換気機器の選定について以前から「換気は難しい」と伝えてきたが、やはり30年近く換気に携わっても難しいと思う。特にダクトを使った第一種機械換気は難しいと実務者として純粋に感じる。今回の記事は一般読者さんにはわかりにくいかもしれないが、様々な意味で換気は難しい。
最初に公的な書物によるよるダクト換気の設計手法(戸建て住宅)を案内する。その書物は相当古く、上の写真の平成15年に発行された「建築物のシックハウス対策マニュアル」になる。編集は国交省でありまぎれもなく公的な教科書である。執筆者もそうそうたるメンバーでありそのマニュアルのP252に換気装置の選定方法が18行で記載されている↓。
何が難しいのかの説明の前に、このマニュアルには換気設計例があるが2020年に起きた感染症の流行で価値観が少し変わったことを記載する。
COVID19の感染症が流行したことで換気の効率を目視化できる二酸化炭素濃度計が一般の方にもよく売れ、そのため換気の大切さが一般の住人に知れ渡るようになった。例えば飲食店でも「CO2の濃度が1000ppm以下なので換気がされている」といったように、CO2濃度が外気に近ければ近いほど多くの換気がされていると周知され、大体のCo2の上限が1000ppm程度であることを多くの人が認知しはじめた。私はこのCOVID19が始まる前からこの1000ppm程度を目標に換気設計を行っていたが(シックハウスも含め)、住宅内で最も換気が悪くなる大人2人が使う寝室で1000ppm程度にするためには、外気を50m3/h程度給気しなければならない。ここまではほとんど人が同意できることだと思う。しかし当時のこのシックハウスマニュアルの標準的な計画では、寝室は20m3/hになっており、この数値では1人でもちょとすくない感じで、運動量によっては1000ppm近くに達してしまう換気量である。当然来客時はまた違う評価になるが、生涯で一番長く使用する寝室の換気はもっとも大事であると私は考えている。つまりSAの風量は各用途(人数)によって変わることが前提としている。
当時この国の総力をかけて造ったシックハウスマニュアルをもってしても、現代の換気計画の状況に合致したことでなくなっている点もあることをまずご理解いただきたい。
さてそのダクト換気の設計手法であるが、現在は建築研究所のHPにその設計方法が記載されているが、上で紹介した内容とほぼ同じでありそこに記載されているフローを載せる。
さて本題だが、
上のようにダクト換気装置の決定方法として、最も圧力損失が大きくなる経路見つけ出し、その圧力損失の時にその家の換気総風量を出せる換気装置を選ぶこととなっている。しかし「緑の家」ではこの方法だと間違った換気装置を選定することにもなるので、以前から紹介している選定方法としている。なぜ間違った選定方法になるかというと、上の方法で行っても実際に現地で風量を合わせることは困難。そもそもであるが、この方法は先の図の通り、
チャンバーの分岐から先がほぼ同じ吹き出し量となっている場合で且つその経路のダクトに大きな圧損の違いがない場合である。ところが、「緑の家」の換気計画の場合は、換気ファン機器は床下に設置しており、さらにCo2濃度が上がる寝室を中心に換気量を増やし1000ppm程度抑える計画をしている。よって下図のように細長い家があった時に換気装置本体から最も奥に寝室がある場合も多い。
その際、先ほどのマニュアルの機器選定方法ではこの寝室の圧損時に全体の風量が出せる機器としているが、仮にこの60m3/hの経路の合計圧損はZとなるとして、実はこれが「緑の家」では最も大きな圧力損失になることはないと考えている。それは次のとおりである。
理想気体で細かい損失を無視すれば空間内圧力が一定なら風量は吹き出し口の面積に比例するが、個室30m3/hで寝室60m3/hでは圧力が一定なら、個室は寝室の開口部の1/2にしなければならい。しかしこのダクト計画では拭き吹き出し口直近の圧力は寝室のほうが圧損が大きいので下がる。つまりこのダクト系で個室30m3/hから寝室の1/2の風量を出すためには、開口部を必ず1/2よりさらに小さくする必要があり、実際は寝室給気口の1/10以下のわずかな隙間まで開口部を絞ることになる。開口部を小さくすると何が変わるか・・・簡単である。その経路の圧力損失が上がり、風量が落ちるのである。つまり寝室の60m3/hの半分にするためにはSA等圧チャンバーから寝室へのダクトおよびグリルの圧力損失Z
に加えさらに30m3/hに減らすための損失αが加算されることがわかる。何度も繰り返すが上図の計画の場合、一番圧損の高い寝室の圧損よりさらに多くの圧損をかけないと個室の風量は1/2にはならないと考えている。よって機器を選ぶときには一番圧損のかかる経路だけではなく、一番圧損のかかる経路と最も風量が小なる比率を算出し、チャンバーまたは機器から先にかかる一番圧損のかかる経路の圧損にその風量比率の二乗をさらに乗じた数値に機器の吸い込み側の圧損を加えた合計圧損(Z+α)で送風量が出せる機器を選ぶ必要があるとの考えである。
これは公的なマニュアルに書いていないがこの方法で選べば機器の機外静圧ー風量で選んでもまず機器能力不足にならない。「緑の家」ではさらに施工のミスなどを考えて、また換気計算が簡単になるように給気系全圧損時の風量で機器を選択していたが、これからの選定は合理的にした図のとおり・・・
AとBの風量比率でBの実際の圧損を想定して圧損の割り増しαをおこなう。この時に使う圧損は、チャンバーのような等圧装置が経路にない場合ではSAなら機器から先の合計。チャンバーがある場合はその先の圧損の合計となる。この方法であればどのようなダクト経路を組もうとも吹き出し口に可変の風量口(可変する圧損だからZが最大ではない)をつけることでほぼすべての風量調整が完成後に可能※で、またダクトの送風機器選定を合理的にかつ能力不足にならないような選定が可能になる。
※あまりに風量に差がありすぎる場合で、グリルの調整口だけで調整すると風切りノイズが大きくなるので注意が必要。
αを推定するに計算では、ある管を流れる流速と圧力を表すベルヌーの式が便利。ベルヌーイの定理は流体の圧力を p [Pa]、密度を ρ [kg/m3]、流速を v [m/s]、高さを z [m]、重力加速度を g [m/s2] 流量をQm3/s、圧力損失をΔP[Pa]とすると、以下の式となる。
p1+0.5ρv1^2+ρgz1=p2+0.5ρv2^2+ρgz2
この時気体は軽いので住宅内の上下高さρgzは無視して考える。
すると
p1+0.5ρv1^2=p2+0.5ρv2^2
次に流量は流速と断面積であらわされるから
v=Q/Aとして上の式に入れると
p1+0.5ρ(Q1/A1)^2=p2+0.5ρ(Q2/A2)^2となり整理すると
p1+(Q1/ A1)^2=p2+(Q2/A1)^2でp1=p2としたとき
(Q1/A1)^2=(Q2/A2)^2となる。これはQ1= Q2(A1/A2)となり管内の圧力が一定の時には流れる流量は断面積に比例することになる。
またΔp=(ρv^2)/2であるため、Δp=(ρ(Q/A)^2)/2からQ=A/ρ(2Δp)^0.5
で換気程度の圧力下では空気密度は変わりないとすると、一般的には流量は圧損の平方根に比例し、圧損は流量の二乗に比例する。多分これで間違いないと思うが・・・。
そのように考えるとダクト設計によっては換気にかかるファンの消費電力も減らせることがわかる。風量の最も大きくなるSAをできるだけ機器側にすることで、全体の圧損を減らせ、結果消費電力も下がる。しかしそのためにメンテナンス性や空間利用に制限があっては意味がない。やはり今まで通りの全圧損で決めたほうが安全性が高いのか・・・とても複雑だから難しいのである。