「緑の家」での実施設計の作業は、意匠系と構造系でほぼ同じくらいの時間を使って作成している。しかし神経の使い方(集中力)はやはり構造図面や構造計算を行っているときが大きく、知識と労力をフル稼働させる。
通常当事務所では構造計算と大凡の構造計画のスケッチは市販されている構造計算ソフトで行う。今から35年前はこのようなソフトがなかったので、構造計算は大変だった。この時の大変とは、容易に変更が出来ない事が大変なのである。少しプランを変えただけで、荷重や力の流れが変わり全部計算をやり直しをする事になる。この時に計算ソフトがあれば何度もやり直ししても手計算の1/20以下の労力で済む。そんなありがたい構造計算ソフトだが、入力を間違うと全く意味がないばかりか害になるから慎重になる。
さて本題だが・・・なぜ労力と知識が必要かというと・・・
例えば上の図は太平洋側で計画中の「緑の家」である。日本海側や北海道のように雪が降ったり、台風が来ない地域では、家の構造は地震力で決定される。しかし関東や関西、四国、九州などでは地震より台風の影響で家の構造が決定される。これは何を意味しているのか・・・。つまり地震に対して強い家といっている事はよく聞くが、実際は変形が最高値になる台風時の構造耐力がその家の構造性能を決める建物が日本の半数以上を占める※。特に・・・近年多い片流れ屋根の家は、横から見た投影面積が最も大きくなるので、本来は台風で壊れない家のほうが的を得ている。また当初からそれらを見越して基本プランニングする必要があり、床にかかる応力は、屋根形状に大きく影響されない地震力と違い屋根形状で大きく変わってしまう。※揺れが反復する地震力と違い耐風性は流行の制震装置では効果が薄くなるだろう。それでも実情は風の影響を受けにくい町中の家が多いので台風で壊れる家は目立たない。
そんな床の応力関連で見落としがちなのが・・・点検口、ダクトスペースやパイプスペースなどの床に大きな穴が空く部分の床剛性。上の図でトイレの奥に(矢印)換気用のダクトスペースがあるが、当然この部分は床に大きな穴があいて、所定の床剛性を実際は得ることができない。しかし意匠設計と構造設計を別の担当者が行っていると、多分ここを見落とすだろう。当然、行政の審査機関でもこのような場所は想像できないので見落とす可能性が高い。実際に何度もこのようなプランがあったにも関わらず、質問や指摘を受けたことがない。構造的な床剛性図を書くと・・・
通常は上の図のように他の部分は7.84kN/mとして大きな許容せん断耐力となる中、耐力「0」kN/mとなる。たった1m角だけれどもこの差が大きい時がある。
たぶん「そんなの当たり前だろう」と思う構造系の読者さんもいると思うが、これが、意匠設計する人と構造計算をする人が違うと中々出来ないのである。つまり・・・いつも申し上げているが、設計者が構造を最優先(例えば同じ人が基本設計意匠から構造までこなす)で考えないと関わった誰もが見落とすことが多々ある。構造ソフトを使っても正しく入力できなければ全くナンセンスになる。
コンクリートで作る基礎部分もとても難しい部分。上の図は基礎のかかる最大応力を視覚化した図であるが、巾3.64mの大きな窓を取ると、長期荷重(つまり建物自重など)でとても大きな曲げモーメントがかかる。一方同じ建物でも側面では建物自重などの長期荷重ではなく、台風時にかかる短期荷重で最大となる。更にここで注意することは、内部でも柱間のスパンが大きいと大きな荷重がかかることが上図からわかる。しかし巷の一般的なベタ基礎は、内部の基礎立ち上げ寸法が外周部より小さく計画していることが一般的である。このような事は構造計算を正しく行っていないとわからない事である。
大手ハウスメーカーでも構造最優先が始まっているようでここのブログで取り上げたベタ基礎における配管の貫通部分に変化が出てきている。
上の画像のとおり今までみたことが無い光景がそこにあった。配管が基礎立ち上がり地上部から貫通されている。流石に大手メーカーさんであり、専用のカバーで配管が覆われぱっと見ではわからない。これを外してメンテナンスをしやすくしているのだろう。「緑の家」が20年前から行っている配管貫通と同じことを行い始めた。