違い開口部、スリーブ、電線貫通が沢山あるところを防水する事は・・・長い時間でみれば不可能。だから外壁への雨がかりを少なくしたいのです。

  2. Asama より:

    水野様

    >無難な家の仕様を考えるというのは難しいと感じます。

    全く仰せのとおりで、「無難」・・・それは現在だけで無く数十年先まで総合的に考える事が必要で、それが難しい場合は情報を公開し丁寧に説明する事で建て主さんが選択できるようにする事だと思います。

  3. 水野 より:

    浅間様

    お世話になっております。

    「通気層を持たない時の一次防水を突破された水分の挙動は明らかになっていない」にも関わらず、欧州の住宅を真似た通気層の無い家を提供する会社があるのは怖いなと思うと同時に無難な家の仕様を考えるというのは難しいと感じます。