基礎断熱の欠点

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22年以上前から読んでいるこの季刊誌。このブログでも何回か紹介しているダウ化工さんの「熱と環境」である。その2019年冬号は「床断熱と基礎断熱」の特集である。ところでダウ化工さんは令和と同時に「デュポン・スタイロ株式会社」になったとのこと。益々建築業界に強い影響を与えそうな建材会社さんになる。

熱と環境から抜粋。

近年本州でも基礎断熱が一般的になってきている。それでもまだまだ床断熱が主流には間違いないが、高断熱高気密が普及するにつれ基礎断熱工法の方が気密処理が簡単ということが知られてきているのだろう。実は床断熱であっても通常はお風呂と玄関、勝手口は部分的に基礎断熱になることで、地面に接する部分が屋内部分となるアレルギーがなくなってきている。

この特集では各断熱工法別の温湿度性状を紹介している。

最後のページには下のグラフがあり床下内は床断熱でも基礎断熱でも高湿であることがわかる。

熱と環境から抜粋。

ここでは腐朽菌と結露を防止できるかを主眼に考察を行っており、それに対し問題無いと結論であるが、まだまだ知られていないことが多いともある。確かにこのグラフで示された床下内のRH(相対湿度)はカビ成長範囲内であることは誰が見ても明らかである

執筆者岩前先生の末文として

上示しましたように、床断熱住宅の床下空間の温湿度性状は、梅雨時期から夏季に高湿化することが“自然”であり、高湿化しない方が不思議であると言えましょう。一方、基礎断熱の床下空間では、夏季は高湿の外気が流入しない上に、温度も、冷房で下げすぎない限りそれほど低温にならないので、竣工初期の基礎が暖まっていない時期を除けば、高湿のリスクは少ないと言えるでしょう。  中略
著しい床下の高湿化の原因がすべて解明されている訳ではありませんが、多くの場合、“低温”に原因があると考えられます。繰り返しますが、ここで書いたことを一般的な姿として認識していただくことが、床下のありようを考える前提になると思います。本稿がその役に立つことを祈念しております。

(熱と環境から抜粋)

とある。

私が下の9月21日のブログで書いたことが上の文中でも見てとれる。キーワードは

「高湿は低温に原因がある」

である。

夏期の空調は危険が沢山
超高断熱住宅を全棟実施した10年前から床下エアコン暖房のことについてよく聞かれたし、数年前までは床下エアコン暖房...

つまり天然界での一様な温度下において低温部をつくる事はまさしく劇薬である。結露や腐朽菌は無論、カビ、ダニの温床となる事は誰もが認める。よって低温箇所をなくすために冷風は隔離し、放出後は即時拡散が原則となる。その点では基礎断熱を行った床下空間は何もしなければ高湿になる(低温部分ができる)ので、安易に床下エアコン空調を行い室内空間と同一空間にする事は避けなければならない。床下を室内空間として使用するにはしっかり夏期の床下管理が必要となる。

さて次の執筆者である若菜さんによる内容では

熱と環境から抜粋

と少し衝撃的な事をさらりと伝えている。つまり今から2001年以前の基礎断熱に使用された断熱材は不十分であったとのこと。ではどこが問題かは下の図である。

熱と環境から抜粋

しかも下の文に見られるように、比較的シロアリ予防に強いとされる基礎内側断熱であっても打ち継ぎ部分(実際は打ち継ぎの固定金物周囲とレイタンス不除去)から浸入もあったとのこと。

熱と環境から抜粋

「そんなこと知っているよ」との言葉が聞こえてくるが、この執筆者さんが基礎断熱を勧めてきたダウ化工さんの社員さんであるという事が重い言葉なのである。当時からその事は関係者の中でいわれてきたが、この事を、その工法を薦めてきた企業や団体が公に認めたのは今から10年くらいまえだった気がする。つまり2009年頃であり、基礎断熱工法が本州で行われるようになってから15年経過してからである。

その当時から対策として次のように紹介されている。

基礎断熱工法におけるシロアリ対策は、土中からのシロアリの這い上がり防止と断熱材内部の蟻害防止の二段階で考えます。シロアリの這い上がりを防止する為には、地盤面の防蟻対策として、下記のいずれかのベタ基礎による対応が必要となります。

①鉄筋コンクリート造のべた基礎(厚さは100mm以上で防湿コンクリートを兼ねる)とする。
②基礎と鉄筋により一体となって基礎の内周部の地盤上に一様に打設されたコンクリート(厚さ100mm以上で防湿コンクリートを兼ねる)で覆う。

断熱材内部の蟻害を防ぐには、防蟻性能を有する断熱材を使用する、あるいは、断熱材の外側をシロアリが通り抜ける事が出来ない細かい網目のステンレスメッシュなどで覆う等の方法があります。

(熱と環境から抜粋)

地面から対策はそのとおりであるが、実は・・・①も②絵餅になる可能性がある。それはスラブからの配管貫通である。配管をスラブから貫通する場合は将来スラブを壊さなくとも取り替えることが出来るように鞘管を施設してその中に管を通すが、その隙間をしっかりと防蟻剤の入った接着剤やシーリングで埋めきらないと、打ち継ぎ面と同じことになる。しかししっかりと埋めきると今度は配管取り替え時に困難を来たす。

一方ステンレスメッシュも欠点はある。シロアリの蟻道の内径は3mm程度。3mm以下の施工精度を地面の中で確保する難しさ・・・。考えただけでもわかること。家内の気密処理は仮に3mmの穴があっても欠陥にはならないが、シロアリの場合は発見確率もあるが3mmあれば十分浸入可能な穴となる。ただし基礎断熱下部が水の道にはならいので植物の根が入り込む事もないため発見確率は低いだろうが・・・あまり良いものではない。

そんな事を考慮し生まれたのが「緑の家」のメンテナンス型のシロアリ対策である。

最後に若菜さんの文は次のように結ばれている。

以上、ご紹介いたしましたように、基礎断熱工法は、 弊社が提供させていただいております施工要領の通り設計・施工することで、温暖な地域においても、床下空間を長期的に健全な状態に保つことが可能でございます。 尚、今回ご紹介させていただいた調査とは別に実施しました調査において、「スタイロフォーム」を用いた外張断熱工法を採用した竣工後10年以上経過している建物の床下空気の性状及び土台の含水率を測定しました。その結果、床下空間において結露発生は確認されず、また年間を通しての生命維持と成長に必要な環境条件の一つとされる含水率80%を大きく下回り、床下空間が長期的に乾燥した状態に保たれていることが確認されています。
是非、基礎断熱の採用をご検討いただけたら幸いです。

(熱と環境から抜粋)

文中に「床下内が乾燥した状態が保たれていることが確認されている」が、これは言葉足らずで木の乾燥のことであり、床下内の木以外の乾燥のことではないと思う。なぜなら近年は基礎断熱内の高湿化の論文が多数報告されている。

この季刊誌は会員登録すれば誰でもダウンロード可能である。私の論評が適切でないかもしれないので興味があれば読んでほしい。下にそのリンク先をおく。

https://www.dupontstyro.co.jp/magazine/index.html

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