日経ホームビルダー5月号から 
基礎断熱でしろありの被害 そのソースから読み解く

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しろありの季節が近づいている。そんな中、いつもの日経ホームビルダー最新号の5月号で巻頭記事が「基礎断熱の蟻害が構造体に」とある。・・・興味を引く良いタイトルだ。
今夜はゴールデンウィークの始まり・・・よってちょっと長文にて紹介したい。時間の無い人はスルーで・・・。

気になったので直ぐに読みはじめると・・・珍しく少々違和感がある。

記事は2ページで内容は基礎断熱を採用した住宅において、内断熱、外断熱という断熱材部位によって被害件数、被害となった侵入経路などを中心とした記事になっている。

図1 しろあり駆除をおこなった家の基礎の断熱材位置。日経ホームビルダーさんの記事からオーブルデザインで図を書き起こした。

違和感はこの図1のグラフにあった。この図は「蟻害があった家の地域・断熱位置別件数」であると思うが、タイトルが「断熱の位置を問わず被害が発生」と、この図から見られる考察・結果となっていること(横軸は地域区分は次世代断熱基準での地域振り分けである)・・・気持ちはわかるが結果有りのグラフタイトルは違和感しかない。

しかし内容は面白そうなので記事を読むと、このグラフは公益社団法人日本しろあり対策協会からの引用とわかり早速ソースを取り寄せると・・・

ソースはこの書籍。(公社)日本しろあり対策協会の最新号の機関誌である。1500円で入手可能。

確かにこの冊子にこの記事のソースがあった。

さて・・・

ここに何がかいてあるかというと、
この団体に登録しているしろあり防除業者さん(715社)に郵送でアンケート用紙を送り、基礎断熱で蟻害にあった構造、築年数、所在地、件数や部位、しろありの種類、進入経路、駆除方法などを記載して返送してものをまとめている(回答は240社で34%の返送率)。
グラフは日経ホームビルダーさんが3つだけ選んでいるのに対し、ソースは21もある。問題は・・・日経ホームビルダーさんのグラフは割合がパーセンテージしかないが、ソースはダイレクトに件数で記載されている。それをみると・・・

日経ホームビルダーさんの場合はパーセンテージだけ・・・これだと見間違える場合がある。

例えば楕円で囲った地域2の割合は50%:50%となっているがソースでは

この表だけはブログの重要なポイントなのでそのまま載せさせて頂いた。出展元は(公社)日本しろあり対策協会の機関誌2019年1月号P4

件数表示があり、1件:1件と調査全体占める割合(2件/164件)も見て取れる。
どうだろう?上2つから感じる印象が違うと思う。かたや50%で一方は1件・・・。
つまり2地域では元々件数が少ないか、1,2地域から回答された企業件数が少ないともいえる。やはりソースを見ないと全く違う印象になる。

ソース元(公社)日本しろあり対策協会のグラフ。

このソースを読んでざっくりと私的にまとめると、

基礎断熱の中でも内断熱と外断熱があるが、内断熱での被害件数が外断熱基礎の2倍になっていること。

一般的には外断熱工法のほうがしろあり被害を受けやすいことが知られている。そのため外断熱の基礎断熱は寒冷地以外は原則推奨されていないというより禁止に近い表現で住宅金融支援機構の木造住宅マニュアルに記載されている。にも関わらず、内断熱基礎のほうがしろあり被害の件数として倍以上になっている。

そこで考えた。

なるほど・・・

倍になる理由が

1.寒冷地以外では内断熱の全件数が外断熱より多いため

2.外断熱基礎を採用する時にはそれなり心構えをしているため

が考えられる。

1の内断熱の件数が多いと思われるのは、紹介した住宅金融支援機構が決めているように、東北以南では内断熱工法が多い。仮に内断熱工法の家が外断熱工法の10倍建築されていれば、同じ件数があったとしも内断熱の被害率は1/10になる。よって全体の件数がわからない以上、内断熱基礎ののほうがしろありに食害されやすいとはいえない。

2のことは、公的な評価で外断熱基礎がしろありのアタックに弱いとされているため、外断熱を採用する設計者はそれなりのしろあり防御策をしてくるはず。一方内断熱基礎を採用する設計者はベタ基礎で内断熱にすればしろありは怖くないとのことで気を抜いていることが考えられる。

このブログで何度となく取り上げているが、ベタ基礎に内断熱をしてもしろありがアタックしやすい配管貫通周りや、基礎の立ち上がりとスラブの2度打ち込み時に起こりやすいピンホール、セパレートの隙間、ジャンカからたやすく進入する。それを裏付けるように日経ホームビルダーさんの記事内にもソースから下のような表を載せている。

図2 しろありの進入経路  記事からグラフをオーブルデザインで起こし直した。

それによると進入経路の第一位は・・・

断熱材と基礎コンクリートの間(隙間!)

となっている。

一般に内断熱は断熱材を後貼り施工が普通なので、この部分の隙間があきやすい。しかも「緑の家」のような一発打ち込みで且つ配管周りの注意をしていなければ、しろありは容易にこの断熱材と基礎の隙間にたどり着く。一方外断熱はコンクリートと一緒に打ち込むので基礎と断熱材の隙間はまずあり得ない。しかも立ち上がりとスラブの一発打込みになりやすいので「しろありが進むべき道」は、

断熱材の中か

基礎の外表面蟻道か化粧モルタルと断熱材の隙間が有力となる。

「緑の家」の外断熱基礎の配管周り。露出したコンクリート打ち放し面でしろあり予防を行う。

・・・

さておわかりのとおり、ここから読み取れることは
ベタ基礎に内断熱をすればしろあり対策になると思っている設計者がいること。内断熱であっても防蟻意識がないと進入する箇所はたくさんあるし、その結果がしっかりとこの調査で現れている。
https://arbre-d.sakura.ne.jp/blog/2010/11/26/post-0/

また今回のソースには

蟻害を受けた断熱材が防蟻剤入断熱材か?普通の断熱材か?のグラフも有り、それによると防蟻剤入断熱材でも被害がわずかに確認されるということ。つまり防蟻剤入断熱材を使えば必ずしも防蟻工法として万能ではないということ。

このようにソースには様々なグラフ情報があるが、それよりもとても参考になるのがアンケートの自由記載の部分・・・。

赤線の部分が印象的な意見だった。「しろありだけののことを考えると基礎断熱はない方がよい」とある。全くそのとおり。だからこそバランスをとり提案することが私たち設計者に求められる。写真は(公社)日本しろあり対策協会の機関誌2019年1月号P10からP11

一方このソースとて万能な情報ではない。この団体に所属し且つアンケートを返送した企業(回収率は240社で34%)だけの情報である。私たち木造住宅関係者は謙虚にこの情報を受け取り、建て主さんにしろありに対し有効な対策を行った建物の提供を行うだけの正しい知識を得る社会的責任がある。
そして・・・
耐震性の確保、しろありと腐朽菌を代表とする生物劣化対策が前提としてその上で、温熱性能(超高断熱高気密)、意匠(間取りを含む)、メンテナンス性などを設計者は決められたコスト内でその仕様をマジシャンのように振り分け・・・設計業務に望むのである。

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コメント

  1. hatake より:

    断熱材の位置は基礎の内側か外側の二択だと思っていたので「その他」という項目があることに驚きました。

    特に2地域はその他が50%!
    北海道では内でもない外でもない特殊なものが普及しているのか・・・
    と思いながらホームビルダーの記事を読んでいたのですが「50%」と「1件」では全然印象が違いますね。なんだか騙された気分です(もちろんそんな意図はないのでしょうが)

    • Asama より:

      hatake様
       
      コメントありがとうございます。

      >特に2地域はその他が50%!

      推測ですが、その他の工法とは外内両側に断熱材がある工法ではないかと思われます。これらは本州以南でも行われている場合があり、どちらかが選べなかったのではないでしょうか。

      その意図はないにせよこのグラフはこの専門誌のレベルから見るとはちょっと・・・気がします。