電気配線は住宅建築ではほぼ100%必要な設備で、この室内配線はVVFというケーブルで施設されることが99%。しかし随分前から言われているが、このVVFケーブルの設計上の耐用年数は屋内の標準使用で20年から30年とのこと。30年経つと、シースケースの劣化で絶縁が低下し、最悪火災の原因になる。
一方現時点で明らかにVVFの自然寿命(ネズミ等の囓害以外)で火災が発生したとされている事例はほとんど聞かない。これは、現在の住宅建て替え平均が30年未満だったことも理由にあるが、30年経過と共に急激に火災が発生するほど劣化するのではなく、30年以前と同じようなペースで進行するためと思われる。つまり私としては「設計耐用年数≠寿命」ではなく「設計耐用年数=メンテナンス検討開始時期」との見解である。よって30年以降もメンテナンスを行わないで使い続けることもできるが、私としては点検は行った方がよいと思う。
また更に交換サイクルが早いのが、テーブルタップ(延長コード)で、一般社団法人日本配線システム工業会のHPには交換の目安は3~5年とあり、日常的に使う壁に付いているスイッチ、コンセントでさえ10年となる。テーブルタップの火災事故は時折発生するが、壁にあるスイッチなどでは事故の記憶が無い。確かに10年でいちいちスイッチを交換している事例は聞いたことがないし大概住宅と同じ年数を使うことが一般的な概念となっている。そこから考えても、日本電線工業会で30年で交換を行う事を薦めているVVFの電線は、30年過ぎたあたりから交換を検討し始め長くとも50年以内で交換するという事で今のところ問題ないと考えている。但しあくまでも正しく使って過度に熱ストレスを与えない状況がポイントとなる。
さて「緑の家」ではこの電気配線を今後どのように考えようかと思案中。というのは、長期優良住宅の仕様以上で建築される「緑の家」の寿命は、60~70年程度と設定しているので、どう考えても電線の取り替えも視野に入れる必要性があるのではないか思っているからである。もし今後VVFの自然劣化による事故などが国内のどこかで報告されたなら、電線の取り替えやすさ(実際には従来の配線は埋め殺し、新たに引き直した方が良い場合もある)を早急に検討するする必要があるだろう。
現時点で50年以内の取り替えの対策は考えておらず、劣化がおきにくい事、および点検しやすい配置の対応としている。その具体的対応としては、
1.分電盤への配線の見える化として床下に配置。
2.専用回路数を増やす。
である。
1はVVFの劣化は熱で加速進行する。よって分電盤へ集中する配線は束ねられ、それによって加熱することを目視点検できるようにすること。一般論でいえばVVFは7本以内での結束としたいが、壁内の限られた空間で27回路もあるとそうはいかない。時には大きく超えることもある。これは単純に束ねた本数だけの問題ではなく、束ねた本数の全体で流れる電流の量が少なければ発熱は低くなるため許容しているのである。つまりVVF2.0の20本に40A流れる場合と、VVF2.0の7本に40A流れる場合は、一般的に20本のほうが全体の発熱は低くなる。とはいっても束ねた本数の中で中心部の一本がMAX20Aも流れていると放熱がし難く劣化が促進される。このようなリスクがあるので目視していつでも点検しやすいようにしている。
2も熱劣化対策で、配線数を増やし、一本に流れる電流を少なくすることで、発熱を抑えることができる。電灯配線などはLEDとなっているので送り配線数が多くても問題ないが、コンセントは別。昨今でも大きな電流を流す、IHコンロは当然であるが、エアコン数台、ヘアードライヤー2台、洗浄便座2台、電子レンジ、ポット、炊飯器、EVコンセント等は当然専用回路であり、これだけでも12から15回路。更に通常のコンセント、電灯など入れると一般的な大きさの住宅でも24~27回路の分電盤となる。
冒頭の写真に戻るが、現在気密層の電線貫通箇所は多数ある。巷のとてもコストをかけた住宅では、超高断熱住宅であっても外貼り断熱のみ構成や2重壁や2重天井もあろうかと思う。「緑の家」ではそこまで初期コストをかけることはしていない。仮に通常の壁でも電線を埋め殺して新たに配線することは50年後なら可能と考えている。これは何度も申し上げるが、家の温熱性能はコストとのバランスで決まる。私が35年前に建築士として目指した高断熱高気密住宅は、一般の人に手が届く高性能住宅で有り、耐震及びコストは性能と共に最優先される。そのため他から見ると「ここはこんなに簡素でよいの?」なんて批判される箇所、材料もあるが、デザインやメンテナンスで妥協できるところは耐震性とコストを優先している。当然デシカなど高い部材を使う時もあるが、それはあくまでもご要望があったときである。