近年の住宅は燃焼しないIHコンロのシェアーが一定数有り、ガスコンロと違い、燃焼ガスそのものの上昇気流がない時の油煙や水蒸気、煙などの捕集の知見がまだまだ少ない。そんな中で20年ほど前からIHコンロにおける最適なレンジフードを研究している恩師ラボの最新査読論文を紹介する。
先にわかりやすい結果の図を上に載せる。IHコンロは燃焼ガスがないので、上昇気流はないと誤解されがちだが、加熱された水や油などの液体が気化し、鍋で熱せられた空気によって上昇気流を発生させる。よって上方にレンジフードがなければその空間中に速やかに全て拡散される。この凄く当たり前のことを可視化すると上のように見えるのだろう。
特に右の図の横軸の「Turbulent energy」だけでも既に何のこととなる。Turbulentとは流体をかじったことのある人には一般的な「乱流」のこと。
次ぎにこの研究の目的であるが、上の通りで有り研究も長年行っていると細かい点の疑問や修正があったりする。今回は過去に行った実測でIHコンロの水の沸騰時のシミュレーション結果とそぐわないので、その改正を行うべくデータをとり予測精度を向上させることで、とても専門的でありここで取り上げるような実務的な話ではない。しかし、過去20年以上IHコンロと最適なレンジフードを研究され論文も数十も発表されているその実績や経緯から、コンロで燃焼中の流体の挙動の難しさがわかるばそれでよいと思う。(水の沸騰中のその水面は従来の解釈での計算式では再現が出来ないとのことである。もうこの時点で実務から離れ理解が不能な話題)。
実験概要はしたのとおりである。一般的な100度付近での料理を想定している。
上の図3が捕集率の結果である。上昇気流の発生で上方にレンジフードがある有利な場合でも、油の捕集率は94%~95%である。残りの5%が室内に漂いこれが匂いの元となる。この図から水の沸騰時の捕集率が油よりわるく、そのIHコンロのフード設計の難しさを物語っている。一方水ならば室内に浮遊しても室内の汚損などの影響はすくないとおもわれるが、これが油と混じることで誰もが経験しているあの独特の汚れをもたらす浮遊粒子となる。
欧州などではレンジフードのない電気コンロのキッチンが随分前からあるが、彼らの料理はオーブンが中心であったこともあり、長時間茹でたり、魚を焼くような煙がでない料理が中心となる。実は日本でも近年料理法が変わってレンジでチンやレトルトパックを多用した生活をされている人も多い。その時はレンジフードなどなくてもよいと思うが(IHコンロ限定)、個人差があるがやはり匂いは気になる。オープンキッチンほど出来ればレンジフードを800mmまで下げて(下げるほど捕集率はあがるし、IHではガスコンロと違い下限の規定がない)、出来るだけ捕集率アップが望ましいと思う。その際の最低換気量は図3から150m3/h程度あれば82%~94%にもなるので目安となる。レンジフードがなければ料理中の加熱された油や水自体の上昇気流でその空間に匂いと水分が拡散することはあたりまえである。
設計実務者としては匂いなど家中に全く拡散させたくない場合は、独立型キッチン以外、今のところ打つ手無しと解釈している。その一方巷ではレンジフードそのものがない家まである。このあたりは好みの問題だが、日本の文化として匂いはできる限りない方が好きな人が多数か・・・?