平成17年に起こった耐震偽装(姉歯事件)は私たち建築士にもはかりない影響を与えた。その一つが建築士の定期講習である。昨日一日8時間この定期講習で拘束された。
モラルアップに無意味な定期講習
建築士の定期講習は3年ごとに必ず受講し、講習最後に行われる考査で合格しなければならない。これが意外と苦痛なのである。考査には普段の業務に殆ど関連ない所まで問題が含まれるので何の意味があるかと疑問を持ちつつ受けていると、例の表が目につく。
そもそも定期講習はこの耐震偽装によって、国民から見た建築士に対する品格とモラルの疑問を解消するために平成22年に施行された法律である。その仕組みが機能しているかどうか、有益かどうかは12年間のデータを見ればわかる・・・ということで例の表となる。この表で文章による懲戒処分は平成29年あたりにその取り扱いが変わったとのことでこれを除いた人数のデータをグラフにすると・・・
耐震偽装が行われた平成17年から数年はその影響(見せしめ)も有り増えているが、その効果?で定期講習会が施行されるまでに少なくなり、講習会が行われると逆に増えているように見えるのは私だけだろうか。ひいき目に見ても耐震偽装が発覚するまえより定期講習が始まってからの人数のほうが少なくなってはいない。つまり・・・定期講習は建築士の品格やモラルの向上には効果的ではないと考える方が妥当。無駄な講習会で考査まで行っても効果が無い。それより処分の厳罰化が明確化になったH20 ~H22のほうが効果がありこの方向に行政の舵を切り直すほうが良いだろう。つまり定期講習は廃止にして、法令違反には厳しく対処した方が効果があるので定期講習の即刻廃止を願う。
改めて工事監理について
普段建て主さんが気にもとめない工事監理については良い説明がある。下はその抜粋。
一般的な住宅には「建築主が」工事監理者をたてないと施工が出来ない決まりとなっている。住宅の場合その殆どが建設会社さんの選び推薦した同社社員の工事監理者となる。しかしその場合であっても、法律のたてつけは上の通り、「その者の責任において」とある。つまり工事監理に何か不法行為があればその責任はその者個人にかかる。会社から仮に法律違反をしろとの指示があっても最終的にはその者である工事監理者個人の責任が問われる。このことはレオパレス21事件でも明確になった。会社の指示で行われた不正な工事監理の責任は個人の建築士に及ぶのである。つまりその会社を退職しても個人責任は続くのである。
踏み込んだ内容で大丈夫?
講習会の良いところは最新の情報を得る機会が強制的にあるところだろう。と同時に最新情報は法律で明文化されていないことが多い。例えば・・・
テキストには気密性能に関する上の文が載っている。
省エネ法から派生する国交省がまとめた断熱気密工事では、気密性能の規定や目指すべき気密性能も表示されていない。しかしこの定期講習のマニュアルにはC値0.5cm2/m2程度と数字による目指すべき気密性能がある。1999年省エネ基準が廃止された事に対する問題点をさらっと指摘しているようである。私もこの数値基準は大賛成であり、「緑の家」でもなかば0.6cm2/m2以下を義務づけている。一方公の講習が使うテキストとしてこのように踏み込んだ内容でも良いのかという疑問もある。
中古住宅購入は2003年以降が最低の条件
近年空き家が増えたことで比較的安価に中古住宅が手に入る。しかし安易に中古住宅を購入すると、耐震補強を考えた場合建て替えた方がよく、解体費用分を考えると良い買い物とは言えないと感じるだろう。
木造住宅の耐震性は2度の大きな変革があったが、現在の基準のベースは2000年に施行された耐震基準である。これ以前は、耐力壁も軸組接合部も甘く基礎は鉄筋が入っている事も義務では無かった(無筋基礎でもOK)。つまり2000年以前の中古住宅を購入して現在と同じ耐震性にするには、基礎からやり直しする必要がある。こうなると建て替えることと変わりなく家にはほぼ価値がない。一方2000年以降でも初期にはまだ新耐震の設計・施工が甘く、世の中に広く伝わったのが実務者からみると最低でも2年経ってからである。よって耐震性を基準に選ぶなら2003年以降の建物がよく、出来れば長期優良住宅認定の建物が安心できる。当然長期優良住宅の認定が行われた2009年以降の建物であるから中古住宅といっても12年以上経た建物は、何らかの耐震性の手直しが必要になるであろう・・・という内容で表が上の通り示されているのが良い。
最後に繰り返しであるが、よいこともあるが8時間も大事な時間を拘束され、しかも考査まであるのにその効果がない講習会は見直しされるべきである。