2017年 建築学会の論文梗概集3 
YUCACOでカビの伸長を確認

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オーブルデザインでは、殆どの設計者が取り上げない建築学会の論文についてご紹介しております。特に今回は住宅の省エネ・床下暖房・環境分野では第一人者のグループの論文から・・・。

学会の論文なので、設計実務者の規範となる法律で定められた内容ではない。その点は注意してご覧頂きたい。

YUCACOといわれる床下をチャンバーとする全館空調した家で、梅雨期のカビの調査が行われた。

題名はYUCACO「で」・・・なぜか?

この梗概論文と同じ筆者の博士論文では「今後の展望」において埃やメンテナンスなどが指摘されていましたが、高湿・カビ問題は予測はされていなかったと読み取れました。しかしその論文発表の数年後には高湿=カビの問題が浮上したのか?理由は不明ですが今回の実測調査になったようです。

今回の論文筆者代表は、ここで紹介した論文の筆者で井口博士

さて今回のこの梗概論文では

赤字線は僭越ながら私がかき込んだ。

その調査概要によると、

夏期冷房時の最大RH(相対湿度)は71.4%なので基本的にカビの心配はない。これは「緑の家」でも住居者に常時RH(相対湿度)が70%を超えないように、床下エアコンの除湿運転をお願いしている。これと一致しているので私が「緑の家」オーナーさんに申しあげている事柄の裏付けが取れたとも言え、安堵している。

一方今回の論文のテーマでは、梅雨時のエアコン停止時の床下環境であるが、送風ファンが回っていたとしても、UBの下辺りにカビセンサーの伸長がみられたとのこと。

実験棟ではなく住んでいる方がいらっしゃるのでより現実的、しかし強い表現が避けられる配慮はあるだろう・・・と付託して読むと・・・

最後のまとめには・・・

赤字線は僭越ながら私がかき込んだ。

以下は持論なのでこの論文だけにに対する意見ではない事を予めお伝えする。

赤下線の①で

これは「緑の家」では常識。一昨年からは通風用の網戸さえオプションに降格させた。さらに昨年も通風が高湿をもたらす論文が学会で発表され・・・今や当たり前の事。

赤下線の②で

そのとおりで梅雨時は外気のほうがリスクが高いが、外気はRH(相対湿度)が上下するのでそうとも言い切れない地域の床下空間もあるだろう。

しかし・・・

しかし・・・実測地である三鷹市はヒートアイランドまたは内陸気候の影響で新潟市よりRH(相対湿度)変化が大きく、露点温度も西日本と比べ低い地域。にも拘わらずカビセンサーが伸長した事実・・・これは温暖地で基礎断熱を行う設計者はしっかりと受け止める必要がある。

赤下線③で

浴室の床下だけで見られた・・・とのことは結果として設計者が受け取るには時期尚早とおもわれる。

今回は一年だけの梅雨の実測。年によってはもっと周囲環境が悪くなるかも・・・。加えて窓開け=大気になるので三鷹市という地域が、他の地域と比較したときにどの程度大気中のAH(絶対湿度)がある地域か・・・。

またカビセンサーだけのことではなく、実際の住いではカビは時間経過と共にリスクがふえる。これはカビが生長しがたい強アルカリのコンクリート上に埃がたまり、これがカビセンサーと同様にカビの温床になる可能性が高い。また実測建物は築年数も数年へており、基礎からの水分放出が低いにも拘わらず伸長してしまったという事実に対し、私は衝撃を受けた。

特に・・・

常時換気扇の小風量空気(100~160m3/h)を床下に循環させる工法と違い、その10倍の風量(1200m3/h)を常時循環させるYUCACOシステムでさえもカビセンサーの伸長がみられた(エアコンOFF時だが)・・・これは、床下空間を積極的に空気循環通路として(床下暖房)行う人たちに大きな衝撃を与えるだろう。

また・・・

UB下温度だけ他より低い温度の原因を調査するとあるが、

床下の高さが40cmくらいしかないUBの床下は、更に低く20~30cmくらいではなかろうか?また配管やUBの足もあり、↑写真を見れば一目瞭然!とても人が入られる空間ではない(ルンバもね)。だからこそ、「緑の家」のようにUB下であっても人がしっかりと入られる高さ50cmほど取るのである。空間が狭くなれば、対流の抵抗も増え、空気の循環が滞ることで空気温度も低くなりがち。特に基礎内断熱のスラブ温度実測をすれば、外周廻りの温度が中央部より数度低いこともあり、実測された住宅でもUBの位置は出隅部分と一番温度がさがる位置。だからこそ温度が下がり、境界部分ではRH(相対湿度)が85%を超えるのである。しかもこの出隅部分は数年後の地盤温度安定期でも外気に影響を受けやすい部分。

床下内の温度計測で最も重要な部分は、建物出隅のスラブ温度である。

床下内のAH(絶対湿度)は殆ど変わりないが、スラブ温度又は周辺の部材の温度は低い時期が長い。だからRH(相対湿度)が高くなる事は想定内のこと。そこにカビが生えるのである。通常床下の上下左右の中央部にカビが生え始める事はすくない。

もう口を酸っぱくして言っているが、床下暖房という事を温熱環境の方面からだけに限定して軽く考えずに、長期的な空気質、メンテナンス性など慎重に考えれば自ずからわかる事。床下暖房をする基礎断熱の床下空間は、人がメンテナンス出来なければ「現代の開かずの湿気た押入れ」と同じである。

この研究グループでは、どこにカビセンサーを設置すると危険性が高いと知っていたにもかかわらず、その危険性の高い場所(UB下)に果敢に設置した事は、研究者としてごく普通の行為であるが、一方ではシステム提唱者としての責任もある事を踏まえると大変立派であり、敬意をもって拝読しました。

今回の論文も重要で且つ公共性が高いので全文を↓におく。ご興味があればどうぞ。

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