昨日は制振装置の導入は難しくまずは耐震等級3を余裕をもって計画するとの内容だったが、実は13年前にすでに「緑の家」は制振装置を組み入れている家がある。それが上の「緑の家」である。
こちらのオーナーさんはとても思慮深く慎重な方でいらっしゃって、当時から制振装置を比較検討して「制振テープ」という装置を選定された。装置といっても実は単純で、機械などを一切使わずブチルテープ(乱暴にいえば)だけで耐力と粘りを高める理屈である。この方法は2001年時点で実測して論文でも発表されていた。とうことは、すでに20年以上の実績があり、今も全く同じ商品として市場で販売されている。これが凄いことで、何か問題があれば改良されるのがこの手の商品だが、20年以上も全く同じもの販売している実績は高い評価に値する。実は「緑の家」も2011年以降何回か制振装置を入れる際、この「制震テープ」になっていて、次に実施設計が行われる「広島の家」にも採用される予定である。
制震テープのよさ
制震テープのよさは簡単で、①まずは耐久性がよい。②木造接合部に負担をかけない。③木の弱点を補う・・・ことである。
①の耐久性は・・・
通常耐力壁は釘やビスで耐力を得るのであるが、それにプラスして粘りのある弾性系の接着を追加するというもの。制震テープで使用されるブチル系テープは昨年ご紹介したとおりその耐久性は30年以上は普通にあり、状況さえよければその1.5倍までは問題ないといわれている。逆にそうでなければ、現在の高気密住宅を45年以上性能を維持できない。現在の高気密住宅の「気密」の維持要は「ポリエチレンフィルム」とこの「ブチルテープ」によるものであり、この要のブチルテープが45年以上保てなければ、その時点で気密は破壊され内部結露さえ起こる。それほど重要な部材で、現在の科学では最も安価で耐久性が期待できる素材である。よってこれを耐震性のアップである「制振装置」として使うことは大変理にかなっているのである。もしブチルテープの寿命を否定するなら現在の高気密住宅の維持を否定することになる。いや防水性もブチルテープに頼っているので防水性も否定することになるので議論の余地はない。
②の接合部に負担をかけないことは・・・
昨日の「続1」で案内した通り、木造軸組み工法はピン構造である。ピン構造の要は接合の非破壊で、先に耐力壁や部材がこわれる設計としなければならない。この制振テープはあらゆる面材と柱梁材接触部につかえるので、通常の制振装置のようにどこかに集中して負担がかかることはない。しかもその接触部すべてに同じように応力がかかる理屈であるため、接合部に集中して負荷をかけることがない。またブチルテープは弾性変形範囲が大きいので、いわゆる「粘り」が耐力壁に追加される。ブチルテープを自身で貼ったことがある人はわかるが、ブチルテープを剝がすことは比較的簡単だが、接着面に対し水平に力をかけたときはまるで接着されたかのように強い。自動車部品では窓上に着けるバイザーはこのブチル系テープによる接着が多いのはそのためである。これを剥がすことはまず難しいので、時速100㎞以上の風圧を受けても全く問題ないので採用されている。
接合部に負担をかけること及び局部的に負担をかけなければ許容応力度設計による計算でも問題となることはない。ただし計算上の強度アップはない。
③の木の弱点を補うこととは・・・
構造に木を使う木造軸組み工法の弱点は木のやせによる隙間で、年月が経つと動きやすくなること(固有振動数の変化)である。特に昨今の超高断熱住宅では一年中RH(相対湿度)が低くなり、含水率がさがることで木がやせる。このやせたこことによる固有振動数が下がることを防ぐ。固有振動数がさがると地震時のキラーパルスの影響をもろに受け、揺れが増大し倒壊に至ることが知られているが、この固有振動数が下がることを防ぐのである。
さて欠点はなにかというと、ブチルテープなので温度があがることでその粘着性がかわり、暖かい地方では寒い地方よりその耐力がさがることである、特に初期のころはその傾向がたかい。また内部の気密シート部分には使えないことである。気密シート貼っても滑りが生じ期待した効果は発揮できない。もし使うなら気密シートの両面に貼る必要があるが、そこまでして貼る必要があるか・・・。また施工性が若干悪くなることも欠点。一度貼ると貼り間違いによる位置の修正が大変である。くぎさえ打たなければ剥がすことは可能だが、一度接着圧力を加えると今度ははがれない。PBなら間違いなく壊してやり替えになる。
このように許容応力度設計と致命的な相性欠陥はなく、良いことが多くコストも一軒で50万から100万アップ程度を良しとすれば、採用していただければよいと思う。
補足だが・・・・
制振装置の比較検討に免震装置という上位型の地震対策装置があるが、こちらは熊本地震で被害を受けた建物があり、制振装置にせよ免震装置にせよ構造計画の大事さが改めてわかる事例。↓