通風と全館空調について その2 失敗から学ぶ

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今から30年前の1993年の話であるが、上のような全館冷暖房を持つモデルハウスを設計し、竣工後1年ほど実測を行なった事がある。

上図のシステムを概略説明すると、この家はエアコン本体1台で全館冷暖房する。この時空気を熱媒体としたとき、効率の良い快適な全館空調を目指すと暖房時と冷房時ではその経路が全く逆になる。

それを図2の(1)と(2)のような仕組みで実現している。まず冷風温風経路としてはその殆どを建築的ダクトで行なっている。床下空間は当然小屋裏から階間(1階と2階の間)までをダクトとして使用していた。その一方強制的な補助ファンなどは一切使用せず、エアコンに備え付けのダクト用のファンで送風(確か1000m3/h前後)を試みていた。ここ最近このようなシステムに近い全館冷暖房空調が巷では様々あるが、30年前に行なっていたことを考えると(熱損失係数旧Q値1.27w/m2KでG2とG3の中間性能)、相当先進的ではなかったかと思う。

青矢印のように換気システムが2セットあり、空調時用と中間期用となっている。

この時の特徴として、主の縦ダクトは建築で750角程度のPBで囲まれた空間に、GW角ダクトが内包され二重管になっている。暖房時には主の建築ダクトに温風を吹き込み各部屋の床付近に設置されたSAグリルより吹き出され、天井に設けられたRAグリルより小屋裏(階間含)へはいり、小屋裏(階間含)に貫通接続している2重ダクトのGW角ダクトに入って床下に放出される。床下に放出された空気は床下に設置されているエアコンのRAから取りこまれ室内を循環するシステム。ビル用のエアコンと同じようにこの循環風に適量の外気(新鮮空気)を混ぜることで換気も同時に行なう。この換気とは別に第1種換気システムもあり、中間期には冷暖房システムを止めこの第一種換気システムで換気する。冷房時には電動ダンパーを使い、エアコンの冷たい空気はGW角ダクトで全て小屋裏(階間含)へ送られ、小屋裏(階間含)から天井に設けられた先ほどのRAグリルがSAグリルとなって部屋に供給される。また先ほどの壁付SAグリルだったのが今度はRAグリルとなって主の縦ダクト内に入る。主の縦ダクト内空気は電動ダンパーにより床下へ放出され、この空気が床下にあるエアコンのRA口から吸い込まれ循環する。これは暖房時とまるっきり逆の循環で、冬は足下から暖め、夏は頭の方から冷やす事を考えてつくったシステムであった。これだけ見ると常に頭寒足熱のような順路になるので理想的な全館冷暖房であったのではないかと思う。また24時間換気の新鮮空気を冷風や温風に混ぜる事で、温度ムラが無いように配慮しており、中間期の換気システムも別に設けているので、消費電力でも無駄がない素晴らしいシステムであった。

では何故それが続かなかったのだろうか。また「緑の家」ではこのようなシステムを設けなかったのだろうか・・・

それは、

1.システムが高価である

2.システムが複雑になる

3.吹き出し風量調整が難しく室内温度ムラができた

だったためである。

特にこの実測で学んだことは、3の風量調整が難しいことであった。圧力損失は殆どないが建築でつくるダクト的空間の気密維持が厳しく、施工が甘いとショートサーキットしてしまい、思ったとおりの経路で空気が循環してくれない(温度ムラの発生)。この頃(1993年)は内外の気密施工(高気密高断熱住宅のこと)でも苦労しているのに、更に室内空間ごとに気密を維持をしなければならない。例えば縦ダクトも少しでも隙間が生まれればシュートサーキットして本来の経路から外れるが、縦ダクトのように目視検査しやすいところは問題ない。小屋裏や階間、間仕切り壁、スイッチ、巾木、ユニットバス壁の隙間など全てについて気密区画を設けるがごとく施工しなければ、想定通りの経路を空気がとおる事はない。空気は漏れてもクレームにならないよい熱媒体だが、これは諸刃の剣で漏れても容易にわからない事を意味し、隙間が起きないように施工をチェック方法が確立出来ないのである。

決まった経路で空気循環するためには、各空間(建築ダクト)の気密維持が重要で有り、それがこの当時からわかっていたので、オーブルデザインの床下暖房のシステムは当初から「静圧」を上げることを重要視していたのである。床下空間だけの気密維持なら床下が高い「緑の家」では漏れ箇所が目視でき、ある程度の気密維持が可能である。

つまり30年前のこのモデルハウスの全館空調システムは、その後採用されなかったので「失敗」にあたるが、この失敗があってその原因を突き止めたからこそ、現在の静圧を高めた「緑の家」方式の床下暖房システムの成功がある。

本来は失敗を経験して学ぶより過去の先人の事例でそれを予測して進歩する事が好ましいが、凡人の私ではそれは出来ない。せめて一つの失敗で二つの学びを得たいと思っている。

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