昨日新潟市の東区月見町に建築中の「緑の家」の検査に伺ってきた。あいにく新潟市は雨確率100%であり、一日中雨の予報。それでもIphoneを見ながら雨雲の少ない時間を選んで伺った。
すると外周回りをチェックしているときには小雨から霧雨で、月見町の家の大きな屋根と合いまりほとんど濡れることなく検査が行えた。これは晴人間というより科学の勝利。
検査は良好であり今回も連続パーフェクトだと思われたが筋かいの材で「解釈違い」で2本の交換となったが、いずれも確実アウトという感じではなくもう少しというくらいの差である。仮にこのまま使い大きな力が働いてもここで折れたりすることはないと思うが、念のためという感じである。
次の工程は耐力壁の合板のほうの検査だが、今まで合板へ打ち込む釘のめり込みがなくパーフェクト施工だったのはこちらの大工さんと熊本の家だけであった。全国で様々な施工者さん(大工さん)とお仕事させて頂いているが、そのほとんどで合板の釘がめり込みことで耐力不足という事を経験している。建て主さんは信じられないかもしれないが、これは事前にどんなに注意喚起しても必ず起きる。ここまであるという事は、以前紹介した下地の固さ以外に何らか作り手(大工さん)側に事情があるのだろうと察するので、想像してみた。
作り手(大工さん)さん側に立場を移すとその気持ちがわかる。作り手(大工さん)は必ずと言ってよいほど釘で打ち込まれた合板を壊す・・・いわゆる解体することがあり、大工さんなら一度はだれでもバールを持って合板による壁や床を壊している。その時の体験が釘打ちをめり込まで打つという感情を支配していると想像できる。
私は設計者としてだけなく、実際現場で自身の手で施工したり、特には研究論文を書いた経験のある設計者という特異で特殊な設計者である。一般的な建築設計者は現地で作り手(大工さん)から様々な話を聞いて設計に生かしたりするが、私は自分の手で実際につくってみて設計に生かすし、データから読み解くこともする。例えば実際上の写真のように「て・こあ」では一部屋と階段を自身の手で刻み作ったし、下の写真のようにotomo vie centでの解体は、ほぼ一人で全て行っている。
そんな私が解体でわかった事・・・それは合板は釘がしっかり打ち込まれているほど解体しにくいという事。これは間違いなく自身で壊したことがない人にはわからない感情。しかもその感情が釘をめり込むまで打つという理由に大工さん自身でも理解していないことが問題で、だからこそ構造設計も工事監理も施工も自身で行う特異な設計者だからわかるのであろう。
「えっ、では釘はめり込んだ方が強いのでホントはめり込む方がいいの?」
となると思うがここが構造設計もしており研究者でもあったからわかるポイント。
合板を剥がすという事は合板に対して手前側に力を加える。つまり釘を引き抜こうとする方向になる。だから釘が木に深く打ち込まれている方が釘が抜けにくい。仮に合板から釘の頭が外れても(パンチングシェア)バールを使って釘を抜くことが壊すことなので深く打ち込まれている釘程やはり壊しにくい。この感覚が大工さんを錯覚、混乱させてしまう。
地震時に合板による耐力壁が受ける力はベクトルが90度違う。上の図をご覧いただきたい。人が合板を破壊するにはピンク色の手前方向のベクトルで力を入れるが、地震など水平力が働き合板に加わる力は青色のように90度違う角度。この角度で大工さんは合板を壊したことがないから、釘がめり込んだ方が壊しやすいと想像できないのである。この地震時に釘に働く力は「せん断力」が主となりそのせん断力を生み出すのが釘の引き抜き抵抗力である。一方合板を大工さんが壊すときには釘の引き抜き力「摩擦力」のみとなるので、釘が深く打ち込まれている方がより抜けにくい。この体験からどうしても釘をより深く打ちたくなるのである。これで釘が深い程強いと錯覚しているのである。
地震時に働く合板の力は青図だから、このように壊して大工さんが体感してみればどうかと思う方もいるだろうが、地震力と同じベクトルでは、合板を壊すことは合板の釘を引き抜くより比べ物にならないほど大変である。だから実際に現場で行われることはないから誰も想像できない。
私は20年ほど前は研究者として大学に在籍していたこともあり、またその前は開発者として耐力壁の破壊試験にも携わったこともある特異な設計者である。だからこそこのような想像ができるのである。したがって今度はこのような理屈をつけて大工さんにお願いしてみようと思っている。大工さんの多くは、根拠があれば納得する方が多いので、「闇雲に釘をめり込ませると耐力が落ちるよ」というより、「耐力壁の釘が受ける力が横からなので、めり込ませないほうが強い」と伝えてみることにする。