より無難なカビ防止仕様に その1
網戸の廃止

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「緑の家」の記事が掲載されている創刊号。単独購入ではなく年契約となるので建て主さんには入手しづらい専門業界紙。

ある住宅業界専門誌が創刊された。その創刊号で「緑の家」が取材を受け、28ページにわたる記事となっている。

創刊号と言えば昨年まで22年続いた日経ホームビルダーの1999年の創刊号にもオーブルデザインは記事として取り上げられていた。その頃は事務所として活動初期だったので、若さ爆発的な内容だったが、こちらの創刊号での紹介は一言で申し上げると「より無難な高性能の家造り」になっている。

1999年創刊の住宅専門誌の記事にあるオーブルデザイン

今回の記事の要点は・・・

「G3基準の家ではコストが多くかかるので、短命、欠点がないようにバランスが重要」

との事で取材を受けているが、発刊された紙面28ページを読んでもそのことを伝えるにはページが足りないと思った。

私が「緑の家」でとても大事にしているのはこのブログの筆者紹介のページにあるが、

目指す家は、「ターシャ」の家のように、自然と一体化するような木の家と庭です。無論、家内部は快適で超高断熱高気密で避難所クラスの耐震性は譲れません。これを如何にシンプルに造るかが日々の関心・・・

とあるように、暖かい家でそのベースは耐震性・耐久性であり、それをシンプルにすることでコストも下げたいという当たり前のこと。これを一言で申し上げると「無難な家」となる。無難とは「難=欠点」が「無い」とのことで、家造りにはこれしかない一言であり、これ以上のことは趣味性になるので各人の自由であると考えている。

無難な家造りを目指したときの具体的な仕様は沢山あるが、巷では聞かれない「緑の家」の仕様として・・・

  • 高い基礎(基礎高1.1m)
  • 指定積雪標準(耐雪2.5mまで)
  • お風呂CFの採用
  • 網戸の廃止
  • 無塗装の家

がある。今回は2015年に完全実施した網戸の廃止が何故無難なのか改めて申し上げたい。

家の建て替え理由

家の建て替えとは、今住んでいる家を取り壊し、新たな家をつくってそこに住む事をさし、家造り中でも最も強い動機が必要な行為となる。それもそのはずで、住み替えなら新たな土地に家をつくり住むことをさし、職場にちかいとか学区に便利とか新たに心機一転、土地が狭いなどその理由は誰でも納得することが多い。対して建て替えは住み慣れた家を壊して新たな家をつくる。そのためには仮住まいなどで手狭な苦労をおい、更に引っ越しを2度も行なうなど、強い動機がなければ出来ない事が明らかである。では何故新たに家をつくるのだろうか?その強い動機についてアンケート調査した事例がある。

2016年の講演資料から

さてその全国調査での建て替えの理由の第一位・・・

大体の予想どおり
「古くなったから・・・」
が断トツの一位。

新潟ではこの古くなったの他、
「緑の家」のオーナーさんの多くの理由である「寒い家だから」が上位に来る。

しかし温暖地である新潟以南では
「古くなったから・・・」
が一番の理由かもしれない。

古くなった・・・って凄く抽象的な表現で「家」以外の主語を考えると、
「キッチン設備が古くなった」
「お風呂設備が古くなった」
「トイレ設備が古くなった」
という設備系と
「床や壁、戸が古くなった」
「外壁が古くなった」
「屋根が古くなった」

という建材系に分かれる。

設備系の古くなったからを考えると、設備は新しい設備と入れ替えるだけで建て替えるという家全体を壊してまで行う理由に対し矛盾がすこしある感じだ。
となると実は古くなったというのは建材系ではないかと考えることができる。

このアンケートは2011年に起こった東日本大震災直後に行なわれた。当然耐震性の低さが建て替えのトップに来ると思ったが、実はそれ以上に「従前住宅の古さ」がトップに来ていることは重要である。上の「古さ」とは何かと考えた時に私は「カビ臭」が原因と考えている。

カビ臭はどこから来るのか

まずカビはどのような時に発生するのか知っておかなければならない。良く言われることにカビは適切な温度と水分と栄養と酸素の4つが揃えば発生する。このうち人が制御しやすいのは温度と水分であるが、温度は人が快適と思う温度はカビの発育域と合致するので冷蔵庫のような用途以外無理。すると残る要素は水分=湿気となる。ではどのくらい湿気があればカビは発生するだろうか。その研究はすでに多くの実績がある。下が文科省が公表しているカビ防止の資料。
なぜ文科省が行なっているかと言えば、25年前に起こったシックハウス騒動が発端となった。

シックハウスによって従来行なっていた書庫内の燻蒸殺菌が行えなくなり、健全保管が困難となるため新たなカビ・虫対策を研究した結果・・・RH(相対湿度)を60%以下にすると殆どのカビに対して発芽まで相当の時間がかかる事がわかった。このため図書館及び書庫内は常に空調管理されAwが0.6(RH60%)以下に制御されている。ここで上の表ではAwとあるが、これを室内のRH(相対湿度)に置き換えても実状大きな違いがない(急激な温湿度変化はNG)。この図ではAw0.9で黒麹黴なら3日もあれば発芽し、例の菌糸でモヤモヤができる。またAw0.8でも30日程度あれば発芽できる。空気中には無数のカビ胞子が浮遊しているが、それを着床→発芽させなければカビという一般的な現象でなくなる。実は夏期の押し入れ内、床下等ではRH(相対湿度)80%が30日以上続くことは普通にある。しかし全ての押し入れでカビが生えているわけでは無い。何故か?

木は天然抗菌剤を内包

これにも理由が有り、木材・皮をはじめとする天然物質の多くが、防かび剤(抗菌剤)の成分を内包している。この成分によってRH(相対湿度)80%が30日以上続いてもカビは容易に生えないのである。その成分は「フラボノイド、リグニン、テルペノイド、精油成分、芳香属化合物」など聞き慣れた名前も多い。しかしこれらの成分が酸素や紫外線などによる分解、蒸散でその素材から失われると、カビは上の表通りの日数で生えることになる。下はエビデンスの抜粋である。

1-3 カビが資料に与える影響


カビは、表1で述べたように衣食住や工業製品のほとんどを栄養源として分解・劣化させる。さらに、カビは天然有機物や人工有機物のみならず無機物や鉱物までも栄養源としており、博物館・図書館等の資料などは格好の栄養源(炭素源、窒素源)として物理的、化学的に分解(破壊)される。特に、木質系、天然繊維系、皮革系および膠等は経年劣化(物理的劣化・化学的劣化)した場合には、資料素材が本来持っていた僅かの抗菌性物質(テルペノイド、リグニン、フラボノイド、芳香族化合物、精油成分、抗菌性色素等)が分解あるいは蒸散して減少しているため、細菌やカビによる微生物劣化を容易に受ける。さらに、カビ類は有機性染料(植物由来、動物由来)を含む全ての天然有機物を分解する酵素群を有しており、酵素分解により資化し、カビの細胞増殖の原料として利用する。したがって、カビ被害は不可逆的(一方通行)な生物反応で、決して元に戻らない劣化であることに改めて注意する必要がある。

文部科学省 「カビ対策マニュアル」から

そこで・・・木材の抗菌成分が分解、蒸散されるとカビがこの表の日数どおり生えるので、古い家の押し入れや床下にはカビが生えることになる。木材の抗菌成分は紫外線分解されやすく、また水分に流されやすい。このため木の外壁でも南側や雨が強くあたる方位では、一年でカビが黒く発生する。

向かって左外壁面が日と雨が強くあたる南西向き。右の外壁より黒くなっているのがわかる。

外部はこのように発生までごく僅かな年月だが、室内で日の当たらないところはこの分解や蒸散が遅い。

古くなった家がかび臭いのはこの防かび成分(抗菌剤)が分解または蒸散されてカビが生えたため匂うのである。それが築後35年くらいであると考えられる。上のアンケートで取り壊しになった築年数は35年以上が半分を占めていることからうかがい知れるし、体験上築40年経た家では概ね「古い匂い」がする。この古い匂いこそカビ臭なのである。40年経て運良く抗菌成分が残っていても、階間や床下、間仕切り壁、外壁の隙間などにはちりや埃が積もり、そのちりゴミには一般的に抗菌成分がないため、そのちりゴミを苗床としてカビが生えるので、結局はカビ臭がする。目に見えるところは掃除することでゴミちりは除去できるが、階間や床下等は掃除が出来ないでのである。ここで先ほど申し上げた事を復唱する。

カビの着床と発芽を防ぐ

「空気中には無数のカビ胞子が浮遊しているが、それを着床→発芽させなければカビ発生という一般的な現象はなくなる。」

ここで胞子を着床させないこと、発芽させないことがカビを防ぐことになる。着床させないことは、毎日のお掃除で確保出来る。昔はこれによってカビを防いでいたので、押し入れ内の空干しや畳の掃き掃除を行なっていた。しかしこれを怠るととたんにカビは生える。つまり掃除できない床下や畳下、階間や間仕切り壁はもう一つの防止策である発芽させないことしか対策はない。

そこで先ほどの文科省のマニュアルには・・・

「湿度60%以下であればカビの発生は防ぐことが可能」とあり、現在の図書館は全ての季節で閉鎖空間とされ、常に空調管理されている。この空調管理は来館者のためでは無く、一義的には「本」のためである。45才以上の世代は、昔の図書館の窓が解放されていた季節もあったことを覚えている人も多いはず。現在窓開閉の全くないのはカビ防止のためである。

さてそこで、「緑の家」がなぜ網戸を標準から除外したかは想像通りであり、不用意な通風による夏期の生活を排除したかったから。ご存じのとおり、「緑の家」は収納空間が普通の家の1.5倍以上あると自負できる。その大半は床下であり、この床下空間でカビが発生するのを防ぐことが重要であると判断した。入居当時は自然素材自身の抗菌剤によってカビは数年防止できるが、数年も通風による涼取りを行なうと、カビが生える。カビが生えるとその匂いでその建物の寿命と判断されてしまう。これでは長寿命の構造があろうと、超高断熱化して寒さを取り去っても短命な住宅になってしまう。つまり「難」がある家になる。このため網戸を排除し、不用意な通風をしないような仕様となっている。通風をしなければ全館空調で涼を取ることになり、くわえて湿度の関心も生まれるので家中を一年中RH65%未満にすることができ、長期にわたってカビ臭が無い家になる。

網戸中止

網戸を止めたのは無難な家の手段である。無論虫が外部にいない4月、5月は、網戸無しの窓をあけても虫は入ってこないし、屋外空気は乾いているので室内RH(相対湿度)も低いままである。このため網戸無しで窓全開の「緑の家」にくらすオーナーさんが殆どである。さらに言えば網戸の廃止が全館空調につながり無難の家造りになるのである。これはその2で少しだけその1に加筆する。

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