今月の査読論文は読み応えあり・・・。
最初はこのタイトルで
「繊維系断熱材中の真菌移動性状に関する基礎的研究」
です。ファーストオサー(first author)は山田裕巳博士(長崎総合科学大)です。
ところで今回この査読論文集で気づいたのは、本文以外の図や表の説明文字が全て英語になっております。今までは日本語表記も時々あったのですが、どうも統一されたようです。多分・・・本文は文字認識で自動翻訳する事ができるのですが、図に埋め込まれた文字は無理でしょう。ですので図から国際標準化なのでしょうか。
まず先回のペットボトルの蓄熱が実測された原文論文の問い合わせがあります。そしてお読み頂いた感想は・・・多分好評でしょう。
住宅の環境系論文は身の回り事であまり現実とかけ離れておらず難しくないので、実際原文をお読みになると如何に世の企業が自社の有利なところだけ論文から切り出して宣伝しているかわかります。オーブルデザインでは業界の論文(原文)や「緑の家」の基礎断熱の熱画像、白アリの被害、雨漏れなどほぼそのまま公開しております。そこは研究の世界に足をちょっとだけ突っ込んだからでしょう。できる限り公正、また前後時系列を交えた情報をご案内してまいりたいと思います。
ということで本題に戻ります。
「繊維系断熱材中の真菌移動性状に関する基礎的研究」という題からわかるとおり、こちらは基礎的研究なので一般の読者さんには面白くない内容かと思います。ただ私にとってはなるほど・・・やっぱりこれからは「カビ」が高性能又は長寿命住宅のテーマとなる気配が読み取れ、この基礎的研究はその布石・・・と勝手に思っております。
始めに飾られた内容は、何れも興味深い引用論文・・・。
一言だけ・・・。カビの問題は住宅の気密化では無く昔から日本の住居の課題です。気密化と同時に生活スタイルが変り、日中人が家に居ないこと、窓を開けられないほど治安が悪くなったこと、暖房開始したこと等であり、暖房行ったから気密がより必要になったともいえます。とにかく古の頃からカビは日本そのものだったのではないでしょうか。
今回の目的は基礎的研究(評価方法の妥当性など)であるため実務者及び建て主さんにおいては有意義な内容ではありません。ただ第三種換気システム時に、仮に壁体内のGWにカビの胞子があったときに、室内にコンセントボックス等の穴から室内に入る可能性が少ないとのまとめがあります。なるほど・・・安心です。
次にこの論文中で紹介された引用論文も下に紹介します。
こちらの論文は2008年で今から10年前のもので、実測地域は東北(秋田、岩手)地方です。
この地域での壁内のカビ、床下のカビが室内環境に与える影響を報告しております。
そしてこの結論として、「カビの発生源として床下空間は無視出来ないといえる」とこの2008年の論文でも既に報告されていることを覚えていてくださいね。
次に今年の夏にご紹介した2017年の論文・・・
実はこちらも似たような論文・・・発表者も・・・。
つまり・・・10年前からカビが床下内で発生しやすいことは東北という本州でも北の地域で肯定され、また10年後にも似たような内容をシミュレーションで再確認されています。引用論文はつながっているのですね。だから面白い・・・。
10年前の論文でもしっかり読み込み自身で租借すれば、床下のカビは容易に増える・・・事は想像出来ます。ですので自分の家以外で確証が無い場合の設計や施工するときには特に謙虚に慎重になる必要性があると思います。実際の床下環境下では局部的にもっとカビが生えやすい箇所も存在し、一度カビが生えれば気中胞子量が爆発的に増え着床率発芽率も上がるでしょう。そのような変化が意志のある(生存)生物の怖さです。
まだまだ面白い論文がこの10月号にありますのでまた紹介します。