杉の外壁について

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
杉の外壁と杉の窓枠。赤(心材)と白(辺材)が混入使用。一方シーリングレスで法的に許可済み(個別3条取得)。

SGL(ガルバニューム鋼板)の高騰により「緑の家」では杉の外壁が最も安価な外壁材となった。そこで15年使い続けている杉のこの羽目板の外壁について改めてゆっくりと案内する。

木の外壁は様々な種類があるが、その木のもつ特性である耐久性だけで語るのではなくトータル的に考えられるように筋道立ててご案内する。まず・・・

1.杉の価格と色

赤(芯材)勝ちの杉の外壁(羽目板)。ただし白(辺材)の混じるのが一般的。

杉は部位によって色が大きく違う。上は赤と呼ばれる心材付近の杉。この心材は節が多く残る部分で、節がないところは貴重であるため価格が最も高い。なぜ心材に節が多いかについては省略するが、杉の樹齢と林業(枝打ち)で決定されるので昔からこれは変わらないこと。特に杉林の手入れがおろそかにされている現在では以前より節無しの杉の心材の価格は高い傾向にある。

赤色の心材以外は白(辺材)といわれ、節がないのが多く取れるが木は柔らかくそして心材より著しく水ががりに弱い。その一方で価格は安価で使いやすい。

「緑の家」ではこの心材(赤)と辺材(白)の混じった材を標準では指定する。その理由はこの赤白混じった杉の価格は赤だけの杉に対し1/2から1/4のコストで入手できるからである。特に白赤まじりの節ありは最も安価に入手できる。

2.杉の耐久性の要因

杉は有機物で天然素材。このため伐採後の杉は地上の条件で容易に腐り土にかえり、とても環境に負荷が少ない材料である。その一方土にかえることが早すぎると外壁としてはふさわしくない。そこで外壁に影響を及ぼすことが通常ないシロアリ加害を除くと、耐久性の要因は次の2つがある。

A.木材腐朽菌※による分解
※木材腐朽菌は一般的なカビのことではなくセルロース等を分解する特定の菌のこと。


B.紫外線による分解と摩耗等

表面に防腐防蟻剤を塗っても木同士の接する小口から腐朽するウッドデッキ(杉材)

木の耐久性を考えるにあたってAの腐朽菌による分解が最も大きく、屋外の湿った土の上に放置なら2~6※年もあればほぼ形がなくなる。一方Bの紫外線は2~4mmを30~40年程度かけて削り取られようになくなる感じであり、とてもゆっくりである。厳密には紫外線で木の分子構造が破壊されつながりが弱くなったところに風、雨水の摩耗で消滅する感じである。
※シロアリの食害を受けると2年、シロアリの食害がないと6年

南面の50年以上経過した木の外壁の表面は紫外線と風雨ですり減ったようになる。

このためBでは実用に耐えられなくなるには少なくとも30~40年以上かかるので、Aさえ防げば外壁表面材(一次防止と二次防水膜の紫外線・物理保護)としてふさわしい材料となる。

築50年以上の外壁。赤い線から左側は竹林で守られた西面の外壁で、右は真南の日射の当たる外壁麺。日射(紫外線)が当たらない西側の外壁はまだ新しく見えるほど痛みがない。

3.白(辺材)でも赤(心材)でも変わらない耐久性のある室内

上の1.の説明で杉なら心材(赤)のほうが辺材(白)より著しく耐久性が高いと申し上げたが、ここでの耐久性とは腐朽菌による分解への抵抗力のことである。腐朽菌は日本の地上において水(木材中の自由水のこと)さえあれば繁殖し分解が可能となる。逆をいえば自由水さえなければ腐朽しないともいえる。これは木造住宅に使われる「柱」で証明できる。

杉の柱材。左がKD材で右が天然乾燥材だがいずれも心材と辺材が混じり色が赤白となる。

一般の木造住宅で使われる杉の「柱」は間伐材を使用する。間伐材とはスギ林の中で間引かれる木のことで、樹齢15年~40年くらいの概ね直径300mm以下の木である。そのため一般の杉の柱では心材と辺材が交じり合うことになる。

この柱を使った住宅が雨漏れなどない正常な状態なら、50年経って壊してみても全く問題なく、このままの姿で現れることを我々はよく見るので知っている。つまり雨漏れがなければ木の自由水がなく、結合水だけなら木は腐らない。また壁内の杉柱は紫外線に全く当たることがなければ、杉の柱は建てられた時からほとんどその色さえ変わらない。これは赤(心材)でも白(辺材)でも耐久性※が全く変わらない。
※シロアリ加害を除く

「て・こあ」で100年経過した杉の柱(赤白)は、色は茶色だが顕著な紫外線劣化がない。

しかも紫外線がもし室内程度と少ない場合は、その劣化はほとんどなく100年経っていてもほとんどない。

4.木材腐朽菌から守るために

上の3でわかるとおり、杉の白(辺材)でも赤(心材)でも腐朽菌さえ繁殖しなければ杉の耐久性はほとんど変わらない※。では腐朽菌から守る方法は3で申し上げた通り、木に自由水を与えないということ。※シロアリ加害を除く

一度乾燥した木には自由水がなくなる。しかし水にさらせば再び自由水は細胞間に存在してしまう。屋外において雨水がその自由水を与える手段となるが、この雨水から如何に木を守ることができるかが腐朽菌から守る要となる。

京都の東本願寺御影堂。明治13年起工。木造建築での原則は屋根を大きくして雨から建物(外壁も)を守ることに尽きる。

この答えは歴史が証明してくれる。日本に現存する古い寺院や古民家のほぼすべてが屋根が異様に大きい。これは威厳を示すためとこの屋根が建物の欠点である柱の根元を守るため。当然それは外壁も守ることになる。つまり日本の木造建築は屋根を大きくすることで、雨水と紫外線から木という素材を腐朽菌や紫外線による劣化から守っていた。これが雨の多く湿気のある日本において木造建築では一番最初に行うデザインなのである。大きな屋根は日射遮蔽ではなく雨水からの保護が主目的であったと私は考えている。人が住まない社寺でもそうなのだから。

5.雨があたる木は薄く使う

築50年以上経過した民家の窓上庇。薄い木でできていることがポイント

上の3で申し上げたとおり雨水から守り切れば腐朽菌に弱い白(辺材)でも腐ることはない。逆をいえば白(辺材)は雨水など当たり腐朽菌がはいると赤(心材)より著しく弱い。しかしそんな白(辺材)を使うための工夫を行えばそれなりの耐久性はある。それが木を薄く使うことである。その例が上の通りで窓上に庇や外壁として使っている杉材は、50年経ても腐朽菌に侵されることがなくその形状を保っている。これが心材だけで構成された木という可能性もあるが、新潟県における木の外壁を使った事例を見る限り心材(赤)だけでつくられた外壁を見ることはない。大概白(辺材)が大小はあれ混ざっている。それは当然コストを考えてのチョイスだと思う。

寺泊の拙宅の南面外壁(2007年施工)。白(辺材)と赤(心材)が混じる外壁でも今現在問題ない。

経験的にみても木が早く乾けば腐朽菌が繁殖しがたくなる。白(辺材)でもそのようになるから、白より強い赤(心材)をつかえば屋根材にもなるくらい耐久性がある。

厚く太い木(棟木)は金属でまかれ水から遠ざけ、薄い木はそのまま野ざらしでつかわれる。
画像に alt 属性が指定されていません。ファイル名: 1-10.jpg

上の写真は関川村にある渡辺邸の屋根であるが、屋根のほとんどの素材は木となり、薄い木で葺いた上に石を載せて飛ばないようにしている。また棟の頂部には薄い木でつくられた小屋根がある。一方屋根の側面には太い木が見えるが、

黄色い丸内は母屋梁の最も水に弱い小口を薄い木でカバーして腐朽を防いでいる。一方少し厚い木である破風板留は小口が露出し腐朽している。木造を見るときには細部が重要である。

太く厚い木ほど薄い木でカバー(黄色内の板)がかけてあり、カバーのないむき出しの厚い木は腐り始めている(ピンク矢印)。ここでいう厚い木とは概ね20mm以上の板材で、薄い木は概ね18mm以下の板材を指す。

豪商の渡部邸では屋根に厚さ9㎜程度薄い木を重ねてはる。屋根だから赤だけの素材。

6.木の外壁の欠点

将来抜け節になりそうなところを予めシーリングでふさぐ。現在16年くらい経過している建物があるが、いまだにシーリングに変化なし。

「緑の家」では木の外壁を使うときに、将来節が抜けそうな部分にシーリング処理を先行して行う。これは節が抜けると穴が通常2次防水層まで貫通することになり、結果的に外壁の耐久性が落ちる。節が抜け落ちても雨水に対しては2次防水である透湿防水シート(タイベックシート)が守ってくれるのであまり問題ではない。しかしそこから紫外線が入りタイベックシートを緩やかに劣化させ、最終的にはシートに穴が開くので2次防水が突破され漏水が始まる。これが問題であるため、節が抜けそうな部分はあらかじめシーリングを施すことにしている。この節の抜けは赤(心材)か白(辺材)かの耐久性の差と同じ影響をもち、死に節は10年以内に抜けることが多い。これは木が濡れたり乾いたりして伸縮を繰り返すことで短期間に起こる。抜け節になりそうな節を同じ木であらかじめ埋めて接着剤で補修してある杉の外壁材もあるが、これはお勧めしない。私が確認した材では数年後にその埋めた節が抜け落ちることが多いからである。やはり水ががりの外部使用では、伸縮の大きさが室内の木と比較にならないほど動くので、その動きに繰り返して追随できないと考えている。室内の木ならそれで全く問題ないが、外部は繰り返し伸縮が大きくとれるシーリングのほうが良い。となると節がない木がふさわしいが、1で申し上げた通り赤(心材)は節がありがち部位のため、節がない木は極端に値が張るから難しくなる。

寺泊の拙宅の南面外壁(2007年施工)。矢印のように施工時にシーリングを施した節はいまだにに抜け落ちたりすることはない。その一方窓と接触する部分にはシーリングは行っていない。

7.杉以外の木

木の塀と外壁材に無塗装のウエスタンレッドシダーを使った日ノ出町の家(築5年後の撮影)雨ざらしの塀と大きな屋根で守られた外壁の色の違いがわかる。

日本の杉よりも雨がかりにおいて耐久性が高い木は多数ある。例えばヒノキやウエスタンレッドシダー。こちらの心材は杉の心材よりさらに耐久性があるが、価格がウエスタンレッドシダーで1.5倍、ヒノキで杉の倍以上になる。また栗、欅なども杉より屋外耐久性が高いが、固く重く癖があり変形するので市場には出回らない。屋外使用で最強の木であるアイアンウッドも外壁として使うことができるが、重く価格もヒノキ並み。主に価格で考えると杉とウエスタンレッドシダー以外ないのが現実。最近は円安でウエスタンレッドシダーが高く益々使いにくくなっているので杉が最有力となる。

外壁材に無塗装のウエスタンレッドシダーを使った五月町の家(築10年後の撮影)。屋根が大きくても北面は均一に色の変化が起きりやすい。

8.まとめ

一般的な木の外壁の時にチョイスは次の通り

大前提はできる限り屋根を大きくとり雨に当てないことと、薄い木(12㎜~15㎜)をつかうこと。これは杉の赤(心材)以上に雨水に対し耐久性があるウエスタンレッドシダーをもってしもウッドデッキに使うと10年で腐ることでわかる。杉(赤)のウッドデッキなら10年以内に腐ることから当たり前の思考である。そもそも高い材料を使った時ほど大切にしたいと思う気持ちが働くので、可能な限り屋根を大きくして雨がかりをさける。

予算が十分にある↓
ウエスタンレッドシダーか杉の赤(心材)で抜けそうな節がない木を選ぶ
。経験上耐久性は40~45年以上と推定。

予算が少ないが木の外壁にしたい↓
12㎜~15㎜程度の薄い杉の白赤まじりをつかう。但しこの時に屋根を大きくしてできる限り地面から離し(高基礎など)早期乾燥を心がける。また小口を雨がかりからできるだけ避ける(横ばりがコストをかけず小口吸い込みを避けやすい)。
経験上耐久性は30~35年以上と推定。

その他注意事項として将来抜けそうな節(死に節)のある時は何らかの処理を行う。また確実に通気できる通気工法を採用する。

最後に何度もこのブログ伝えているが・・・
木の外壁にした場合、瑕疵担保保険では必須の窓回りシーリングであるが、このシーリングが10年以内に切れたり痛んだりすると、現法では無償で施工会社が補修する必要性が高い。外壁の木の伸び縮みからそこまでしてシーリングの必要があるかと考えたときに、しない選択もある。「緑の家」はこのしない選択をしているが、それには瑕疵担保保険の個別3条を取得する必要がある。取得しないと法律違反(瑕疵担保の設計仕様違反)となるので注意が必要。


シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする