新潟県における大地震の想定⑨ 耐震化の定義を理解する

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新潟県における大地震の想定⑧では「耐震化率の定義がおかしい」とと投稿したのに、⑨では新潟県における大地震の想定⑨では「耐震化の定義を理解する」とあるのはおかしいだろうと思う人がいるはず。私もそう思うがこれには少し理由がある。

そもそも平成21年の瑕疵担保法以降竣工した建物なら特に現法(令和6年で有り令和7年ではない)が求める耐震性がある建物として問題ないと考えている。であるが来年になると更なる改訂が有り、実質総2階建て木造建築の耐力壁量は現在の1.2倍程度まで引き上げられる。つまり更に安全性の基準が2割ほど上がることになる。これは現法が震度6強付近において建物が倒壊しないことに対し、太陽光発電、ペアガラス以上の窓、断熱が厚くなるなどでその基準を満たすことが出来ないと判断しているからである。よってこれらの装置や仕様でなければ現法の基準である平成12年(2000年)でもまだ良いとの判断は合理的。一方昭和56年の基準では柱と梁や筋かい端部の接合部に具体的な規定をかけていないし、それに見合ったアンカーボルトの設置を義務付けはしていない。ここが今回のテーマの「理解のする」ポイントである。

つまり・・・

昭和56年の基準で耐震化が無条件にOKにすれば、リフォームやリノベで行なう耐震性強化の基準が緩いままでよいことになる。築60年の住宅に耐震性強化を行おうとしたら、ある程度手当たり次第に壁に構造用合板を貼ればよい。バランスや端部接合部なんて現法に合致していなくとも、とにかく壁だけを強く増やせばよいことになる。また基礎も鉄筋さえ入っていればとくに他は気にしなくとも良い。鉄筋がない基礎ならそこは新たに添え基礎を作るだけで、アンカーボルトや引き抜き金物がどこそれにいくら必要だとの裏付けもなくとも、ホールダウン金物は4隅にあればよい。

確かにこれだけも行なえば倒壊はし難くなるだろうから、これはこれで理解はできる(もし56年基準を無条件にOKしなければ、耐震化工事では外壁と内部壁は最低でも全部剥がして目視後補修しないといけなくなるから)。

よって問題なのはこれらの耐震化工事をすれば、震度6強の揺れにあっても再び使える建物になるほど強化されたと思っている人も多くいるのではないかというところ。その点だけをしっかり説明する事が専門家の役目である。耐震化工事を行なったことで現法と同じ震度6強で大きな損害のない耐震基準と同様になったと考え、キッチンや水回りを新しくして大きなリフォーム工事をする人も出てくることに対して正しい判断が可能になるからである。とにかく・・・現在の一般的な耐震補強工事では震度6強付近で倒壊(つぶれた建物)はしなくなるが、全損(もう使えない損傷を受けた建物)になるのである。それでも怪我や亡くなる人がいなくなればそれは大成果である。この点を私は理解したのである。

さて最後に・・・昭和56年(1981年)基準の頃のお手本とされた住宅金融公庫のマニュアルを見ると・・・

何度も何度も開いていたのでボロボロの懐かしい公庫共通仕様書。これが当時のマニュアルである。

この中には柱梁接合部に少しだけ触れた下の頁があるが、今ではこんなんで大丈夫なの?と殆どの住宅関係者が危惧する参考接合部例が載っている。でも当時はこれが当たり前であった。

事務所にある最も古い金融公庫の共通仕様書(平成10年度版)。私はこのようなマニュアルは当時の建物を知る意味で破棄することはない。住宅は30年以上が当たり前であるから、書籍は40年くらい保管しておきたい。

例えば隅柱はホールダウン金物とかどあて金物が同列に書いてある。確かにホールダウンと言っても10KNからあるので数値上はかどあて金物2本分に近くなるが、アンカーボルト座金が40角時代だから、座金が土台にめり込みでNGとなる。しかしこの程度でも56年基準では良い方の施工例であり、公庫仕様で無い建物の場合は短ほぞに釘留めだけで済まされてもおかしくは無い。そんな施工の実態を知らない机上だけで「耐震化」の定義を決めているとしたらそこは理解は難しい。

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