換気を少し考察 その2 換気計画はとても複雑

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換気の種別は概ね①~⑩。その他ダクト式とダクトレスの組み合わせ、パッシブ換気や換気の必要の無い木建は除く。

その1でお伝えした換気扇の種類で最も単純で安価な方式が⑩である。専門書などはこのような①から⑩の特徴、長所、短所を説明するのであるが、現場実務ではもっと複雑である。ではどんなところが机上設計とちがうかというと・・・先ずはポンチ絵で説明していく。

風が全く無いときの換気種別⑩のポンチ絵

⑩の机上設計ではこんな感じになる。

但し・・・今後のポンチ絵は温度差換気、隙間からの漏気と気密性能による圧損差異等は無視とする。また数値は目安として見てほしい。

そもそも・・・JISで定めた気密測定では、常時換気の給気口や排気口は閉めて測定する(目張りもOKの時がある)。と言うことはこのポンチ絵上の換気計画(種別⑩)では、自然給気口はただ単に開いている穴でありその穴の大きさが60Φで5個あれば・・・140cm2(有効開口部は90~110cm2)にもなる。つまりC値1.0cm2/m2程度の高気密性能の家ではあっても10Paの内外差圧が付くことはほぼない。常時換気しているとき(大きな穴がある)は高気密ではなく普通の家となる。

そのような状態である方向から風が吹くとこうなる↓。

計画換気は崩れ風上の個室に給気が集中し、風下のLDKの給気口からは給気がなくなるのである。風速5m/sが常時吹くような環境は冬期の新潟と、海岸部などと限られるかも知れないが、これは常時換気としてあまり良いとは言えない。

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図は日経ホームビルダー7月号の記事から抜粋しモザイク加工をした。ピンク矢印のお風呂換気がOFFの想定であるが実際は不可能?

次に日経ホームビルダー7月号で取り上げた熱交換率が90%→19%に下がる可能性のある換気方式であるが・・・これは何回かブログで紹介している全熱交換型換気扇の欠点である。

CF(循環ファン)を除く換気設備はこのように6箇所以上あり、このうち個室とLDKの設備が常時換気となる。しかし実際はお風呂の換気扇も常に可動していている。

個室とLDKに設置された全熱交換器の空気の動きは上で示すとおり給気と排気が数分ごとに逆転することで熱交換をおこなうという単純な蓄熱型の換気扇。

つまり・・・それをポンチ絵にすると↓

と・・・綺麗に空気がながれると机上では考えられるが(実測の論文もある)・・・

他の外因・・・例えば浴室と便所の換気扇が運転していると、

排気過多で差圧が大きくなってファン能力が低い機種の排気量が減る。

という感じなり実際はLDKと個室のダクトレス換気扇からは計画通り給気されない。特に問題なのが排気がほぼ無くなるので、熱交換に必要な排気量を得ることが出来きず熱交換率は限りなく低くなり・・・90%が19%になる事も高い確率で起こるとしたのが日経ホームビルダーの記事。ではお風呂の換気をOFFにすれば良いのでは?と思われるだろうが、お風呂の排気換気を止めると・・・お風呂が湿気てカビが生える事になるので実際は不可能だと思われる。

そう、お気づきだと思うが・・この時にお風呂のCF(循環ファン)があれば問題はほぼ解決される(トイレ使用時は未解決)。

数分おきに給排気が反転する事で蓄熱された熱が再び室内に戻るという理屈が正しく発揮されお風呂場も乾燥する。

これで風呂のCF(循環ファン)が急遽認知され普及する・・・かも(笑)。

しかしやはり不安定なこの反転型熱交換換気システム・・・CF(循環ファン)を採用してもトイレ使用時や風が吹くとNG。このシステムの換気扇に使われているファンはプロペラ式の静圧が殆どないファンであるため、外風の速度圧に負けてしまう。このような事は机上で想像できるのであるが、多くの建設会社さんは設備に弱いので気づかない事になる。

裏付けるように「緑の家」を施工されている建設会社さんから

「寒い風が入ってくるとクレームとなった。2度とこんな反転型熱交換換気システムは使わない」

と言っていた。

しかし問題は風呂換気だけではなく、風も大きな影響を及ぼす。

上の図でもわかるとおり・・・CF(循環ファン)を設置して風呂乾燥は解決されていても風上の個室からは大量の給気がされ、下図のように数分後に排気に切り替わっても風に負けて排気が殆ど出来ないないから、熱交換は個室側ではほぼ不可能・・・。個室に冷たい風が入ってくることは明らかである。

この想定は風の向き強さや給気換気扇の位置、排気換気扇の位置で全て変るのでそのバリエーションは相当数ありこれら全てを把握する事は、住宅程度の設備計画では不可能。更に冒頭で示したとおり、「温度差換気、気密性能による漏気と圧損」を加味したらとんでもなく複雑になる。よってこんな複雑な想定を全て考えるより外因にできる限り影響を受けないような設備とし、多くのセンサーによって制御する飛行機のような換気方法に近づけた方が安定化し単純化できる。ですので私は外的要因を受けにくいある程度のエネルギーを使った(静圧が確保される)第一種換気システムを選んでいるのである。そのためには多少のエネルギー消費は止むえない事。
自然界ではあり得ない、たかだか30cm程度の薄い壁で空気温度差30度を作り出すこの人のエゴである暖房時(新潟では6ヶ月)は、省エネより快適な空間を第一に考え、その中での効率化を目指す。この考えで超高気密住宅での第一種全熱交換型換気(①のダクト式)が基本であり、①にCo2又はO2センサーとRH(相対湿度)センサーが付けば確実になるとおもわれる。が、行きすぎると今度は高イニシャルコストとメンテナンスが複雑になるのでその折り合いも大事だと考えている。

その2で前置きが終わりその3では実際の「緑の家」の換気方法を交えて説明するつもり。

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コメント

  1. 水野 より:

    浅間様

    いつも御回答ありがとうございます。

    >トイレ使用時

    Panasonic (パナソニック) パイプファン 同時給排形換気扇 FY-CL8A

    等、同時給排の機能が付いた換気扇をトイレの都度換気に使用するというのは効果があまり無いものなのでしょうか?

    • Asama より:

      >Panasonic (パナソニック) パイプファン 同時給排形換気扇 FY-CL8A等、同時給排の機能が付いた換気扇をトイレの都度換気に使用するというのは効果があまり無いものなのでしょうか?

      トイレが同時給排ならトイレ使用時の負圧改善効果があると思います。但しこの品番では有効換気量が18m3/hなので、理想的拡散で計算しても部屋の気積分1回替わるのに13分もかかるので、通常の消し遅れスイッチでは匂いが取りきれる前にストップします。もっと大きな換気量がとれるのが良いでしょうね。

      • 水野 より:

        浅間様

        御回答ありがとうございます。

        便所•洗面所の換気回数(回数/h
        )の目安(建築設備設計基準)
        http://www.nationalkankisen.com/catalog/2012/pdf/654.pdf
        が5〜15と結構幅がある理由がよく分からないのですが、
        仮に、乳児のオムツがトイレの汚物入れにあるような子育て中の世帯で、トイレの換気の常時運転を希望した場合、18m3/hの換気量でも少ないでしょうか?

        • Asama より:

          >乳児のオムツがトイレの汚物入れにあるような子育て中の世帯で、トイレの換気の常時運転を希望した場合、18m3/hの換気量でも少ないでしょうか?

          少ないと私は考えます。

          その家にとって乳児がいる期間はどのくらいでしょうか?3人子供がいたとしても5~6年くらい・・・。
          家の設計はその家の大人が中心となるはずで、「例外」のことはその時に対応出来る事であればそれで良いはずです。
          無垢無塗装の床を薦めると、「子供が小さくて汚すから・・・」を言われますが、昔のタタミの家のようにその時だけは床にビニールの敷物をして対処すれば良いと思います。原則は大人が中心の家・・・。

          私は前の人の匂いが気になるので出来るだけ速やかに排気できる風量を設計します。18m3/hで設計したら間違いなく一般的にはクレームがつきますが水野様が前の匂いがあっても許容出来るならそれでよいでしょう。
          私達建築士は原則は何か、例外は何か切り分けしないととんでもない装備になったりします。

  2. 水野 より:

    いつも勉強させて頂いております。
    反転型の熱交換換気システムが外風の速度圧に負けるという事ですが、反転型の熱交換換気システムの外気フード本体を見ると外風の影響を受けにくくするデザイン(設計)になっているように見えます。
    建設会社さんがクレームを受けた反転型の熱交換換気システムの外気フードはどのようなデザインだったのでしょうか?

    • Asama より:

      水野様

      コメントありがとうございます。

      >外気フードはどのようなデザインだったのでしょうか?

      調べてみます。

      わかりましたらお知らせします。
       

    • Asama より:

      水野様
       
       浅間です。
      施工された工務店さんに詳しく伺いました。

      >建設会社さんがクレームを受けた反転型の熱交換換気システムの外気フードはどのようなデザインだったのでしょうか?

      製品付属の専用外気フードだそうです。

      事象は・・・
      風上に設置されたこの機種から冷たい風を感じることがあるそうです。
      また台所レンジフードを使用した時に顕著に感じるようですが、これは他の換気システムも多かれ少なかれありますから、設置位置にも問題があったかも知れません。
      また販売メーカーさんの対応もあまりよくなかったようで、それで2度と使わないという事のようです。