日経ホームビルダー2019年7月号の特集が秀逸である。ライターはやはり荒川尚美さん。その特集号をご案内する前に、夏型壁内結露について少し・・・いや長い(笑)が紹介したい。
まずこの分野で第一人者である土橋先生が書かれた・・・
室内温・湿度変動の長期予測に関する研究(土橋 喬雄)建築研究報告 No.93, 1981 建設省建築研究所の一文にあるが、
「壁の吸放湿という現象は,きわめて複雑であり,その機構も未解明のままである。」
とある。雨漏れは例外とすると夏型壁内結露はこの壁内での多孔物質による吸放湿が原因であると私は考えているが、その吸放湿についてはまだ未解明だということ前提にお読み頂きたい。
最初に「緑の家」Aグレードの壁断面図をご案内する。
「緑の家」では柱間に充填断熱の上付加断熱として高性能フォノールフォームを付加断熱としている。
この壁構成でポイントは通気層に接する第一断熱材が必ずフェノールフォームだけで構成され得る外張り断熱になっていることである。
30年くらい前から夏型壁内結露は、夏の一時期でかつある特定の時間だけ壁内のRH(相対湿度)が100%を超え結露するが大きな問題にはならないとの見解で意思統一されており、近年の論文でもこの部分は変わらない。そこに雨に濡れた外壁の湿気が壁内に入りやすいときと、通気層がないときに起こりやすいことが近年追加された。
夏型壁内結露は室内の冷房が主原因でもたらされるのではなく、壁内の吸放湿物質が温度変化によって壁内の湿気量も変化し、この時温度差と透湿抵抗によって壁体内に結露が起こる。よって室内冷房していない家でも起こりえることである。
ではその現象が想像できない方のためにある実験をした。夏型壁内結露といわれる現象がどのような環境で起こりやすいかを、身近な状況を想像しながら写真を見て頂きたい。
用意するものは、「緑の家」の通気層の直ぐ内側に全面に外貼りされる「ネオマフォーム」と、木材でも乾燥材の代表である「杉の集成材」でこれは柱や間柱、GWの外貼りで使用されるはしご材の見立てである。そして最後は樹脂に木材が練り込まれた「樹脂木材」。これは色が黒いので温度に対しどのような結露への変化があるかを見るため。
これらをジップロックの中にいれ密閉する。これは壁体内の両側の透湿抵抗が高い場合を想定している。実際はもっと安全性の高い構成になるだろうがまずは原因が何であるかのためと思ってみて頂きたい。
実測を行う前に最初からわかっていることであるが、夏型壁内結露は
- 吸放湿の感度が大きい
- 温度が変化が大きい
ほど結露する。しかし思い込みで実測結果を曲げる見方がないようにあらかじめわかっている事を宣言し実測を行う。
また壁内結露防ぐには
- 通気層が適切に設置されていること
- 雨漏れや材料に雨がかりがないこと
- 透湿抵抗の低い素材を壁のどちらか最外部使う
であることもわかっている。3の室内側の防湿気密シートを可変型防湿気密シートにすれば夏型壁内結露対策になるが、日中湿気が室内に漏れはいることを考えると本州以南では積極的に行うべきではなく、まずは上の1と2の原則を守るべきと私は考えている。
さて実験だが・・・
助走期間として3日間素材を外に出しておく。この時雨がかからないようにする。この状態は外壁の内部とほぼ同じ条件を作り材料の含水量が空気中のRHにおける平衡含水率になっている状態をつくる。
急激な温度変化は日射によってもたらされるので晴れる日を狙う。
天気予報をみると6月20日は晴れである。
その朝・・・ちょうど霧がたちこめている。
気象庁によると、今朝は17度RH100%とちょっと夏としては温度が少し低いがとりあえず行ってみる。
ここで重要な事が、雨に濡らしたわけでもなく、また水に浸したものを使っているのでなく、自然な大気の状態の木材等であるということ。つまりこの状態で結露が起きれば雨で濡れていなくとも条件によっては簡単に夏型壁内結露がおきる可能性があるといえる。
この時点の外気温22度なので夏としては低い条件。各袋内の温度は・・・
温度に大きく差がついた。
黒に近い樹脂木材は53℃、杉集成材は43度、白っぽいネオマフォームは35度である。
そして袋を目視すると、
杉の袋は周囲におびただしい水滴。所謂結露状態。
樹脂木材は杉の袋の半分程度の水滴。
水に濡れた材料でもなく、どちらかと言えば乾燥材料なのに袋内につく水滴。この不思議現象が夏型壁内結露である。
その後90分くらい経過した10時54分・・・
温度は同じか少し低くなり、
結露状態は・・・
そして日射が陰り始めた11時56分には外気温は25度。この時の袋内の温度は、
袋内温度はさらに下がりネオマフォームでは外気温とあまり変わらない温度まで下がる。
・・・との結果が得られた。
その後日の当たらない室内に放置すると水滴がついていた袋内でも水滴はきれいになくなる。
つまりはき出されたほとんどの湿気が再び素材に吸湿されたと考えられる。
最初に想定したとおりの結果になったが、外部バルコニー床用に作られた樹脂木材(樹脂が主体ですこし木材チップが入っている材料)でも温度が上がったため、結構な結露水がみられたことは少し驚いた。また一般的に通常柱や間柱に使う無垢木材の杉よりも吸放湿量が少なくなる杉集成材であっても相当量の結露水がみられた。無垢材なら更に多くの結露が予想される。
また完全な樹脂で出来ているネオマフォームであってもわずかに吸湿があるので温度上昇の程度によっては結露する事がわかる。多分金属、ガラス以外なら吸放湿があると考えてよいだろう。冒頭のとおり材料によってどの程度吸放湿の応答があるかという研究はまだほとんどされていない。このことが夏型壁内結露を難しくしているのであるが、実はこの夏型壁内結露という表現も正しいとはいえない。冬期でも湿ったタオルなどポリ袋にいれ、屋外の日の当たるところに放置すると袋内には水滴がつく事を我々は知っている。また冬期建築途中の外壁のGWが雨などで湿っていると、防湿気密シートに水滴が多量につくことも体験している。だから「緑の家」の外壁構造は
外部から
・木
・(アスファルトフェルト又は金属板)
・防水PB
・通気層 30mm
・タイベック
・フェノールフォーム
・柱とGW
・防湿気密シート
・PB
・AEP
の順番になっており、
施工時にはフェノールフォーム+タイベックとサッシで防水工事が完成してから内部にGWを入れる。このためGWが雨に濡れることはほとんどなく冬期の夏型壁内結露の原因を排除する有効な構成になっている。また雨にさらされやすい合板施工からGWを入れるまで2週間以上あるため、合板の湿気もある程度乾いている。
いずれにせよ新潟県をはじめとする北陸地方では冬期の雨又は雪の確率は大変高くかつ風も強い。だから冬期のGWの付加断熱はとても手間がかかる。下の図はそのGWだけの付加断熱の一例。
GWだけの付加断熱は手間がかかることと、無垢材が温度上昇の激しいところに(最外部)接している。このため温度上昇が大きく湿気のパージが強く働くのである。
もう一度おさらいをすると
- 吸放湿の感度が大きい
- 温度が変化が大きい
と予想されたが結果も同様になっており、
1の吸放湿の感度が大きいとは
繊維製品や木材などの自然素材、土壁のような多孔質が吸放湿の感度が大きい素材。
2の温度が変化が大きいとは
1の素材に対し廻りと比べ急激な温度変化が起きるとその物質から湿気がパージされたり吸着されたりする。この原理を利用したのがデシカのような湿度制御機器に使われる仕組みである。
つまり、夏型壁内結露防止にはできる限り壁内に吸放湿物質(木など)を使用しない。そして急激な温度変化もたらさないようにする事がまずスタートである。その後パージがおきたときに速やかに湿気の移動透過が可能な壁面構成を考える・・・という順番である。木材を使用しないことは無理であるが、通気層や外張り断熱で温度変化を緩やかにする事は可能であり、また湿気の移動透過可能が部屋内に可能なシートがスマートやザバーン等となる。
では「緑の家」でこれらの可変型気密シートを使っているかというと・・・このシート開発会社さんは以前のこの事件があるから採用には慎重になる。つまり科学を駆使して考えた素材にはある程度劣化の実績がほしい・・・特に途中で仕様変更がされているこのような素材が、20年後にやはり耐久性が不足していたなどにならぬよう安定してからお勧めしたい。また湿気が室内へ放出される事は夏が乾期の欧州では許されるが、夏が多湿の日本で室内にさらなる多湿になる湿気流入はどうか?との疑念がある。よって室内側の気密シートは開発から半世紀以上の実績と安定性があるポリエチレンフィルムが無難となり、夏型壁内結露は
- 通気層が適切に設置されていること
- 雨漏れや材料に雨がかりがないこと
- 可能なら樹脂系断熱材で外貼り断熱をおこなう。
でまずしっかりと防止するのが無難と思っている。