
この12月から国は一次エネルギー消費量は等級7,等級8を新設する。等級7は基準値から30%以上削減(BEI≦0.7)、等級8は35%以上削減(BEI≦0.65)となり、従来の最高等級である等級6(20%削減)よりも高い省エネ性能を要求される。このBEIが殆どの補助金の基準となる大事な数値。しかし大事な評価値が省エネという大義に矛盾するので、早くこの算定をやめるほうが良いと考えている。
そもそもこの一次エネルギー消費量は原則Webプログラムでしか計算できず、その算定プログラム自体は手元にダウンロードできない。そして度々バージョンアップされるので、過去プログラムは一定期間を経ると消えてもう使用することは不可能になる。しかしこの一次エネルギー消費量算定は、現在確認申請時の必須になっている(平屋等除く)。そのため例えば当初効率の高いエコキュートを使用して計算して確認申請を取得した後、7年くらいたってエコキュートが故障した時にやっぱりガスの給湯器が使い勝手がよく壊れにくいという事で、ガスの給湯器に変えると、これは確認申請後の仕様変更で一次エネルギー消費量が増え変更審査を受けなければならないかもしれない。その時に当時計算したWebプログラムが無ければどのようにして一次エネルギー消費量の計算を行うのだろうか?変更届を出さなければ、既存不適格建築物ではなく基準法(省エネ法)違反になるかもしれない。
さて今日の本題はこれではない。補助金のためにBEIを0.65以下にするべく一次エネルギー消費量を算定するために様々な条件で入力をしてみると、前から変だと思ったがいよいよイライラが募ってきた。
そもそもこの一次エネルギー消費量を算出する目的はAIによると
一次エネルギー消費量の目的は、建築物の省エネ性能を評価・比較し、より少ないエネルギー消費で快適に過ごせる建物の普及を促進すること。
Google AIから
その手段として高効率で且つエネルギー消費量の少ない家を建築する事になるが、どうもこのBEI評価に納得がいかない。またBEIをAIに聞くと
BEI(Building Energy Index)は、建築物の省エネ性能を評価する指標で、設計一次エネルギー消費量を基準一次エネルギー消費量で割って算出されます。BEI値が低いほど省エネ性能が高く、BEI≦1.0が新築建物の省エネ基準に適合することを意味します。例えば、BEIが0.8であれば、基準値に比べてエネルギー消費量を20%削減できていることを示します。
Google AIから
とあり、省エネ性を評価すると聞くと、BEIの良い家が一次エネルギーを使わない(少ない)ような錯覚をするがそれは違う。
例えばある「緑の家」でシュミレーションすると、一般的な区分けでは下のとおりとなる。

BEIが0.64となりギリギリで等級8を取得できる。しかしこれは寝室(個室)を主たる居室と区別して別に冷暖房する場合であるが、「緑の家」では寝室や個室に循環ファン(CF)をつけて且つ各個室に冷暖房設備がなく洗面所においてあるエアコンで家の各居室を温めているので、現状とはちがう。現状に即した条件で設定しなおすと、下のようにBEIが0.64から0.61に下がり等級8を余裕で取得できる。

この2つを大事なBEIの所だけ抜き出すと・・・
左が「緑の家」の現状に即した家中の居室を冷暖房する計算で、右が寝室や個室は主たる居室の暖房機器とは別の冷暖房機器で冷暖房する計算。それ以外はほぼ同じ家の条件である。問題は・・・設計一次エネルギーである。設計一次エネルギーとは、想定された家でどのくらいエネルギーを使うかを計算したもので、基準エネルギーとはその家の標準となる消費エネルギーになる。上の結果のBEIは左側が優れているが、実際つかう設計一次エネルギーは左側が67GJで右が59.8GJなので10%も多く左側の家中の居室を冷暖房する家が多く使っている。しかしBEIは左のその家の方が良い・・・となる。このからくりはピンク色の枠の基準一次エネルギー消費量にある。BEIの分母になるこの基準一次エネルギーが多ければ実際使う設計一次エネルギーが多くてもBEIが良くなるのである。確かに効率を考えればその通りだが、省エネとはもともと「できる限り消費するエネルギー総量を抑えましょう」であり効率よく減らしましょうが最大の目的ではないはずである。もっと極端にこのソフトを使うと、家中暖房(セントラル冷暖房)を行ってもその機器の効率さえよければBEIが下がる。つまり家の大きさが同じならばその家の消費量が多くなろうと、お金をたくさんかけてよい設備機器を沢山いれたほうがBEIが下がり、その結果で補助金がもらえるという事になる。ここが設計者として何かがおかしいと思われるだろう。確かに良い断熱性能や気密性能の家は次世代にまで価値が続くと思うが、設備機器は10~15年で入れ替えがあるので、永続的とは言えない。しかし私が問題にするのはそこではなく、このソフトの主たる居室とそれ以外の居室を分け、また家中暖房するかそれとも部分暖房するかを分けることに意味がないことが最大の問題であると思っている。なぜなら・・・
まず第一に断熱等級6以上であれば、普通は家中冷暖房する。わざわざ仕切りを設けて冷暖房することは少ない。そもそも仕切って別々に設備機器を入れるほうが勿体ないと、ほとんどの施工者、設計者で理解し始めている。次に、このような断熱等級6以上の家で部分暖房したなら、暖房していない場所(押し入れ、収納、廊下、玄関、脱衣所、風呂)で結露やカビが発生して家の寿命が著しく短くなる欠点を生む。これは建築で環境工学を学んだ人や、建築士の免許を持っているならごく当たり前の常識。
つまりこの一次エネルギー消費計算プログラムはこの4月に法律が変わり断熱気密が義務化になったこと、及び一次消費エネルギーの等級7,8が施工されたにも拘わらず部分暖房による家のリスクを無視した耐久性との矛盾がとうとう公になったと断言できる。
その2でも申し上げたが下の居室のみ暖房するか住戸全体を暖房するとの設問が必要ない。

また下のような「主たる居住とそれ以外の居室と非居室で構成される」か、「それ以外の構成」との設問も等級7以上の住宅なら必要ないだろう。家中冷暖房が前提ならこのような設問の意味がない。そのうえなんと「それ以外の構成」を選んだほうがBEIが上がるのである。

では「それ以外の構成」とは何か?具体的にはワンルームのような家のことである。つまり主たる居室と居住部でない空間(トイレやお風呂など)しかない家のこと。主たる居室に欄間でつながる居室であれば主たる居室に組み込める。
そしてこのように条件設定すると、基本一次エネルギー消費量が増えてBEIが下がり補助金のハードルが下がる。当然基本一次エネルギー消費量が増えるということは、たくさんエネルギーを使う家となり、これって断熱性を頑張って上げなくとも、たとえ実際使うエネルギーが増えてもワンルームに近い家を作ればBEIは下がり補助金OKということにある。
「緑の家」では、エアコン一台で家中暖房が実際行われるため「それ以外の構成」の条件に当てはまる家も多い。そこに家中暖房を選べば最強でBEIが断熱気密のレベルが低くても0.65以下になる。だからハウスメーカーさんなどではそのような家を等級5~6くらいの断熱性で作ってBEIを0.65以下にして補助金を取得している可能性がある。この納得いかない一次消費エネルギー評価をやめ、旧Q値のように換気と断熱性能の高い低い、夏季日射遮蔽だけで性能評価すればよいと思う。
最後に等級7をクリアーする「緑の家」でも家中暖房の選択は選べず、下のように「居室のみ暖房する」を選びエアコンも選べずその他の暖房設備を利用するを選んで「床下エアコン」と記入することを審査機関から要求される。これに関しても一次消費エネルギーをやめればすぐに解決する。



