
つい先日ある「緑の家」で中間気密測定が行われた。その結果はC値0.1㎝2/m2と大変良かった。しかしその数値を聞いて、逆にある違和感を感じた。
まず冒頭の写真で測定した気密測定の数値は、C値で0.1㎝2/m2である。この数値聞いて違和感を感じた人は相当手練れた高断熱高気密の技術者だと思う。私は相当な違和感である。これは気密測定方法に問題があったり、この施工に問題があることを言っているのではないのでその点は誤解なきように。

通常写真に写っているような気密シートで気密を確保する場合は、この写真にあるように原則は「気密シートの重ね」によって気密を確保する。当然重ねたままであると、その重ねた隙間から空気が漏れるので、気密シートを重ねたところは必ず上から抑える部材を設置する。壁の場合は通常プラスターボードが抑えとなり、下地に胴縁や間柱、柱が来る。この中間気密測定を行った建物は、建物外部に合板を貼ってはいない。もう一度写真をご覧いただきたい。

この測定方法は施工者である大恭建興さんが壁のプラスターボードの抑え無しで測りたいと申し出があったので、別に問題ないとして測って頂いたのである。
壁の抑えのプラスターボードはないが、天井のボードだけはあるという条件。それでこの結果になったと思われる。
気密シートは下地の上で最低30mm以上(通常100mm程度)重ねた上に押し付ける材がないと気密は維持できない。にも拘わらずC値は0.1㎝2/m2と最高数値になる不思議。しかも50Paも減圧しているのに内側に貼られた気密シートはほとんど膨らまなかったと聞いている。つまりこの気密は付加断熱材によって達成している。最近は外側にはる合板で気密を取る方法もあるが、この建物は合板はなく筋かいの建物。よって合板でなく外部に貼られた付加断熱材で気密を維持していると想像がつく。
ここで違和感の答えがでた。
気密性能は↓の2つの意味がある。
気密性能は断熱性を上げるため
空気が熱を運ぶことを対流と呼ぶ。対流は閉ざされた空間の時に一般的に使うイメージがあるが、広義では空気の入れ替えによる熱の移動も対流と呼んでおり、日常生活で最も影響を受けるのが対流による熱移動である。例えば高速道路を走る車の断熱性能は低い。一般的にはボディーの鋼板にわずかに断熱材がつくだけであるが、空調をONすれば氷点下を時速100㎞/hで走っていても車内は暖かい。ところが同じ空調時でも窓を一つ開けただけで外気とほぼ同じ社内温度になる。これが空気入れ替えによる熱移動の一つであり、断熱性能に最も影響を及ぼす。温まった空気が動いて冷たい空気に変わるのでこれを止めるには空気の気密化するしかない。そこで近年の住宅には気密が最も必要な断熱性能になる。
気密性能は防湿性能を確保するため
なぜ室内側に防湿層が必要かを復習すると、当然冬季の内部結露を防ぐためである。35年以上前の高気密高断熱のお手本だったR2000住宅のマニュアルには、わずか4㎝2の防湿層がないところ(つまりポリエチレンフィルムに2㎝角の穴がある)をもつ防湿層では、そこから一冬に入る水蒸気(湿気)の量は穴のないポリエチレンフィルムの10倍に達していたとの実測結果が載っていることから明らかなように、断熱材の室内側には湿気を遮断する層が必須となる。特に充填断熱が繊維系の場合はその重要性が増す。そして湿気の移動は気流でもたらされる量が、気流がない場合より桁違いに大きなる。つまり「壁の中に入る気流がないようにする=気密化する」となる。だから気密シートには気密の役目と同時に防湿の役目があるので防湿シートとも呼ばれる。
さて・・・ここで新たに気づいた人もいると思うが、今回の気密測定では建物内外の気密は測れても、防湿層が機能しているかどうかの気密は測れていない。その証拠に50Pa以上の圧力差(減圧なので室内側に膨らむ)でも気密シート(防湿フィルム)は大きく膨らみもせずそのままだったからである。
違和感の正体は外側ボードで気密が出来上がっていた事
最近は室内のポリエチレンフィルムの気密施工の煩雑さをさけ、外壁下地に建材系合板を全面に貼り、その合板の取り合いを気密テープで覆うことで気密性能を担保する気密工事も見受けられるが、今回の現場でも付加断熱材が同じような外側気密施工になったらしい。しかし付加断熱である板状断熱材に気密テープを貼ったわけでもなく板状断熱材を突きつけ施工しただけだが、これほどの気密性能になることは驚きである。以前同条件で気密測定を行った場合は、盛大に気密シートは内側に膨れ上がって気密数値も測るたびにおちたが、今回は2回目も全く同じか逆によいことから、付加断熱材の施工精度が良かったのだろう。この後内壁ボードを貼れば気密シートを施工しているので、いつもの防湿層が確保できるはずだが、このようなポリエチレンフィルム貼りをやめ、袋入りの繊維系断熱材で行う場合は、室内側の防湿ラインは出来上がっていないので、内部結露(壁内結露)の可能性が高くなるだろうと想像できる。これが違和感の正体だった。つまり外側合板気密では防湿シートの連続性が測れないため内部結露防止が担保できない。

今回の結果を受け、付加断熱を全棟標準採用している「緑の家」では、気密性能は気密シートの重ねが現在多くのマニュアルに記載がある30mm以上であれば十分維持できると考え、また施工ミスが起きにくいようにする観点から今後の防湿層の重ねは200mmから90mm前後(いずれも下地のあるところで)に変更することにした(30年ぶりの変更で2025年6月27日より実施)。尚、市販されている気密シートの寸法から「重ねは30mm以上」との表示より「90mm前後」の表示が打倒だと思われる。