断熱義務化にむけて危惧する事

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

ご存じのとおり2025年に新築住宅で断熱が義務化される。義務化になれば現在よりより一層断熱性が高い住宅も多く作られるだろう。そのときに危惧されることは・・・。

間違いなく防湿シートの不具合でおこる内部結露だろう。

今から40年近く前(1980年代)に、北海道で内部結露により住宅に大きな被害が起こったことを知っている人は私と同世代だろう。内部結露は室内側に透湿抵抗の大きな素材や密閉をすることなく、容易に室内の水蒸気(空気に溶けている水分子)が外壁内に侵入することでおこる結露である。発生原理は省くが、とにかく室内側の透湿抵抗が高ければ内部結露は起こる可能性がなくなる。つまり内部結露を防ぐには「内部側の透湿抵抗を上げる」につきる。当然そのほかに外部側の透湿抵抗を下げることがあるが、王道は内部側の透湿抵抗を上げることである。このため「緑の家」を含め高断熱住宅は内部に防湿シートをはる。この防湿シートだが、そこに施工ミスがあるといくら防湿シートの透湿抵抗値が高くても、穴のあいたビニール袋で水をため込むように意味が無い。水蒸気とは空気に溶けている水分子なので空気と共に移動する事も多い。ではその施工ミスをどのようにして調べるのか・・・それが気密測定といわれるチェック方法である。防湿シートに施工不良があれば空気を密閉できず、空気に溶け込んだ水蒸気と共に壁内に侵入する。つまり室内空気が密閉できなければ防湿シートに穴が開いている状態なのである。だからこそ防湿シートは気密シートと呼ばれる。最も厄介なことは施工不良は目視検査では確認できない。なぜなら気密検査は完成時におこなうものであり、防湿シートが全て壁の中にあるのにどうやって検査出来る?というように物理的に不可能なことだから。だから気密測定をしない建物は防湿シートの施工チェックをしていない建物と呼んでもよいかも。

さて、国は平成30年に構造用合板の高倍率耐力壁を追加した。これによって更に構造用合板が耐力壁として使われる事になるが、この合板を使ったときに防湿シートが正しくされていないと内部結露を引き起す。

付加断熱無しで壁内グラスウール105mmで、外部に構造用合板9mmを貼ったときの各条件の内部結露判定(定常計算)をすると・・・

A-1とA-2は国の防露判定基準である居室隣室の室温15度RH(相対湿度)50%時の防湿シートが別施工でない合板並み程度の透湿抵抗しかないときである。

A-1 国の判定室内温湿度、内部防湿シートは透湿抵抗は合板並み、新潟の季候
A-2 国の判定室内温湿度、内部防湿シートは透湿抵抗は合板並み、関東の季候

新潟も関東もNGである。

一方国の防露判定基準でなく居室の室温22度RH(相対湿度)40%時の関東において、透湿抵抗が別施工でない合板並み程度の透湿抵抗しかない時と、「緑の家」並の気密性能時(C値0.9cm2/m2以下)の判定は・・・

B-1 居室室内温湿度、内部防湿シートは透湿抵抗は「「緑の家」並み、関東の季候
B-2 居室室内温湿度、内部防湿シートは透湿抵抗は合板並み、関東の季候

居室の暖かい温湿度でさえ、防湿シートが袋入りのような断熱材付属の防湿シートB-2のようなならば(気密性能3cm2/m2以上)、NGとなる。一方B-1のように防湿シートを別にはり気密測定しC値0.9cm2/m2以下の性能を持つ透湿抵抗値ならばOKとなる。

更にB-1で地域を新潟ならNGとなる。つまり合板9mmを外側に貼る場合、付加断熱を行わないと内部結露の可能性が高くなる。

また下のC-1は国の判定室内温湿度で行うと「緑の家」のC値0.9cm2/m2未満時の透湿抵抗値※であってもNGとなる。つまり外側合板と充填断熱施工は相当厳しい組み合わせであることがわかる。
※防湿用のポリエチレンフィルムB種の計算用の透湿抵抗値は0.14(㎡・s・Pa/ng)が一般的であるが、予期せぬ施工の穴を多数考慮して0.07(㎡・s・Pa/ng)と半分にしている。

C-1 国の判定室内温湿度、内部防湿シートは透湿抵抗は「緑の家」並み、新潟の季候

これらは定常計算値なので非定常計算を行うともう少し緩くなり、上の結果が必ず起こるとも限らないが、軽い施工ミス、加湿などの要因が重なれば定常計算にようになる可能性があるだろう。このような防湿シートの貼り方を条件とした研究は多くないので、是非構造の検査義務化と断熱義務化が行われる2025年までに、具体的な提示を国はして頂きたいと思う。

下は付加断熱60mmを行った「緑の家」で新潟の季候による合板並みの透湿抵抗時の定常計算となる。当然C値0.9cm2/m2未満の透湿抵抗値とすれば更に余裕でクリアーするだろう。

D-1 国の判定室内温湿度、内部防湿シートは透湿抵抗は合板並み、新潟の季候

最後に危惧することは、防湿フィルムの劣化である。一般的な防湿用ポリエチレンフィルムはJISA6930規格によって、酸素劣化の促進試験がありこれを取得しているメーカー品が多い。また実績も海外では50年を越える。一方最近流行の可変型防湿フィルムは、建築物壁用として使用されるための可変専用のJIS規格がない。可変型防湿フィルムはRH60%から80%の間で防湿シートから真逆の透湿防水シートのような湿気を透過しやすい物性に変化する。そこでもし経年劣化でRH60%時の当初あった0.1(㎡・s・Pa/ng)の性能がRH70%時の合板と同じくらいの0.005(㎡・s・Pa/ng)まで下がったら確実に内部結露を引き起こす。また経年劣化が無くとも湿気の多い部屋(脱衣所など)でRH(相対湿度)70%が続いたときには、少し危険なことになる。このような可変型防湿シートを使うときには、家の耐久性と同等程度(30年以上)の性能保証が望まれる。防湿シートが仮に破壊されたり物性が変われば、耐力壁が破壊されると同様なインパクトが現在の家にはある。それだけ内部結露は怖いのである。

結論は・・・

現時点では家の重要性能である内部結露防止用の防湿シートは、50年の実績ある別貼りポリエチレンフィルムを貼った上で気密測定を行うことが最も無難な施工であると言える。

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする