このブログを読んでいらっしゃる方は、「緑の家」ではリフォーム・リノベーションがないと思われるだろう。
そう・・・そのとおりで、私は積極的にリフォーム・リノベーションを薦めていない。理由は簡単で、耐震性の確保がとても難しいから。断熱気密は大概問題ないが耐震性がNGなのだ。
「緑の家」は耐震等級3認定や相当であり、「緑の家」の最低基準が耐震等級2となっている。
この耐震等級2でさえそれを確保するのはとても難しいと常々感じている。
とここまではその1と同じ。その2では既存不適格建築物を取り上げる。まず上の写真は事務所の窓からなにげなく撮影したカットである。この中に写っている建物で矢印のある建物は既存不適格建築物(耐震性で)であると思われる。見える建物群のほぼ半分近い・・・。当事務所がはいるこの建物も既存不適格建築物(耐震性で)である。
既存不適格建築物とはなにか?
年々変わる建築基準法。これに合致していないと新しい建物を建てることは出来ない事は周知のとおり。しかし法律が変わったら以前の変わる前の建物が使えなくなったらそれは大変なこと。また最新法に合致させるために様々な修繕をおこなうことを義務づけてもそれも大変なこと。だからそのような現在の法律を満たしていなくとも使い続ける事が出来るように、現法に合致していない過去の建築物を「既存不適格建築物」と定義して使えるようにしているのが建築基準法の考え。車も同様で今はオートライトがないと販売できない保安基準であるが、オートライト機能がない古い車も走れる。それと同じである。建築当時の法に合致していなければ違法建築物や欠陥住宅と言われるがそれとは違う。
この既存不適格建築物で問題なのが耐震性の不適格。具体的には昭和56年以前の非木建築物と平成11年以前の木造建築物である。昭和53年に多くの家屋倒壊を出した宮城沖地震で見直しされ、昭和56年耐震基準以前は震度5で倒壊中破しない基準から震度6から7で倒壊しない強さに引き上げられた。よって一般的に非木造建築物は昭和56年で耐震性に大きな差がある。しかし既存不適格建築物の規定によって低い耐震基準で作られた建物が今もってつかわれている。この建物を耐震補強して使うことは多くの費用がかかるためやむなくそのままで使用される。一方修繕より新たな建物として作り直される事も多い。
木造住宅も大部分が既存不適格である
さてここでの問題は木造建築物である。これは平成12年に耐震性の大改革が行われており、正しくその法どおり行われていれば、平成11年以前と平成12年以降の耐震性には雲泥の差があると建築士の立場からみて言える。非木造が昭和56年から既に38年経ており建て替えでも許せる年月が経過しているの対し、木造は耐震化されてからまだ19年。建て替えにはもったいないのでリフォーム・リノベーションする考えも多い。そこが問題なのである。その耐震性の既存不適格のストックは全体の3/4にも及ぶとされている(持ち家一戸建てで木造と仮定)。
基礎は無筋コンクリートでもよかった
最も重要な改革は柱と梁の接合部の規定と基礎はRC構造となった点で、その他地盤についても建築物の要素として明記された。
えっ平成11年以前の一般的な木造の基礎はRC構造ではないの?
そのとおりで、コンクリートだけで作っても良かったし、一応推奨された鉄筋をいれてもRC構造で構造計算する必要は無かった(3階建てを除く)。つまりコンクリートの基礎と土台が緊結されれば何でもあり・・・という事。
更に・・・
柱と梁の接合部は規定無し
柱と梁の接合部は柱が折れたり梁が折れたりする前にその接合部が外れると一気に建物は倒壊する。接合部はこの柱と梁で作るピン構造では最も重要な部位である。その大事な接合部は上の平成12年の法改正で2ステップのレベルアップとなり、接合部の金物の具体的な提示が建設省告示1460号でされたのである。つまり平成12年以前では具体的な接合金物の例示が法律にはないので適当(住宅金融公庫に沿った)に接合金物を取付けていたり、中には接合金物の無い建物もあった。
恥ずかしながら平成4年の建築である拙宅も、接合金物は当時の住宅金融公庫仕様で、今と比べると簡単なプレートがついているだけの既存不適格建築物である。
つまり・・・元々の構造の安全性がダメダメなのに、キッチンや風呂、断熱気密性能や設備だけをリフォームしてもはっきり言ってお金の無駄。価値は無いといえる。リフォーム・リノベーションをするなら現行の耐震性に対応し、せめて耐震等級2と同等の性能を何よりも先に改善する事が本来の姿。なぜ耐震性が変わったかは、旧法の耐震性では建物が倒壊したからということを認識してほしい。
上の図を見て知ったら古い住宅を耐震改修無しでリフォーム・リノベーションする事は悪に近い気がする。一般の人は知らなくとも建築士は知っているからこそ皆に伝える義務がある。しかもこの接合部は建物の全てに分散しているので柱の上下(柱頭柱脚)全て確認する必要がある。無論構造計算をした結果に沿って確認する。
次に衝撃的な事実として・・・
非木造でも倒壊の危険性がある建物が44%
2度目の東京オリンピックを前に、東京都では主要な幹線道路に立ち並ぶ建物に対し、耐震診断を義務化し公表する法案を作った。公表された結果はこちら。ご覧のように主要幹線道路にたつ一見立派な建物でも、大地震時には倒壊する危険性が高いといわれるⅠの分類と倒壊の危険性があるとのⅡの分類で44%を占める。これが一般の細い普通の道にある建物なら通常建て替え率が低いので更に多いのではないかとおもわれる。
地方等では市役所や消防署、小学校などでは耐震性の評価の公表がされているが、民間の建物は公表はおろか耐震診断の義務もない。よって今あなたがこれを読んでいるその建物も昭和56年以前の建築物で現行の耐震性の半分の耐力しかないかもしれない。そんな建物を内装だけ模様替えする・・・ちょっと考えられない判断であり、それを推奨する事は知っていなくとも罪になるともいえる。
建物の基本の第一は・・・とどのつまり安全性の担保以外にない。