建築業界は着工数が落ちる冬に様々なイベントがあり、その中でも多いのが海外視察です。特にこの10年間は、日本の2020年断熱義務化(超高断熱)の影響もあり、スイスやドイツ、北欧に人気が集中しております。
欧州に行った事がない!
実は・・・私が高断熱では30年前、超高断熱においては8年前から傾倒していたにも拘わらず、欧州に一度も行ったことがないのです(北米は20年前に行ったが)。
超高断熱の事は除外しても昔から気弱だった私は、外国語言語力の無さと身長が低いと言うことがストレスとなりあまり行きたいと思ったことがない所謂島人間です。ですので海外情報はもっぱら活動力のある人にお任せで、その中から情報を頂くようにしております。
また・・・特にここ数年は欧州の超高断熱にあまり興味がないと言った方が良いかも知れません。それはご存じ夏期の「建物とカビ」に興味が出てきたから特にそう思います。
欧州(ドイツ)の建物には通気層がない!
今年の2月に、何時も堅木に使用する自然素材のオイルで「リボス」の総輸入元である㈱イケダコーポレーションさんの主催で「湿気と建物」のセミナーに行って参りました。その時のブログはこちらですが、この時のブログでも紹介しましたが一つだけはっきりと伝えてないことがありました。
その時にパワポでこちらの写真が紹介され、1月のブログでは
ドイツとこの日本で決定的な違いは・・・剥離落下は別にして、カビに対する向き合い方だと思います。ドイツでは外部でも徹底的にカビを嫌うようです。一方日本(特に新潟以南)では、外部のカビを嫌っていたら社寺仏閣は造ることができません。社寺仏閣の外壁はカビだらけだからです。
と書きました。実はもう一つ大事な事を書いてはおりません。
それがドイツでは通気層が標準では造られない・・・と言うことです。
「蒸ける」ってことを知らない!
私が高断熱高気密の住宅を28年前に設計し現場に監理に行った時に、必ず現場の大工さんから
「ビニールで密閉すると蒸けて木が腐っちゃうよ」
と言われました。この時に何を言われているか直ぐにわかりました。
それは・・・
気密シートの裏側(壁内部側)に着いた水滴でした。
確かにビニール裏に結露したその水滴は、壁内であるが故に逃げ場を失って木が腐ると直感します。しかし私はその時からタイベック(透湿防湿シート)で造られた通気層と室内側を冬期は加熱(24時間暖房)するとわかっており、それが壁内の湿気を容易に屋外へ逃がすとわかっていたので、
「腐ったら私が責任を取る」
と言って施工してもらっておりました。
大工さんはこの現象を目の当たりにすれば、「蒸けて腐る」と言っても当たり前の判断だし、かえって良心的に教えてくれたと思っております。
蒸ける原因は自然素材にある。
28年前の「蒸けた」原因となった水滴はどこから来たかと言えば、それは当時当たり前のように使われていた「グリーン材」であることは間違いありません。
グリーン材とは未乾燥材のことを指し、当時の家の木材は、たった24時間前に山から木を切って製材した柱が使われる事もあったくらい、乾燥には無頓着でした。ですので柱一本には放出される水、数リットルが含まれている事もあります。この水分が通常1年で半分以上放出されます。この水の逃げる先がないと壁内で結露し、それを大工さんは造っている最中(上棟後2ヶ月)で目の当たりにすることになります。
しかし現在はKD材(人工乾燥材)や集成材を使うのでこのような数リットルの水が柱一本から放出される事はありません(今でも丸太などのグリーン材を使っている所もある)。ですのですこの点は安心ですが、今つかわれている乾燥材の柱でもこの現象は起きております。これは衣服も含む自然素材の特性で、常に僅かな水分の吸放出が行われるためです。つまり鉄やガラスと違い湿気を含む事ができる自然素材は湿気を吐き出す事があり、この点が快適性をもたらしますが、一方ではデメリットもあります。
この自然素材の特性が夏型結露の原因であり、夏期の大気中の湿気が絶対湿度が低いエアコン空調された室内に向かってその境界面で起こる結露とは少々発生原因が違います。なぜなら当たり前ですが、現在のエアコン冷房の温度は27度くらいで、大気の露点温度が長時間27度まで上がる事は殆どありませんから、結露が発生する事がないのです。
温度変化の大きい部位は・・・
乾燥材で温度変化が短時間で大きく変化しなければ夏型壁体内結露はありません。
木を含む自然素材の殆どが湿気を吸放出する素材です。吸放出する素材は接する大気環境に平衡になろうとしますが、その主特性は温度(接しているミクロンの外周温)が上がれば、相対湿度が下がるので吸った湿気を放出し、温度が下がると相対湿度が上がるので材料が湿気を取り入れます。これはほんのわずかな材料周囲だけでも起こる現象で、極端には材料をそのものを暖ためることと捉えても同じであり、その特性は材質によって大きく変化します。
この主特性を利用したのが除加湿機です。つまり吸湿体に湿気を吐き出させたいときは相対的に高い温度に吸湿体を加熱します。逆に湿気を吸わせたい(湿気が勝手に入り込む)ときは吸湿体の温度を下げ湿気を呼び込みます。この現象は目で確認できないので想像で理解するには大変です。
短時間で大きな温度変化がある部位(日射のあたる西壁など)は、この特性で素材の吸放出量が盛んになり水蒸気ガスの密閉された空間ではその相対湿度に大きな影響をあたえ、それで夏期型壁内結露を瞬間的に引き起こします。
日本の外壁には通気層
この事は科学的に解明されていない江戸時代でも体験的に知っていたので、日本の温暖地に建設される建物は、通気層が有ったり、露出していたりと、とにかく素材をできる限り大気に開放させた構造でした。
例えば明治維新以降導入されたレンガ造りは、日本では必要とされていた耐震性が確保し難い理由で発展しなかったと言われますが、もう一つ大きな理由として、湿気の吸放湿が大きい素材のため、大気開放のバランスが難しかったと私は考えております。
住宅では古くから外壁板張りで、その板はただ組み合わせてあるだけ壁内の湿気の移動を妨げてはおりません。一方厚い漆喰で固められた欧州の建物は、その漆喰が完全に一体化して湿気出入りを困難にしております。ただし、低緯度の欧州以外は大気中の湿気も少ないので「蒸ける」事がほとんどなかったともいえます。つまりその土地の気候状況に合わせ建築方法が確立されております。
建築学会でもこの「蒸ける」現象は25年前に様々な研究者が実測しデータを取って、一時の夏期の「蒸ける」現象は、現在の通気層+防風透湿防水シートの外壁構造であれば本州では問題ないとの結論で、上写真のように国のマニュアルにもしっかり記載があります。
文化・環境の変化に同調し風土に合致させる
近年日本でも暖房が標準的となり、夏の高温多湿でありながら高湿(日本海側)や低湿(太平洋側)の冬があり、その中で室内を暖房するという世界でも希な住環境に変化しております。高湿の冬の暖房だけを考えれば、その暖房文化の先進国である欧州や北米から学べば十分な答えが得られますが、日本では高温多湿の夏期も重要です。これは日本以外の先進国では少ない風土・環境であるがゆえ日本独自の建築方法を考える事になります。つまり日本の建築方法は日本国内で考え解決するのが道理で近道だと私は考えます。だからこそ、今は欧州に行って何かを学ぶ時間があれば、日本の過去建築と風土を良く研究して夏の対応をする方が魅力的に思えます。ですので私は今はこの新潟県の環境をもっと理解しようと考えております。新潟県を深く理解することで、他の県の環境も深い洞察ができるのです。
最後に・・・この35年間に欧・北米に行って断熱と換気などの技術を日本に伝えてこられた先人の皆様には敬意を表する事を忘れることはなく、感謝しております。