今朝メイルをみると
「丹下健三氏の設計による香川県立体育館が50年の幕を閉じました。」
とありました。この香川県立体育館は私が学生の頃に知り、その造形に感動した事を思い出しました。この設計者丹下健三氏は、東京都庁を設計したことで日本国中の人が一度は聞いたことがあると思います。それほど著名な設計者が造った代表建築が耐震補強が経済的に合わない・・・そのため50年で幕を閉じるというこの短命さ・・・。住宅の方が50年以上使われているといわれそうですが、この建物は不特定多数の命をあずかる事が住宅とは全く違いますから比較は出来ません。
つまり・・・住宅でも命を守る事を最大重視すると、50年前の建物の耐震基準ではやっぱり使われなくなるでしょう。
技術は常に進化し、耐震基準は大きな地震を経験するごとにランクアップするので、今後も既存不適格建築物は無数に存在し続けると思います。そんな中、世界的にも有名な建築士が設計したこの香川県立体育館が耐震補修され、更なる命を吹き込まれることなく終了することは日本の置かれた環境を示しております。
日本は自然災害がこの上なく多い地域です。加えて湿気と雨が多い・・・。こんな環境だから日本文化では古い物に固執しない、新しい物ほど価値があるというような気持ちになるようです。気持ち・・・つまり自然災害(地震と湿気)が直接原因ではなく、それによって育まれた文化が下す判断となります。この文化が古い物にほど価値があるという欧州文化とは正反対になったのではないでしょうか。欧州の多くは湿気がなく地震も殆ど無い環境で、このあたりが日本との大きな環境の違いです。
文化だから・・・その文化がおよばない外国から伝わった「仏、宗教」の世界では同じ日本内でも新しい物に価値があるということにならず、古い物が沢山残っておりそれらが法隆寺を初めとする寺院建築物です。この保存や改修にあっては、コストよりその建物を残す、使う、という強い信念が一般社会の文化を基準としたコスト経済性より上にあるので香川県立体育館ような事になりません。一方日本古来の神教では、地に根ざした宗教であるためか、伊勢神宮の遷都などに代表されるように新しくする事が尊ばれてきたようです。同じ宗教でも建築物に対する大きな違いがあることに気づかされます。
さて・・・住宅ですが、
このように冷静に状況を見ると60年くらいその建物が使われ続ける事ができれば凄い事だと私は想います。ではその60年がどのように決まったか・・・。
日本の住宅で致命的な事は「雨漏り」に尽きます。
雨漏りをそのままにしておくと数年で柱や梁は腐り建物が傾きます。また雨漏りでなくても近年の住宅の建て方では、雨樋も相当重要なポイントです。雨樋が壊れると、雨が降る度に土台廻りに水がかかり、腐朽スピードが増すことが知られております。だからこそ雨樋が設けられない多雪地域では基礎を高くするなどして対策をしております。その大事な雨樋ですが、一般的な樹脂製で寿命が30年程度です。そして30年すると雨樋の交換を考えるようになりますが雨樋の交換には足場が必要なのです。この足場を家中に掛ける事が家の一大補修時期となります。
つまり・・・
雨樋の寿命30年に合わせた外観素材をつかう。
屋根 ガルバニューム 耐久性約30年
外壁 〃
サッシ 樹脂サッシ ドレーキップのみ 我慢限界30年
基礎は60年以上の耐久性を確保(目標は80年以上)
です。
基礎を除きこれを2周期行うと60年・・・となります。
では屋根素材が瓦なら耐久性は60年では?との声がありますが、現在の屋根の防水は瓦でなく防水シートが負担しておりこの寿命が30年です。多少の雨漏れ(台風時などのみ)を許すなら瓦の寿命60年でもよいかと考えますが、提供側としては「多少の雨漏りは我慢」とは言えないので防水シートの寿命が屋根の寿命と考えます。
木の外壁は特別で、場所によっては30年周期からはずれ概ね40年ほど大丈夫なのですが、木は部分補修ができるのでおかしくなったところから部分的に補修すればよいと考えておりますから、木の外壁は優れた素材です。
サッシは樹脂製のドレーキップならパッキンがヘタッテも押しつけ効果で、30年はだましだまし使えるとおもいます。一方引き違いは20年位から一気に弾力性が失われ、その後の10年も我慢できないかもしれませんので、ドレーキップがお勧めとなるわけです。
家内部では、気密シートは今のところ40年くらいの実績があるので60年は大丈夫かとおもいますし、逆にそれ以上はわからないとしか言えないと考えております。
設備は30~40年目に交換、配管も30~40年目に交換すると、丁度2周期となります。木の床も50年くらいでヘタリ、多分カビ防止物質が全くなくなるので家全体がカビ臭の発生が始まります。
また、家を建てた時に30才~35才だったなら60年経てば90~95才ですし、子も60~65才でしょうから、子が何らか家について考える時期としては最後の時期ではないでしょうか?
そして今使っている材料の多くが耐久性30年で考えられているのです。これは従来の家の取り壊しが平均30年未満によるためで、これに合わせて材料は開発、規格化されるので30年周期の倍数が合理的な寿命となるわけです。
このようにトータル的に考えると60年の耐久性があれば充分な期間且つ合理的と考え、柱が太いから、梁が太いから100年住宅(建築)ではなく、60年以上家を存続させる強い文化・・・宗教や酒蔵、家族商い、寺院、家族一族の想い等がなければハードだけでその建物が60年以上存続させられるはずはありません。
以上結論・・・
我々家を設計する者は60年は使い続けられるハードを薦めるのが合理的という気持ちでよいと思っております。その先はおまけです。また30年経たとき2周期に向かわせるようなその建物に対し強い想いが必須となります。その想い(2周期を可能にさせる気持ち)を育む器として「緑の家」を仕様を決め、設計して参りたいと考えております。