熊本地震での倒壊原因(案)
やっぱり筋かいではなかった原因
今年の4月に熊本で起きた地震で多くの木造住宅が倒壊しました。そこで直ぐに国は現地調査を始めましたが、4月の下旬~5月のに出された調査チームの第一声は
「筋かい が悪そう・・・」という「私感ですが」と念を押した言葉でした。
しかしその4ヶ月後の9月12日に国の専門家チームでだした結果は・・・
「2000年施行耐震基準を守れば倒壊はほぼ避けられた」
との報告書でした。無論その中で筋かいが悪者ということはありません。
つまり倒壊した原因は2000年以前の旧基準や2000年以降でもその基準に添って建てられなかった事が原因との事です。
「筋かいがわるい」と誤解された
ところで・・・
なぜ専門家又は学者の4月の下旬~5月に出された「私感」第一声が
「筋かいが悪い」と言ったのか?その理由を考えると
- 法律が守られて建築されている事が前提
- 筋かいを使用した建物の割合いが多い
- 筋かいを使用する施工者は耐震性を気にしない事が多い
- 責任の回避(法律は悪くない)で咄嗟に他の原因をあげる
と思われます。
ここで特に1の法律が守られるのが当たり前と考えていることが実務者と研究者の違いです。この点は是非もっと大きな声で報道して頂きたいです。どんなによい法律を造っても実際の設計者がそのとおり設計しなければ「絵に書いた餅」です。
このブログで何度も申し上げているとおり、オーブルデザインが工事監理した初めての会社の建物は、会社の大小を問わず筋かいが正しく施工されていることは殆どありません。一番多いのがここで申し上げたとおりその材料が規定に沿っていないことです。
さて、その9月12日の報告書の抜粋をします。
鉄骨造・RC造と木造の倒壊率の比較
上の表のように現行耐震基準の2000年以降の建物では倒壊又は大破率が木造6%、鉄骨造4.5%と差は殆どありません。際だってよいのは2000年基準以前でも倒壊又は大破が0%のRC造です。今回の調査地環境(中高層がすくない)、地震動の周波数が理由と考えることもできますがこれは立派です。
地盤・土地に対しての倒壊率の比較
次に阪神淡路大震災や中越地震では、旧河川の埋め立て跡などに倒壊率が多かったとの報告に対して、
今回は旧河川跡地域は倒壊率0%で段丘面に倒壊率が多く存在した地域があることのことです。これは中越沖地震で砂丘地の上での倒壊があったことと同じ、土地の問題が考えられます。
つまり地質・地盤は倒壊に対し一番の大きな影響を及ぼすので出来るだけよい地盤を選び、悪いときにはそれ相応の改良や建物強化が必要という従来の定説どおりです。
2000年基準で倒壊した原因は?
次に2000年の現行基準で建築された木造住宅で倒壊した4棟の詳細調査結果です。
まずその4棟の壁量がどのくらいあったかを示す表で、
他のほぼ被害がない建物に比べ特に差はありません。壁量※以外に原因があったと思えます。
その4棟の仕様と現地調査の表です。※壁量とは耐震壁の量と質を掛けた数値。構造計算しない建物では設計者が必ずチェックする数値。
A-4 の建物は2000年基準なのにホールダウン金物がないという完全に法律違反の建築物です。不思議ではありませんが住宅の業界では当時普通に行われていたと思われますし、現在でも法律を完全に守って建てられている木造住宅は私の見る限り多くはありません。いまだ違法な小屋裏がある建物もあります。
上の構造再現図では矢印のように構造を知っている設計者ではまず行わない耐力壁や柱の位置です。そうしなければならないその他の理由はあるかもしれませんが、不自然な耐力壁の位置が目だちます。これについては実際の設計者・施工者へのヒアリングを実施してほしいですね。そして匿名で結構ですからその結果を公開してほしいです。設計図の保管期間は15年ですからまず図面もあるはずです。
この報告書は90ページで、リンク先を下に記します。建築関係者は一度目を通すことをお勧めします。
http://www.nilim.go.jp/lab/hbg/kumamotozisinniinnkai/20160912pdf/0912shiryou2.pdf