全館空調と除湿のこと

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「緑の家」では新潟県内で初めてデシカを装備した家の建築工事が5月から始まる。デシカはすでに何棟か設計しているが、新潟県内では初となる。さて今回デシカを使うのはやはり「除湿、低湿度空間」をほぼ完璧に行ないたいと建て主さんからのご要望。それでこれから紹介する過去記事を思い出したので再褐する。

以下は2019年9月26日のブログをほぼそのまま掲載している。オレンジ色の文字で現在のコメントまた年号などだけ手直しをしているが他は今考えている事と変わりないので変更する必要性がない。

再褐始まり==========

最初に・・・夏の住宅内は低湿度が絶対条件とは思っていないのでカビが生えないような概ねRH(相対湿度)65%(一時的なら70%でも可)以下を維持出来るならあまり気にしなくても良いと思っている。

そんな中、全館空調※の特集がいつもの日経ホームビルダー2019年10月号に載っていた。

今はもうない日経ホームビルダーであるが、読み返すと一歩先を行く内容に驚く。


※この場合の全館空調とは各部屋にダクトなどを用いて冷気や暖気を換気をまとめて各空間に送り込み、半自動で家中をセントラル空調管理する方式。「緑の家」でははあまり行われない(冷房は今でも行なう気はない)

4年前の全館空調の事例が載っていた。


最近は夏期の室内RH(相対湿度)に関心が高い。益々真夏の通風無しが主流になる気がする。(そこそこ高性能住宅の主流派の考えとなったか)

特集は10ページくらいあるがその中の一つの見出しに全館空調で満足度は高いが「湿度が課題」とあり、巷の高性能住宅において温度制御は当たり前で次は湿度コントロールといわれ、特に昨今では低湿度空調に人気があるのでこのような見出しになっていると思う。「緑の家」でも24時間家中空調は行うが、ここで示す全館空調ではない。

低湿のためにはどのくらいの排湿が必要か?

新潟県の真夏である8月前半の露点温度は24.2度くらいで、この時の屋外空気の湿気量は19g/kgだからこれと室内空気の27度のRH(相対湿度)55%の差が6.5g/kgであると、30坪くらいの家の120m3/hの換気では24L/日の湿気が換気だけで入ってくる。更に人が生活すると4人くらいで一日あたり10Lの水蒸気を放出すると合計で34L分の除湿を行わないと真夏はRH55%を維持できない。34L/日→1.4L/hとなり、再熱除湿が強力な日立のエアコンでも通常1.2L/h※なので一台のエアコンでは無理と言うことが計算で普通にわかる。故意に換気量を半分に(60m3/h)下げれば何とかなるが、それでは法に触れることもあるので勧めない。
   ※除湿量は室内環境によって変わる。

全熱交換換気でエアコン2台必要

そこで全熱交換タイプの換気扇を使う。すると換気で室内に入ってくる水蒸気は概ね10~15L※にへり、RH(相対湿度)55%にするための合計排湿量は20~25L/日→0.83~1L/hとなんとかエアコン1台で再熱除湿(又は定格冷房)すれば可能なくらいなる。但しこれは全熱交換換気でもお風呂にCFを使用した場合である。お風呂の換気を局所排気とし全熱交換換気をしないとすると、やはり1L/h以上の除湿が必要で実現がむずかしい。つまり風呂CFを使用しない状態で安定的にRH(相対湿度)55%以下にするためには、冷房期にエアコンは2台(再熱除湿搭載)必要になる。   ※機種によって変わる。

何故低湿度に人気があるのか?

室内がRH60%以上でOKとすればエアコンは1台でもよく、「緑の家」では何が何でもRH(相対湿度)55%以下としなくても良いと思う。しかし私を含む大半の「緑の家」のオ-ナーさんはRH(相対湿度)50%台を好んでおり(今ではもっと好き)、除湿にかかる追加電気代もあまり気にしないで再熱除湿もする。なぜかは何度も申し上げたとおり、低湿度で高温の冷房空調のほうがより多くの人(家族も含めて)の好みに合うことを体験しているから。
この低湿度の先駆けはビル空調であり、6年くらい前(2012~13年頃)にその大手ダイキンさんから家庭用デシカが発表され一躍話題になった。当事務所でも何回かデシカで空調設計を行っている。

家の中でも熱環境は違うし、人の感覚も違う

人の感じる夏の快適性は多種多様であり、同時に家内でも場所によって実質感じる温熱感も結構違う。室温27度RH(相対湿度)55%でも窓際などに近い人は窓からの輻射熱で暑く感じやすい。一方じっとしている人、冷え性の人、窓際から離れている人は暑く感じない。このような違いを少し緩和許容してくれるのが低湿度(50%未満)の良いことである。汗ばむと服についた汗で気化熱が大いに働いて急激に体を冷却できるし、静止して汗が出ない状態なら気化熱は少なく室温は比較的高く冷却は穏やかであるので40%台の低湿度に不満をもつ人はすくない。つまり低湿度は「家族のバラバラな要望」をうまく許容できる温湿度環境となりやすい。だから支持され人気がある。(いまでも変わりない)
一方過去に人は湿度に対し敏感でないとの研究報告が多数あるが、夏期の快適さは人の活動量、着衣量、脂肪率、性格、年齢、性別、人種(民族)、育った地域、その他諸々によって多種多様と日常で感じており、研究室内の恒温環境やサーマルマネキンではなく、実際の家で比較する事においてはまだ研究半ばであるかもしれない。(まだ半ばであることは今も変わりない)

風呂CFを採用した全熱交換型換気

お風呂CF設置が真夏の低湿度環境に有効だとのことは何度も説明しているのでここでは割愛するが、「緑の家」が全熱交換型換気扇を採用する理由は、

  1. 冬に換気扇の近くでも寒くない事
  2. 夏の低湿度化に有効な事

でありそのため諦めた事は・・・

  • 設備の複雑化
  • メンテナンスの煩雑さ(衛生維持管理)

である。冬に換気扇の近くが寒くても許容でき、夏の低湿度化は再熱除湿を大いに利用するので良いよ・・・ならば「緑の家」で12年前の標準で使用していた機外静圧がある(花粉フィルター設置可能な機外静圧)セパレート型第一種換気扇が単純でベストに近いと思う。

しかし1と2が大事ならやはり風呂CFと全熱型熱交換換気扇の組み合わせがよいだろう。その中で、ダクトの有る無しは建て主さんの判断としている。(今も変わりない)

風呂CF+全熱換気+再熱除湿ACでRH45%以下が可能

7年前(2016年)に測定した「緑の家」のオーナーさんから夏でも床下暖房を使う事や、CF+全熱+再熱の方法で25度RH(相対湿度)45%程度をデシカ無しで実現した結果を頂いた。ここまで低湿化すると除湿にかかる電気代は流石に大きいが、低湿にしなければならない環境なら、簡単に低湿が実現できる家の構造と設備計画が重要である。(現在は風呂CFの良さといより必要性が認知されてきた)

=============再褐終了

このオレンジ色の文字のように4年前(2019年)と変わっていない評価である。いやこの4年前の事は更にさかのぼって7年前に取り決めたこと。つまり11年間(2012年以降)超高断熱での空調方式について全く変わっていない。超高断熱をはじめたのが2009年だから、ほぼ3年で今の空調方式となってから11年変化していない。

実はこの「変わっていない」=「変化しない」と言うことは、ある意味もっとも凄いことだとあるアニメで知った。そう皆が大好きな「鬼滅の刃」の刀鍛冶の里編で悪人側の主人公である無惨が上弦の鬼たちを叱咤したときに話したこと。

「私が嫌いなものは変化だ。〈中略〉 あらゆる変化は殆どの場合は劣化を意味する。〈中略〉 私が好きなものは不変。完璧な状態で永遠に変わらないこと。」

なるほど・・・そのような見方もあるのかと。完璧なら変化が必要ないということ。そんなこと実際はできないが、欠点がないことが完璧なら私の目指すところも同じ「無難」である。しかしこれを言った無惨は最後にやられるのだが・・・。

なぜ私が全館空調方式で冷房にダクトを使う事を頑なに拒んで標準にしないかというと、この2019年に紹介した本の実例にあるとおり、冷気は建物とって毒なのである。冷気があるところは必ずカビが生える。だから冷気は固めて止めておくより一気に拡散させることが住宅のような建物では無難なのだ。一気に拡散させればカビの心配がなくなるである。そう日本の多くの場所では「カビが建物寿命を決める」と私が仮説を唱えているからである。

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コメント

  1. Asama より:

    yuu様

     コメントありがとうございます。

    実績の前にまずこちらをご覧ください。
    https://arbre-d.sakura.ne.jp/blog/2016/12/07/post-9618/

    10年前からダクト式の全熱交換換気扇を採用しておりますが、逆に10年しか実績はありません。以前ファイバースコープでSAダクト内部を確認した記事は2018年の11月10日ですので内容をご覧ください(リンクは1つを越えた場合スパム対策で消去されるので日付で案内)。

  2. yuu より:

    とても勉強になる記事ありがとうございます。
    一種換気のメリットとして、夏の湿度調整が容易ということは、YouTubeやインスタでみたことがなかったので、ハッとさせられました。
    一種換気のダクト式を採用した場合、しっかりとフィルタ清掃などのメンテナンスを行えば、ダクト内の汚れは気にならない程度なのでしょうか?
    実績などがありましたら、教えていただけると幸いです。