住宅の換気と空気感染する病

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昨年ご紹介した2021建築学会学術講演論文梗概集では、題名関連の論文が数多く発表された。そもそも空気感染する病に対し、一般的な家で生活を営みながら感染病に対して有効な予防が可能な換気は現在の住宅では不可能に近い。

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空気感染する2類相当感染病に対して住宅内で感染防止するためには、家の構造を最低結核病患者を隔離するような結核病床としなければ無意味である。そもそも結核菌はウイルスより大きい細菌の部類で有り、これより最も小さく全容把握が難しいウイルスの対策は、更に厳しい隔離をしなければ防止する事は不可能であると考えられる。

結核病床では患者の空間を常時陰圧(周囲より2.5Pa以上低い気圧)として患者のいる空気は一切外部に漏れないことが最低必要とされる。これは、結核菌の感染がほぼ100%近く患者の咳嗽によって飛散した浮遊する長さ1~4μmの結核菌飛沫核(droplet nuclei)を、肺に吸入することにより成立する空気感染との知見があるから陰圧隔離は必須となる。一方2019年から流行しているCOVIDー19ではどのような経路によって感染するのかまだ十分な知見はないので、他のウイルス感染症と同じように、空気感染することを前提に対策が取られている。

つまり空気感染を確実に防止する必要があるなら、住宅内でどのように換気しても難しい。住宅内のある空間を常時2.5Paの陰圧にする事は構造上不可能である。冒頭の論文でも有効とされる換気方法(感染者のいる部屋から常時排気する方法)があるが、これは理想空間でのことで住宅の専門家(特に気密測定を行なったことがある専門家)なら、それがキッチンのレンジフードをONするだけで無意味になることは火を見るより明らかなこと。

ある「緑の家」の気密測定結果。わずか30m3/hの排気でも10Paの圧力差が住宅の内外に生まれる。

レンジフードをONすると、連動する給気口がなければ10Pa以上の内外気圧差(屋外と内部)がつく。特に高断熱高気密住宅では、住宅内外の隙間が極端に無いので、一般的なレンジフードの弱の排気量200m3/hになったときに、排気連動する給気口がなければ100Pa以上内外圧力差がうまれ、たった2.5Pa程度の圧力差は完全に破壊される。仮にレンジフードに排気連動する一般的な給気口150Φがあったとしても、10Pa以上内外圧力差が生まれるので、陰圧にした感染者の空間の空気は他に漏れ出ることは明らかである。またレンジフード強400m3/h運転ならでは常時30Pa以上の内外圧力差がおき、これを防止するような気密性を、リフォーム等で一室作り出すことはかなり大変である。そもそも緩衝室も設けなければ、感染者の空間の戸を開けた瞬間に多少の空気の漏れが起こり、これを運悪く吸い込んだならそこで感染する可能がある。つまり結核菌並みの感染症対策(感染症2類相当)を住宅で行う事は、コストも含め難しいことは明らかである。こんなことは建築環境学んだ人なら、専門の研究者でなくとも想像でき、気密測定を行なったことがある人なら誰でも数値計算できる。

・・・とここまでは良いが、未だに住宅内でCOVIDー19の隔離が出来ないか、厚労省・国交省は多額の研究費を用意しているらしい。ある程度の研究者なら、住宅内での隔離※が難しい事は、既往の研究や論理で想像できるのにそこに多額の研究費(税金)を使って、また優秀な人材をその研究にさくことが果たして国民のためになるのか・・・甚だ疑問である。所管大臣は正しいことを行なうように省庁を把握するべきであり、関わる研究者の矜持に期待したい。

※店舗や公共の不特定多数が集まる場所なら感染者数が下がるだけ効果がありそうだが、生活を営む住宅内では常に濃厚接触になるので全く別物である。換気に限らず感染経路の全容把握が出来ない感染症対策として、家族に接するときに隔離病棟と同様に使い捨て衣類や手袋、マスクを常にする事ができるのか?端的に言えばCOVIDー19は未だ2類感染症でよいのか?

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