基礎断熱の熱損失評価が約7倍悪くなった・・・が特に何か支障があるかというと・・・実務に影響はほとんどない。評価が変わっただけある。一方既に住んでいらっしゃる建て主さんにおいては全く変わりないという事になるだろう。
もしこれが、
構造に関する事だったら・・・えらい騒ぎになっただろう。
仮に構造の一部材に置き換えて想像してみる。
仮定=============
木造住宅の基礎には、木造部分とコンクリート部分を緊結し地震の力を基礎に流す又は基礎に伝えるアンカーボルトという小さな部材がある。その部品は直径はわずか約12mmで長さ450~500mm程度の細い鉄の棒。これが一般的な状態でコンクリート埋め込まれた時に抜けるまでの耐力が11.2KN/本との規定があるとする。ところが何らかのミスで実はその半分の5.6KN/本の耐力しか無かった事が数年後にわかった。
するとその数年間にその耐力で構造計算した家は、全てチェックをし是正措置を求められることが現在の社会では一般的である。何故そこまで求められるのか?
これは・・・もし建築基準法想定内の地震があったとしても、ある一本のアンカーボルトに10KNの負荷がかかった場合、そのアンカーボルトは抜けて耐力が0になる。0になればその上部の耐力壁が繰り返しの地震力で容易に破壊され、そのたった一つの耐力壁が破壊されたことで、全体の構造バランスが崩れ床梁が外れ床が落ちる事も想定されるためだ。米国で起きた9.11の時に巨大な110階建て高さ500m以上の超高層ビルが、上階(下階ではない)のある一から三層の破壊(全体の3%の階)によって全て崩れる落ちた事を見ていれば、それは容易に想像が付く。このアンカーボルトは建物のごく小さな一部品に過ぎないが、「構造の部品」であるためこのような結果になる。
========仮定終わり
今回の基礎断熱の熱貫流率が実は一桁違う(7倍)ほど熱が逃げやすい事になっても、それに対し改修などする事もないだろうし、求められないだろう。今後寒波や熱波がきても特に今までの生活との違いはないはず。
また当事務所では基本的には行わないが、仮に建築前に以前の熱貫流率を使って冷暖房費のシミュレーションした家があるとしよう。それを新しいUA値でシミュレーションすると年間暖房費が5000円増えることがわかった。だから改修します・・・と言うことにはならないだろう。元々シミュレーションは条件が少し変わるだけで結果は大きく違うことがあり、その条件は住まい方によるため相当曖昧となる。
ここまで書けば悟った人もおおいだろう。
耐震性・耐久性と省エネ性(快適性も含む)とは同列での評価はあり得ない。
必ずどちらが大事かを迫られたときに
耐震性・耐久性>省エネ性
となる。またそうでなければいけないことは上の例で明らかである。何らか人の生命に係わる製造の技術者は、そんなことは承知なので安全性が第一であっても特にそれを明言しないだけである。私が「無難な家」とよく使うのはこのことを表す言葉として最もふさわしいと思っている。
だからいつも口を酸っぱくしてそのことを伝えているし、自身の業務でも構造計算が温熱評価よりかかる労務時間は10倍以上にもなる。それを日々行っているから
耐震性・耐久性(構造計算)>省エネ性(高断熱高気密)
と明言している。事実、私は研究者としての専門分野は環境系であるが、構造関連の方が圧倒的に日頃の業務時間を占めている。
これもよく使う言葉で例えば・・・
安全第一、品質第二というセットが本来の言い回しであるが、この品質第二を明記すると必ず「では品質が悪くてもよいのか?」とクレームがつける考えが一定の割合でいる。しかしその考えは本当の安全性が無い状態におかれた体験が無いのだろう。
これも例えるとわかるが、海難事故があったときに誰を一番最初に救助するかと迫られれば、「子供・妊婦>女性>その他」となることは同意されるはず。全員一斉に助けられれば苦労は無いが、それが出来ないときに必ず選択を迫られるのである。トリアージも同様で生物存続としての命の重さは皆同じではない事を認知しているからである。
本来は体験がなくとも想像力で構築できるのであるが、私も含め体験しないと学ばない人も一定の割合でいる。出来るだけ想像力を働かせ、技術者は建前で無く本質・事実のみが行動の源泉になるべきである。