S造の中に置いた断熱材でできた箱が事務所になるわけだが、この箱はおいてあるだけで自立は考えずあくまでも鉄骨の内装となる。厳密にいえばS造が外側の梱包材でこの内部の断熱箱は本来の目的物=快適空間装置である。
天井の断熱材を貼る前に断熱材の支えとなるこの箱にかかる水平力を鉄骨に伝える加工をしなければならない。XY方向で水平力を分解して東西方向は天井部分で鉄骨に伝えることにし南北は壁面から鉄骨へ計画した。支える応力はQEi = Ci × ΣWi とすると、 積載荷重を必要としないΣWiはほぼ合板と断熱材の重さと柱上部、梁 だけになるので、ΣWiは17KN、Ciを0.24と仮定するとQEi =4.08KNとなる。つまり420㎏程度の力でほぼ変形せず鉄骨造へ受け渡せればこの箱が壊れる事はない。今回は木材で伝えているがこの程度の応力であれば木に変えてダンパーのようなもとすると制振にもなる。
着々と工事が進みいまや内装は断熱材がそのまま室内の内壁になるところを施工し銀色の光る壁となっている。なかなか前衛的な内装で私はお気に入り。しかしこれはあくまで事務空間だけで、優しい空間をめざす「緑の家」の接客空間はその上に無垢ボードが貼られる予定。
前にもお話ししたがこれはコスト削減のためであり、内壁は現在必要なく事務所に最低限必要なのは壁とは、シェルター機能でありそれは快適性の確保だけである。実際にこの断熱ボードは手荒に扱うとすぐに凹み跡が残るが、決して破壊はされない。相当の衝撃が加われば貫通した穴があくが、60mmもボード厚があると3mmガラスよりその点では確実に強い。これは両面に貼られるアルミ箔付きの紙による。このアルミ箔が本物かどうかは燃やしてみればわかる。
直接火をつけて燃やすと紙部分はすぐになくなるが、アルミ箔は思っていたよりしっかりしており、紙を挟んでる両面のアルミ箔はこのように残る。金属膜はわずかでも湿気を遮断するので厚さによるが樹脂フィルムよりは効果は高く、通常の環境下では耐久性も高い。
さてこの入子のような建築計画は過去に多くの諸先輩がつくられており決して初めて試みではない。しかし時勢がリノベーションを必要としており更に今後は必ず長期維持可能な内容を必要とするだろう。だから今回の入子は従来の箱の中に箱を作るような主旨ではなく、金額金型における「入れ子」の主旨である。金属金型における入れ子とは、「入れ子とは、金型の歩留まり・金型の加工性・不良防止のために一部分だけ取替可能な別部品を指す」とあるように主型をメンテナンスするのではなく、主型の中にある一回り小さな型だけを取り出してメンテナンスし、費用や主型のメンテンナスを削減し長期使用を安価で可能にする方法である。その入れ子でお勧めできる建築バージョンが今回のS造の入れ子なのである。木造のリノベーションだけでは今後の長期維持(耐久性とメンテナンス性)は難しい。木造はその躯体が木である以上カビの問題が根本的に解決できないので、どうしても古い家はカビ臭いところからの脱却が大きな課題。その点S造であれば躯体はカビることはないので、ある程度内部(これを入れ子の内部型と見立てる)を空っぽにすれば新築同様のカビのないところからスタートできる。当然込み合った住宅地(都市部)では難しいが、もしS造の中古建物があればそれをリノベーションする方法として今回の方法はお勧め。当然新築S造で最初から行えばなおいいだろう。だだっ広い倉庫風に安価にS造でつくり内部に断熱材で箱を作ることは、30年経ても断熱性能と雨風や地震被害を防ぐ安全性能を別にメンテナンスできるし、何しろ日本の梅雨気候においてカビ臭で建て替え動機になる問題が解決できるである。浸水時もS造のほうが躯体がカビることがないという精神衛生上もよいのである。