2022年建築学会の学術講演梗概集から② 構造

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近年建築学会では少し変化が起きているように思う。それは・・・

数年前までは環境工学の論文はⅠとⅡとなっていたが、現在はまとめられて一つになっている。論文数も2014年1299だったのが1187と少なくなっている。多分、COVID19の影響があると思うが、環境の花形だった省エネに関する分野で今年断熱等級7が施行されたので、あるところまで到達したので研究が少なくなったとの印象である。一番省エネに対する熱があった1990年から2010年までこの専門分野に所属させて頂いたことは私のとって刺激が大きくラッキーだった。

さて環境問題が一段落した今、熱があるのは「木構造」である。近年は木造で高層ビル建築も施工され、公共事業も木造構造に多くの補助金がつくと聞いている。よって今年は木造の構造系論文を少し紹介したい。但し構造は私の専門分野ではないので、わかりやすい論文を取り上げる。

最初は・・・

比較的小さな地震を複数回受けたときの耐震性の低下を実験で確かめ数式にした論文である。特に興味を持ったのが、専門家の間では「本当に?」と思うPB(プラスターボード)の耐力壁と合板の耐力壁の違いである。PBは使った事がある人はわかるが、非常にもろい材料である。ご承知のとおり釘やネジが効かないので、物の取り付けができない。しかしPBも耐力壁として評価でき、これを建物耐力として計算している建物もある。当然「緑の家」ではPBがいくらあろうが耐力壁にカウントしない。PBを耐力壁として見なすと、釘やビス、切り抜きにたいし制約がかかるからである。

制御変位1.4mmではわずかな揺れ程度で起こる変位だが人は揺れを感じる震度。

一般ユーザー(建物オーナーさん)が普段思っていることを実験して確かめた論文となる。それは比較的数多く起こる小・中地震を受けるとそれによって耐震性が落ち、大地震の時に想定された耐力を維持できていないため想定より大きなダメージを受けるのではないかとの疑念に応えた論文である。但しこの論文で引用している人見祐策らの論文は2009年に大地震時後の事例を示しているので今回は小・中地震時後についての知見である。

小・中地震とは上の表1の震度3、4にあたる想定変形角1/1000以内の地震(繰り返し200回とあるので5~10回分の地震と考えてよいだろう)とする。但しこの想定変形角は一耐力壁であり、家全体ではないことに注意したい。尚、試験体種類は3種で、構造用合板による耐力壁とPBによる耐力壁と軸組(筋交いか?)による耐力壁である。

建告1100号の表の抜粋。せっこうボード12mm=PBであり、特に釘の制約がなければ倍率0.5(数値に比例し耐力も増える)。

実験をするとPBだけが小変形でも繰り返されると荷重低下(所定の変形になるまでの与える力の低下)が起こったとのこと。よって実験を複数回行いその結果から合板耐力壁のみ下の荷重残存率を想定し、計算した結果と実験で得られた結果をくらべ妥当性を示している。気をつけたいのは、PBの耐力壁と合板の耐力壁で同じN50@150の釘打ちであるが、そもそも建告1100号では合板では2.5倍、PBでは0.5倍(所定の釘以外)とそもそも違いがある。

すると下の図2となり、計算値と実測値が近い値なり、この計算式がある一定の条件で妥当であることを示している。

さてこの論文の結論だが、

色囲みは私が加工している。

また、まとめ以外では下の文が気になる。

ある程度余力とは・・・一体どのくらいなのか。アンダーラインは私が加工している。

つまり中・大地震時(震度5弱から5強)の変形角が少なくなるように家の耐震等級を引きあげておけば、震度6以上の100年に一度の大地震時に設計で想定された耐力を発揮しやすいといえ、やはり耐震等級3は必須(耐雪2m未満の家)であることがわかる。耐雪2m以上の家は、耐震等級2でも普段おこる小中地震や雪のないときに起こる大地震(震度5弱から5強)でも変形角が少なくなるのでよいだろうとの考えが、コストやその他の条件を考えた時には無難であろう。またPBによる耐力壁(いわゆる雑壁)は使わないで計画(構造計算)することが長い目で見ると大事なことでもある。

ここより先は疑問であるが、

縦軸は残存率であるため耐力壁の強さではない事に注意。

文中にある実測結果の上表では、軸組は大地震でも荷重残存率が変わらない。もし軸組が筋交いのことであるなら凄いことだし、単なる軸組だけであるなら当初から耐力が極小なので靱性変形範囲が広く逆にある一線をこえると一気に破壊になるのだろう。さてこの軸組とは・・・その言葉のとおりだろうか?

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