時間軸と超高断熱高気密
・・・そして土間キッチン

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先日お伝えしたHEAT20でのG3水準・・・。

このG3水準が受け入れられ、超高断熱高気密住宅が新築の過半を占めるようになるためにはまだ30年以上はかかるだろう。一方超高断熱高気密住宅の必要性は今から15年さかのぼり、北海道や東北の一部で2005年には既に建築されていた。

何を言いたいのか・・・

石油ショックを2度経験し、2004年から2008年に向けてガソリン価格が180円/Lまで高騰したその時に超高断熱高気密の家が必要とされた。その後原油は高値安定、3.11が起こり原発が止まったこととFITで電気代が高騰すると省エネ・ZEH、ゼロエネ住宅が家の大義となった。2019年に超高断熱高気密へ向かう提言がされるがほとんどの家がその性能になるまでまだまだ先。多分一戸建て住宅の年間着工棟数の0.5%もない超高断熱高気密住宅が大多数を占めるまでには、2005年から50年後の2050年と私はみている。
江戸時代からみれば2桁以上情報伝達が早くなったこの令和の時代でも、住宅建築の進化は遅い。もしかして30年後には再び気温は高く暑くなり、エネルギー価格は下がることで何か違う価値に住宅は向かうかもしれないが、一度切り始めた家の目標はそう易々と変わらないだろう。そのことを昨年の9月に「定説を覆す。土縁はむしろ夏のためでは・・・」シリーズで解説した。

つまり住宅の仕様は時間軸をしっかり捕らえないと間違った判断をする。江戸時代の頃において時代の気候に合った建築は100年後にようやく世の中に広まり一般化するのである。

だから「定説を覆す」という刺激的な題名を付けた下のシリーズ「その1」では新たな時間軸を含めた建築の見方を示し、その2では築150年(江戸時代後期)の民家実測から考察。その3では室町時代の古民家「箱木千年」からもその意向が見て取れること伝えた。

定説を覆す。土縁はむしろ夏のためでは・・・。その1
ああー今回のテーマも新築を考えている建て主さんにはあまり興味のない話で申し訳ないが、私にとってワクワクする話だか...
定説を覆す。土縁はむしろ夏のためでは・・・。その2
江戸の気候とネットで探していたら上の浮世絵が見つかった。 この浮世絵には手動型扇風機が描いてあり、よく見る...
定説を覆す。土縁はむしろ夏のためでは・・・。その3
「て・こあ」の土縁はコンクリートの床とガラスの戸で覆われている。江戸時代にこんな材料があったか?

箱木千年の建てられた室町時代(室町時代は200年間続く)は鎌倉時代より2度以上海面温度が低い時代(年平均気温では5度以上とも言われる)であるが、家の建て方は気温の高い鎌倉時代の建て方のままであった(土間に主要居住部がある)。下にそのブログ部分を抜き出したが、

旧笹川邸が建築された時期は江戸時代後期になる(新母屋を除く)。江戸時代250年間は小氷期と言われ現在より2から3℃以上寒かったと言われている。よって江戸時代の終わりに建てられた建築は、鎌倉時代から引き継がれた「夏をむねとするべし」の家造りから、寒さを凌ぐ家造りに向かっていたのではとおもわれる。夏をむねとすべしの代表的な民家は「箱木千年家」当建物が有名で、家内の過半が土縁か土間になっており、夏の酷暑対策として窓が少ないのが見て取れる。

ウキペディアから。内部は薄暗く窓が小さい。まるで蔵のよう。

一方冬をメインに考えた家の具体的な違いは、大地から浮いた1階の床と2階建の家が多くなってきたことがその表われと思う。2階建の2階の部分は今の建築でも暑いし、屋根が茅葺きで分厚い民家であっても1階より多少温度があがる。また、安定した政治により城下町も発展して町家が2階建になり狭い敷地でより多くの空間を確保したかったとおもわれる。

豪族であったにも関わらず居住部の中心は夏に冷気が生まれる土間なのである。しかも窓はほとんどない。これは構造的に無理だったのではなく、好んで窓を取らなかったと思われる。

一方土間だけの母屋の隣に鎌倉時代と比べ寒かった江戸時代に造られた離れがあり、離れは窓(間戸)だらけで床位置が高い。とはいっても現代と同じくらいだが。これを私的に解釈すると離れは気温が低くなった江戸時代の気候に合わせて造られたと感じる。江戸時代の夏期は気温が上がらなかったから土間でなくとも暮らすことができた。また夜間と梅雨時のじめじめしたときには都合がよく、更に仕事をしなくても良いとき(文明の発達とは仕事をしない時間が増えることである)は高床の方で過ごしたのではないか想像する。
建築関係者は窓の多い離れと表の間に通風が大事と感じるが、実際食べる事や休む事、夏の冷気そして「雨の日の仕事」ではこの土間が重要だった。さらに冬期も囲炉裏火を使って煮炊き採暖にも窓がない方が適するのである。日本の本州以南の一般家屋で人が土間を捨て去り地面から離れて暮らし始めたのはつい70年ほど前からであると考えている。

寒い時期の建物と暖かい時期で休む時間ができた時の建物が並んで建つ「箱木千年」が今後の「緑の家」の薦める土間キッチンに似ている。当時と違うのは土間冷却ではなくエアコンによる冷却に変わった事と、そして仕事時間が趣味時間に変わったことである。

・・・この2つを併せ持っているのが上山の家である。

上山の家(2018年竣工)
土間キッチン部分は空間が繋がり広いので広がりはあるが実は窓が大きくない。

実質平屋である家族の間では他の「緑の家」より窓面積は少なく半分くらい。でも居心地が良いのはこの空間の豊かさで、奥には隔離できる高床の居室がある。

先進過ぎてあまり気づかないかもしれないが、土間キッチンの良さと高床の良さを合わせて超高断熱の家で計画した。これが丁度一年前の2018年秋であり、竣工して一年経ったときに改め感じた「緑の家」の土間キッチンの成り立ちを案内させてもらった。

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