断熱義務化にむけて危惧する事 2 無難な防湿シートとは。

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

4月13日10時14分 書き忘れがあったので緑字を加筆修正
9月15日 防湿(気密)シートの31年後の目視した結論を加筆

あの透湿防水シートの代名詞であるタイベックが熱劣化をおこし25年後にはぼろぼろになっている。

結論は・・・現時点では家の重要性能である内部結露防止用の防湿シートは、50年の実績ある別貼りポリエチレンフィルムを貼った上で気密測定を行うことが最も無難な施工であると言える。

https://arbre-d.sakura.ne.jp/blog/2023/06/29/post-52686/

・・・と先回申し上げた。が、超高断熱住宅を取り組んでいる方の中で最近の考え方は、ポリエチレンフィルムは過去のものとうつっているように見える。しかしあえて強く言うが可変性調湿シートを使うのはまだ早計と私は考えている。

厚さはわずか0.2mmの薄い素材が、数十年間劣化(酸化)することなく、その性質をそのまま維持していることは限られた素材だけとなる。その代表例が金箔である。金を薄くのばした金箔は、酸化することもなくそのままの状態を維持する。そこまでの劣化のない性能は必要ないが、そのくらい薄い膜の酸素に対する劣化防止は難しい。しかもただ単に物理的強度や見た目が変わらないことだけなく、可変するその性能が変化しないことが可変性調湿シート求められているからやっかいなのである。そこで今私が考える早計だと考える理由を6つあげる。

タイベックがぼろぼろなら2次防水は破壊され機能できず現代の防水原理は破綻する。

1.見た目で性能劣化がわからない

これは最も大きな問題である。何しろ見た目など人間の五感ではそれが正しく機能しているか判断できないのである。ポリエチレンフィルムなら破れやこわばりがなければその透湿抵抗が大きく変化していないと実績が証明している。しかし高湿度時に透湿防風シートに近いくらい湿気を通しやすく、低湿度時に湿気をポリエチレンフィルム並みに通さないことが売りの可変性調湿シートが、20年くらい経過したときにそのまま同じ性能であることが、人の目では判別できないことが問題なのである。

2.湿気と共に臭いまで通す可能性

空気自体は遮断するが湿気はとおすことで有名な素材として紙があるが、これは身近なところでは全熱交換型の換気扇の熱交換素子に使われている。しかし多くの熱交換素子は臭いが湿気ともにリークすることを嫌い、トイレに採用することは避ける商品が多い。また浴室に至っては、浴室内で使われる洗剤などの臭い成分等で熱交換膜が破壊される(湿気の移動が阻害される)ことを嫌い、通常はバイパス回路で排気する。外壁の通気層も含め壁内は臭い的に綺麗とはいえず、20年経過時には壁内にカビがはえその匂いが可変性調湿シートを通過することが想像出来る。一方ポリエチレンフィルムなら匂いもある程度遮断するのでカビ臭が入ってこない。日本の環境では屋外にある自然素材はすぐにカビが生える。通気層内なんてカビだらけである。私はカビ臭こそ建替えの理由と思っているので、長期的に俯瞰した場合通気層、壁内の匂いも遮断することは理にかなう。もし匂いを殆ど通さないなら全熱交換の熱交換素子の欠点を克服するが、そんな素子はまだない。

3.実績もすくなく何しろメーカー保証がまだない

まず可変性調湿シートの長期保証(10年)がないこと。これは最も懸念されることである。防湿シートは内部結露対策の肝となる素材でほぼ構造材だと見なせる。なぜならこれがない壁面(天井)構成は現在の断熱材をぎっしり入れるため内部結露が継続的に起こったときに構造材まで破壊する大きな実害が生じやすい。この防止対策を一手に引き受けるのが防湿フィルムである。よって防湿フィルムはすでに構造材といってよいほど現在の住宅では重要な部材。構造材とは通常交換することがない素材をチョイスすることが大前提。たとえば屋外ではコンクリート、屋内では木、鉄などである。これと同じくらいの耐久性(安定性)が求められるのが今の防湿シートだが日本での実績はまだ15年ほどである。

4.現在の主流であるポリエチレンフィルムに問題がない

現在国内で使われている住宅用のポリエチレンフィルムである防湿シートはすでに40年を越えている。拙宅も32年目に入るが、壁内において何ら内部結露の問題は起きていない。問題がない=そのまま継続してもよい・・・となる。問題が起きた事例として良く耳にするのが、外壁からの雨漏れと通気層が機能していない外壁および屋根での結露による腐れ。これらはすでに建築学会の論文でも多数報告されている。一例を下にあげるが簡単に申し上げると・・・

「緑の家」でこれらの可変性調湿シートを使っているかというと・・・このシート開発会社さんは以前のこの事件があるから採用には慎重になる。つまり科学を駆使して考えた素材にはある程度劣化の実績がほしい・・・特に途中で仕様変更がされているこのような素材が、20年後にやはり耐久性が不足していたなどにならぬよう安定してからお勧めしたい。また湿気が室内へ放出される事は夏が乾期の欧州では許されるが、夏が多湿の日本で室内にさらなる多湿になる湿気流入はどうか?との疑念がある。よって室内側の気密シートは開発から半世紀以上の実績と安定性があるポリエチレンフィルムが無難となり、夏型壁内結露は1.通気層が適切に設置されていること、2.雨漏れがなく外壁に雨がかりがすくないこと、3.可能なら樹脂系断熱材で外貼り断熱をおこなう・・・でよい。

https://arbre-d.sakura.ne.jp/blog/2019/06/24/post-22805/ 2019年の当ブログから

となる。また学会論文の一例は下のとおり。

1996年初期の夏型結露 https://cir.nii.ac.jp/crid/1390282679759590400

2006年頃の夏型結露 http://gakui.dl.itc.u-tokyo.ac.jp/data/h18/216662/216662a.pdf

最近のまとめ(論文以外であるが

良くまとまっている)https://soken.misawa.co.jp/news/20220516/2395/

特に建築技術2018年の特集に記載されている本間先生とのやりとりが面白い。↓

結露の実務を勉強するならこの書籍が最も良いと私は思う。
その書籍のこの対談記事が確信をついて面白く読めるが、ある程度予備知識は必要。

5.耐久性が未知数な事

JISA9630で定められた耐久性試験では、熱を加えて50年分の熱劣化分を加速した試験を行うが、この試験では複合的な要因を考えていない。例えば外壁に使う透湿防水シートは25年前からこの試験をクリアーしているにもかかわらず、防蟻防腐剤を塗布した面に水分がつくと透湿防水シートが即時劣化し本来の性能が出せないことが10年近く前に発覚した。つまり事件が発覚する前の15年間も劣化試験をすれば耐久性がある素材と思われていた。このときシート製造メーカーはみな口を揃えて「想定外」と言っていた。このような事がすでに明らかになっているにも関わらず、可変性調湿シートに接するグラスウールに含まれる撥水剤やホルムアルデヒドなどの薬品によって犯されないか?またセルロースファイバーに多量添加されるホウ酸や防蟻剤のホウ酸塩が高湿によって液体化しそれが、可変性調湿シートの表面で化学変化して透湿特性が変わらないのか等、私でも考えられる想定事項が、私の知っている限り明らかになっていない。

6.バリアーは簡単単純だが透過(フィルター)は難しい

一般的に物作りで遮断は意外と簡単である。遮断とは防湿シートのポリエチレンフィルムのようにある特定物質を両方向に通さないこと。一方透過とはある物質だけを通すフィルターの事で、可変性調湿シートは空気を通さないで湿気だけ通すフィルターである。フィルターと名がつけば想像できるが、フィルターは詰まることがある。物が通過する以上通過水分子と何か他の分子がくっつき大きくなった物質が網に引っかかり、その目が詰まっていくことで最終的には通すことができなくなることは無いのか?フィルターと呼ばれる物には必ずと言ってよいほど定期的なメンテナンスが必須である。バリアーはとても簡単だが透過は大変難しいことは技術者なら周知していること。もし透過に30年以上の自信があるならメーカー保証(10年)がついてしかるべき。構造材である柱などの集成材も保証がついている。何度も申し上げるが柱いっぱいに断熱材を入れる現在の建て方において、防湿フィルムはすでにみなし構造材であるためその耐久性は慎重に考慮するべき。

1997年の事務所設立以来ポリエチレンフィルムを必ず貼ってきた。写真は1999年竣工の「緑の家」の上棟。当時は外張り断熱なのでポリエチレンフィルムが最初に貼られる。

このような理由で可変性調湿シートを使うにはまだ躊躇しているのである。高機能な製品ほど管理しなければならないと過去の歴史が物語っているので、私の勝手な心配事に終わればそれはそれでよいだろう。しかし床下暖房時の床下内メンテナンスも同様であった。10年以上前の床下暖房導入時は、床下内のメンテナンスは必要ないとの意見が多かったが、今は床下内のカビ問題を考えると、床下内がメンテナンスできる方がよいとされているのと同じではないか。

新たな工法や素材は開拓者が先行して冒険的に使う。これ自体否定はしないしむしろその勇気をたたえ、時には尊敬にも値する。しかしJIS規格にもない新しい素材だから、それらは被験者(建て主)に対し正しい説明が行われなければならない。その点は付け加えておきたい。

補足 仕上げ材(クロス)との相性は・・・

まず仕上げ材(クロス)との相性の前に・・・
冬期の内部結露判定は定常計算で概ね確認できる。一方夏型結露は定常計算では一般的に把握できない。これは夏型結露の原因の殆どが外気の絶対湿度が上がって室内側が冷房状態でその影響を受けるのではなく、所謂「蒸し返し」による現象であるため定常計算では難しいのである。実測または非定常計算によって初めてある程度把握できる。当方は非定常計算ソフトを持ち合わせていないため想像となるので補足としたが、室内仕上げ材がもし可変性調湿シートより一桁以上高い透湿抵抗の場合、どのようになるのか・・・。非定常計算で有名なソフトの一例をみると、室内側の仕上げ材は透湿抵抗が低い仕上げ材となっている事が多い。一方日本の多くの住宅ではビニールクロスが使われるので、これはそのメーカーの種類によっても透湿抵抗値は様々変わる。また室内側が透湿抵抗がとても高い釉薬タイル壁ならどう考えるのか?キッチンボードなら?その部分だけは許されるのか?それとも室内通気工法でも採用するのか?可変性調湿シート採用時のその点も気がかりである。

何度も申し上げるが夏型結露に限れば仮に外壁内が一時的に結露しても、ある程度高湿になってカビが生えてもその空気を室内にとり込まない限り実害はない。カビでは木は腐らず木の腐朽は腐朽菌という菌だけである。であるから数百年も木造住宅は建っていられる。しかし建ってはいるがかび臭いのは住まいとして致命的。よってカビが生えた空間と室内は匂い遮断も含めた隔壁がなければならない。そういった観点でもポリエチレンフィルムは有効である。

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする