P-Q曲線って聞いたことあるだろうか?
計画換気において絶対に必要な知識がこのP-Q曲線である。
Pは静圧で縦軸、Qは風量で横軸のグラフをP-Q曲線と呼ぶ。
一般的に換気扇は風量が一定ではない。これは最近は流行のDCモーターを使った定風量換気扇もしかり。ある一定の圧力損失をこえると風量はおちる。
ここで以前のおさらいをする。静圧は圧力である。下にわかりやすい図を置く。
換気扇は圧力がかかると風量がおちる性質があるとまずは認識する。
次に表題の圧力損失について説明する。
細い直径5mmのストローを使って息を吐くと圧力がかかって思うように息が吹き出せない。しかしこのストローを直径が3倍の15mmゴムホースにするだけで簡単に吹き出せ拍子抜けする。このストローの時に圧力損失が大きいと呼ぶ。
ダクトにすると直径の小さなダクトに流体を流すとき、流速(流量)が速くなると急激に流れにくくなる。このためダクト経は出来るだけ大きい方がよいと以前のブログでお伝えした。
実はダクトだけで無くダクト以外に室内の壁天井に設置されるグリルや、屋外の壁に設置されるフードの圧力損失が大きいことは当ブログでは説明していない。
なぜ当事務所のダクト換気の機器がAVH-95を使っているのかは
1.全熱交換率がよい
2.SAにサイクロンフードがある
3.静圧が高い
4.床置きで使用可(メンテナンスが楽)
という理由である。この中で3が今回の主題となる。
まず下のAVH-95のP-Q曲線を見てみよう。
この図も以前のブログで紹介したが、解放機外静圧で最大340Paもあり、一戸建て住宅の全館換気(24時間常時換気)の圧力損失の目安である200Pa時にも170m3/hも風量を確保出来る。これは戸建て住宅用ではなく事務所用で使う全熱交換型換気機器並みに静圧が大きい。
上の最大手さんの住宅用全熱交換型換気システムのP-Q曲線をみると、140m3/h定風量であるが、圧力損失が110Paの超えると風量が落ち始めることがわかる。
このメーカーさんには業務用の全熱交換型換気システムがあるが、そちらはAVH-95より遙かに大きい静圧を出すのに、住宅用となると少し貧弱であるため「緑の家」では使わないのである。その理由が下の圧力損失計算である。
さて実際の住宅圧力損失は如何ほどか具体例で見てみよう。
上の表はある延べ床面積106m2(32坪)程度「緑の家」の換気システムにおける圧力損失計算である。シックハウス法による気積から求めた全体の換気量は145m3/h、一方人あたりの換気量は125m3/h(家族4人+α)なので、大きい145m3/hとなる。この時にAVH-95で問題ないか確かめた。
赤い枠は高い圧力損失部分である。このシステムは第一種熱交換型換気システムなのでファンは2つ有り2経路の損失チェックをする。
まずはOA&SA系経路であり、ここでは比較的大きなチャンバーを使っているので分岐圧損がすくなくなるよう配慮してあるせいか、赤く染まった大きな圧損はない。しかし屋外フードだけでも25Paの圧損がある。一方EA&RA系経路の圧損は赤字で表記された屋外フードとRAの室内グリルが大きな圧損となることがわかる。一つのフードに対し風量がおおきくなりやすダクト式の換気システムはEA&RA系経路の屋外フードが鬼門となることがわかる。またOA&SA系経路でチャンバーを使って分岐しないとOA&SA系経路も圧損が大きくなる。
表の結果をP-Q曲線図上で示すとAVH-95 ではダイヤル4以上であれば問題なく風量が確保出来ることがわかる。このように延べ床32坪程度なら全く無理なくAVH-95で運用できるが、先ほどの大手メーカーの住宅用であると圧損が大きすぎてNGとなり、機器が2台必要となる。「緑の家」ではここ数年、メンテナンス重視で床下に機器を配置するのでどうしても圧損が上がり気味。
今度はすこし大きい延べ床面積160m2(48坪)の建物で具体例を示す。
シックハウス法による気積から求めた全体の換気量は190m3/h(ただしある個室は個別換気)となる。この時にAVH-95で問題ないか確かめた。
まずはOA&SA系経路であり、こちらも比較的大きなチャンバーを使っているので分岐圧損がすくなくなるよう配慮してあるせいか、赤く染まった大きな圧損は屋外の吸い込みフードのみ。これはサイクロン型のフードなので致し方ない圧損ととなる。一方EA&RA系経路の圧損は赤字で表記された屋外フードは少なくRAの室内グリルが大きな圧損となることがわかる。それに対し屋外フードの圧損は20Paと低い。これはフードを125Φから150Φ用に大きくしていることで圧損をさげている。一方RAグリルは190m3/hの風量を4つのRAグリルのみとしているため。ダクトを少しでも減らすために2カ所2個ずつに集約していることが理由である。
高静圧機器は消費電力が大きくなるが、多少の空調施工ミスがあってもカバー出来ることがメリットである。ダイヤルを廻して電力を増やせば風量がある程度増える。一方消費電力が小さい機器は、静圧が低い機種が多く少しの施工ミス、又は外因(埃や目詰まり)があると想定どおりの風量が出せない。それが欠点である。
次にダクトレス換気と呼ばれるシステムであるが、ダクトレスには2つの流れがある。一つは30年以上前からある商品名が「ロスナイ」と呼ばれるタイプ。もう一つは海外品で10年前から輸入され普及した「反転式のダクトレス」である。反転式のダクトレス換気扇が輸入される前は、ダクトレスト熱交換換気と言えばこのロスナイを指す。このロスナイは性能と耐久性において無難で有り、「緑の家」でもお勧めのスタンダートである。
一般的にダクトレスはセットされる純正の屋外フード込みの完成形で有効換気量を表示できるためP-Q曲線が表記されていない。というか必要がないためカタログには記載されていないことが多い。しかしフード付き完成形の有効換気量を明記していないメーカーも有り、心配性の私は完成形の有効換気量とP-Q曲線が公開されている機器を選ぶ。それによるといつも選ぶ機種の通常時では30.5m3/hで、圧損20Pa時に25m3/hの風量となる。有効換気量でも20Pa時に20m3/hであり、ダクトレスでもこのくらいの静圧が出せる機器が風の吹いているとき、多少の目詰まりでも安心して風量を実現出来る。一方P-Q曲線が記載されていない機器、完成時の有効換気量表示がない事は無難とは言えない。
上の表の通りダクトレスでも静圧が比較的高いこの機種は、多少のフィルターのつまり等では影響を受けがたい(つまり無難である)。このように空調設計は結構大変であるが、皆様はどんな理由でどのように換気機器を選んでいるのだろうか。
コメント
いつもブログを拝見させていただき、勉強しています。
緑の家では、avh-95を使用しており、室内グリルは100Φを使用しているのでしょうか?
ケイマック製の100Φグリルはネット検索でヒットせず、最大でも75Φのグリルまででした。
室内グリルは別メーカのものを使用しているのでしょうか?
もし良ければ、グリル形式など教えていただけると幸いです。
>室内グリルは100Φを使用しているのでしょうか?
その通りです。標準が100φです。
>室内グリルは別メーカのものを使用しているのでしょうか?
その通りです。三菱製です。品番は「CFのマニュアル公開」にあるグリルと同じシリーズ(100φ用)です。
返信ありがとうございます。
ほとんどの一種換気メーカは、居室グリルに接続するダクトについて、50Φなどの細いダクトを採用していると思います。
JVIAの住宅換気コラムを読んで、細いダクトのデメリットを理解しました。
何社かの一種換気メーカと打合せをしましたが、100Φで室内グリルに接続する仕様で設計できるメーカはいませんでした。(全て断られました。)このため、自分で設計するしかないと思い、換気の勉強をしております。換気計算をするために、確認したほうが良い資料やマニュアルがありましたら教えていただけないでしょうか?
また、換気設計をするにあたり、必要な資格がありましたら併せてお聞きしたいです。
>換気計算をするために、確認したほうが良い資料やマニュアルがありましたら教えていただけないでしょうか?
先日のメイルで案内いただけた「シックハウス等・・・」のダクト設計やアマゾンでも検索すれば専用の空調設計の書籍もありますので、それらで住宅の換気を学ぶなら必要かつ十分です。
しかし、一戸建て住宅の換気のダクト設計は、専用のダクトスペースや懐を確保できないばかりか、換気空間の把握、面材耐力壁などが構造と密接にからむ場面が大変多くあります。それをできるだけ避けるための手法の一つとして50φという小径配管をするわけです。ですので仮に長谷川様が100φ以上でダクト設計しても、現場ではそれらが通せなくて迂回することで設計と異なる圧損がかかる場合や最悪構造壁を破壊することがあります。ですので全体設計を行う専業の私からすれば、しっかりとした設計者(又は設計事務所)に建物設計を依頼するのが前提だと思っております。その上で空調設計しないと正しく行うことは難しいと思います。
アドバイスありがとうございます。
建築士が換気設計できると、建物全体の設計が可能で施主側としても安心なのですが…
建築士は換気素人で換気メーカにお任せ、また、換気メーカは間取りや施主の生活スタイル等を確認せず、ただシックハウス対策の0.5回/hを確保できるように設計するだけというのが多いと思いました。
それであれば、自分達の生活スタイルを理解している自分で換気設計を行い、建物構造との取り合いについてはハウスメーカと調整した方が良いものができそうと安易に考えましたが、やめておいたほうが良さそうです。
話は変わりますが、給気フードにサイクロンフードを採用しない場合、フィルターを設置する必要があるため、OA部分はEAよりも圧損が高くなりやすい傾向にあるのでしょうか?
また、熱交換器エレメントの損失は無視できる程度のものなんでしょうか?
長谷川様
>OA部分はEAよりも圧損が高くなりやすい傾向にあるのでしょうか?
わかりません。フィルター等によってかわります。目の粗いフィルターなら圧損は少ないですが、HEPAフィルターなら大きな圧損が生まれます。
>また、熱交換器エレメントの損失は無視できる程度のものなんでしょうか?
通常換気機器の性能は、熱交換エレメントやフィルター(標準品)等をすべて踏まえた機外静圧の表示ですから、機器本体の圧損を考える必要はありません。
返信ありがとうございます。
建築素人ですので、ネットなど調べるのですが、換気の件は特に情報が無く、浅間様のブログにて大変勉強になっております。
「建築物のシックハウス対策マニュアル」という工学図書株式会社が発行している資料に記載があります。そこには、「圧力損失が最大になる経路を選んでファン容量を設計する」と記載があります。
もしよろしければ、資料の抜粋を送付したいのですが、私のアドレスにメールいただけないでしょうか?
いつも勉強させていただいております。室内グリル数量が4個で20Paと圧力損失算定表に記載があります。複数のダクトの圧力損失を合計して換気扇の容量を決めるのでしょうか?
1番損失の大きいダクトにて計算し、他のダクト損失は合計しないということを聞いたことがあります。考え方について教えていただけないでしょうか?
長谷川様
>1番損失の大きいダクトにて計算し、他のダクト損失は合計しないということ
多分それは何かの勘違いだと思います。
常用運転時にどの程度の風量が確保できるかがファン選定の基準となります。
もし上のソース元がわかれば私が調べますのでお知らせ頂ければと思います。
浅間様。回答ありがとうございます。
ロスナイのデメリットの騒音ですが、
その対策として、緑の家では、6畳用を2個使用して騒音を抑える
使い方をされていますが、それでも気になるものでしょうか。
8畳に8畳用、10畳に10畳用を使うより、機器の騒音dBは、
6畳用が当然、小さいので、数字上は、うるさく感じないとは思いますが、
こればかりは感じ方の問題ですから、自分や家族が納得できるかどうかの
世界になりますね。
2個使用で、過換気になる場合や寒く感じるときは、シャッターつまみを
「寒いとき」に絞って調整すればよいでしょうか。
形状、こればかりは仕方ないですね。
結露は、当方、6地域に住んでいますが、寒冷地用を使用しても、結露は、
室内RH(相対湿度)の問題なので、結露したら、エアコンなりで除湿する
ということになりますか。
質問ばかりですみません。
AKI様
>ロスナイのデメリットの騒音ですが、
その対策として、緑の家では、6畳用を2個使用して騒音を抑える
使い方をされていますが、それでも気になるものでしょうか。
〇6帖用ではなく逆に10帖用又は12帖用を使っています。個室なら1セット、寝室なら2セットで「弱運転26~27db」です。これでも人によっては気になるそうです。
>8畳に8畳用、10畳に10畳用を使うより、機器の騒音dBは、
6畳用が当然、小さいので、数字上は、うるさく感じないとは思いますが、
こればかりは感じ方の問題ですから、自分や家族が納得できるかどうかの
世界になりますね。
〇大きい機種で「弱」運転が静かです。
>2個使用で、過換気になる場合や寒く感じるときは、シャッターつまみを
「寒いとき」に絞って調整すればよいでしょうか。
〇弱運転では過換気にはなりにくいです。シャッターは目的外なので推奨しません。もし気になればCO2モニターで一度測定をしてご自分にふさわしい運転を取り決め、その時はOFFでもよいと思います。
>結露は、当方、6地域に住んでいますが、寒冷地用を使用しても、結露は、
室内RH(相対湿度)の問題なので、結露したら、エアコンなりで除湿する
ということになりますか。
〇地域区分より、結露は室内RH(相対湿度)によります。6地域でも寒波が来れば外気温が下がり室内RH(相対湿度)50%以上では結露しやすくなります。冬季の結露の原因は換気不足がほとんどあり、換気量を増やして室内湿度を下げてください。
冬季のエアコン除湿はほとんど意味がありませんし、意味あるようなら再熱除湿でも冷気流がおおくなり不快になります。
浅間様
回答ありがとうございます。
質問をしなかったら、失敗するところでした。
お風呂CFや交換できる窓等、新築にあたり取り入れたいと考えていますので、
質問ばかりですみません。
〇6帖用ではなく逆に10帖用又は12帖用を使っています。個室なら1セット、寝室なら2セットで「弱運転26~27db」です。これでも人によっては気になるそうです。
〇大きい機種で「弱」運転が静かです。
次のような理解で良いでしょうか。
6畳用の「強」運転と10畳用の「弱」運転の騒音、有効換気量は同じだが、数字上は同じでも、大きい機種で「弱」運転にしたほうが静かである。
大雑把ですが、仮に10畳の個室で静けさを求めるなら12畳用を2セットで「弱」運転のほうが、8畳の寝室でも12畳用を2セットにして「弱」運転のほうが静かである。
適切な例えになるか分かりませんが、同じ速度でも大排気量の車と小排気量の車では、静かさも余裕も違う、ということでしょうか。
回答ありがとうございます。
引き続き質問ですが、
1 2階でも屋外フードがベランダ等、手が届く場所にあれば、防虫フィルターが
あっても問題なしと考えてよいでしょうか。
2 ロスナイを設置する高さは、仕様書では床面より1800ミリのメンテナンス
可能な位置に設置とありますが、手入れを考えると1700ミリ、1600ミリと
低いほうが便利と思いますが、問題ないでしょうか。
3 三菱のロスナイの利点は、次の点でしょうか。
1.空気を送り出す静圧がもっとも高いシロッコファン
2.エレメント手前に吸気側エアフィルターが、シロッコファン手前に排気側
エアフィルターがあること(シロッコファンが汚れにくい)
3.エレメントの汚れ、シロッコファンの寿命から10数年後にロスナイ本体を
交換しますが、歴史ある製品なので、将来、入手できない可能性が少ない
オーブルデザインの浅間です。
>1 2階でも屋外フードがベランダ等、手が届く場所にあれば、防虫フィルターが
あっても問題なしと考えてよいでしょうか。
自身で管理出来るなら問題なし。そもそも網は取り外し可なので、いつでも外せる。
>2 ロスナイを設置する高さは、仕様書では床面より1800ミリのメンテナンス
可能な位置に設置とありますが、手入れを考えると1700ミリ、1600ミリと
低いほうが便利と思いますが、問題ないでしょうか。
大きな問題なし。低いと邪魔になる、冷気が顔に当たるなどあるが位置による。
>3 三菱のロスナイの利点は、
仰せのとおり。さらに製品改正が行なわれないことの実績が最も利点である。但し将来の部材入手性については今までは問題ないが今後はわからない。
以上です。
デメリットは音と形状が比較的大きい、また室内RH(相対湿度)が高いと表面で結露する可能性が高いことです。
aki様
コメントありがとうございます。
>緑の家では、防虫網無しのタイプを使用されているのでしょうか?
そのとおりです。ロスナイに限らず全ての屋外フードは網無しです。
様々な工務店さんと仕事をすると、たまにわざわざ網入りで施工する電気屋さんがいますが、必ず取りかえてもらいます。
いつもブログを拝見し勉強しています。
三菱ロスナイの屋外フードですが、防虫網付の場合、取扱説明書には、3か月に1度の目安で清掃を行ってくださいとあります。
埃で換気量が減ることを考えると清掃すべきですが、屋外フードの清掃は、なかなか難しいと思います。
緑の家では、防虫網無しのタイプを使用されているのでしょうか?
突然の質問失礼しました。