イエシロアリと「緑の家」の防蟻

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先日ある「緑の家」のオーナーさんから上の写真が送られてきた。そう、あの獰猛なイエシロアリの羽ありである。

この死骸があった場所はバルコニー窓の外側である。数匹程度では多分近くから飛んできたイエシロアリだと思われ、築一年以内の「緑の家」が加害されていることはまずないと考えている。

ご存じ「緑の家」は断熱性と防蟻性を天秤にかけた場合、当然防蟻性を優先している(寒冷地以外)。「そんなの両方満足させればよいのでは?」というご意見があるかもしれないが、それは無理。そもそも限られた予算の中でそのリソースをどのように割り振るか、それらの優先順位をつけるのが設計なのであるから、その質問はそもそも技術者に対しては矛盾に近い内容となるからである。

公益法人日本しろあり対策協会のHPから

どこにでもいて最も加害数が多いヤマトシロアリは、雨漏れ、湿気の供給が無ければ、そのうちにその家からいなくなるのが殆ど。よってほっといても良い場合があるが、このイエシロアリは別物。ほっとけば家全体に被害が及ぶまで食い尽くすこともある。よって慎重になることが重要。

「緑の家」のイエシロアリを含む地中型白あり対策は20年以上前から変わらず、

1.半永久的に侵入させない基礎構造

2.侵入する経路を目視化し予防、駆除を容易にする

の2つである。

1の半永久的に侵入させない基礎構造手段としてA.一体打ち込み型べた基礎、B.給排水管の地上部での貫通、C.木の外壁では軒の出を大きし高基礎とするがある。

A.の一体打ち込みべた基礎は言わずもがなで、最近はその良さを理解して行われることがあるが、イエシロアリがいる地域でも一体打ち込みで行われる基礎は少ない。私は北は北海道から九州まで設計を行ってきたが、一体打ち込みをする会社を探すのに苦労したと建て主さんはおっしゃる。

給水、排水管が地面より上で貫通されることでシロアリが発見しやすくなる。

B.の給排水管の露出であるが、これは「緑の家」の他で見る事は少ないし、ユーチューブでもその事を伝えている情報はない。ほとんど施工方法は地中内で配管を家内に引き込むが、地中内の目視できない配管と基礎の隙間を「防蟻性シーリング」だけでカバーしている施工方法。さて、シーリングの寿命ってどのくらいで、寿命が来て隙間があいたら目で見えない地中内のためそれを「感」で察知して地面を掘り返して取替える事がほんとにできるのだろうか。

C.は意外と忘れられがち。シロアリの侵入方法や侵入特徴を考えればわかりやすい。羽ありが木の内部侵入するにあたり、大事なことはその木が湿っていること、また容易に入りやすいピンホール穴や腐朽していることが重要となる。羽あり時のシロアリも大変もろく、シロアリより大きな昆虫の餌となるし、実際黒ありは生きたシロアリが大好物。羽を落としたシロアリは一刻も早く地中に入れないと餌になったり、日射や水分が取れなくて死んでしまう。特にイエシロアリは夜間に飛翔するのは日光が大嫌いだからで、朝日が出るまで木の穴や腐朽した木材の穴に入らないと死んでしまう。小穴に入っても乾燥していたりして水分が容易に入手できないと死ぬため、木が湿っているとやはり生き残る可能性が高くなり、そのためにも地面に近い部分まで木は乾いている方がよいが、梅雨時に群飛するシロアリは軒の出が少ない家では外壁下部まで雨が良くかかっているので生存率があがる。つまりシロアリの事を考えてもできるだけ軒の出は大きくあったほうがよい。また雨の跳ねが1mの高基礎で木に届かず、木の外壁を守る。

木の外壁時には屋根の軒の出を大きくして外壁にできる限り雨が当たらないようにする。

2.の侵入する経路の目視化だが、D.基礎の打ち放し面の露出、E.玄関の空中化、F.給水管の鞘管貫通となる。

D.の基礎打ち放し面の露出だが、一般的な基礎の外部立ち上がりにはモルタルなどで化粧が施される。この化粧面と基礎のコンクリート面に肌別れが生じるとその隙間からシロアリが侵入してきたならば、ほとんど目視不可能となる。化粧面は20年くらいは平気だが、30年後に隙間がでないことは厳しい。地震でもあり揺れるとこの部分に隙間が生じやすいことは新潟県の2度の大きな地震でよく目にするところ。つまり屋外の地面から土台までは基礎コンクリートは打ち放しのままがシロアリの目視化につながる。玄関の下枠下なども同じように「緑の家」では基礎の打ち放し面を露出させている。2013年の下の記事に詳しく書いてある。

白アリ・・・春になると一気に活動が始まります。
基礎表面の蟻道。これは去年以前のもの。 今日は建て替えの敷地調査2件とと打ち合わせ・・・ 春風が強く吹くなか既存住宅...

E.の玄関の室内空洞化も「緑の家」以外ではほとんど見ることはない。べた基礎であればべた基礎のスラブと基礎の立ち上がりの隙間から(一体打ち込み以外)侵入したシロアリは玄関床下の土等が入っている空間をとおり玄関内部に達することが多い。玄関床下を空洞化するとシロアリ早期発見になる。

矢印が示す通り、玄関の床下はこのような空間と一体化して目視可能。

F.の給水管の鞘管貫通は、さや管を基礎だけにとどめておくことはしないで、周囲の断熱材を貫通して内部まで導く。こうすることでシロアリが侵入を試みた場合、目視が可能で対策が容易になる。

屋外側給水管の貫通部分。ピンク色部分で2つ割りで内部にアクセス(メンテ)できる構造。
内側は塩ビ管、断熱管等が一本で断熱材を貫通しているので、蟻道の確認が容易。

まとめとして、ヤマトシロアリならこのAからFを施せば、もう心配は全くいらないくらいの対策。しかしイエシロアリはアタックの数と回数が異常に多い。これはヤマトシロアリが数万匹の群れに対し、イエシロアリが数十万の群れになるため、単純にヤマトシロアリの10倍程多くアタックしてくる。アタックとは個々の生死はシロアリには関係なく、群れが生き残れば最初にアタックした集団(仮に数百匹)が死のうが次がアタックして、最終的に大きな餌にたどり着けばよいという行動をとる。だから表面だけコーティングした木材ではそのバリアを破られる可能性がヤマトシロアリより高くなる。それだからイエシロアリは恐ろしい。しかし、イエシロアリがどうゆうわけか被害件数が少ないという報告があり、この原因は今のところわからない。

最後にアメリカカンザイシロアリだが、これはついては今のところ標準で対策はしていない、というか難しい。これは公益法人日本しろあり対策協会(しろあり対協)にも研究記事があるが、アメリカカンザイシロアリは空中を飛んでやってくるので、仮に自身の家が加害されたときに、一度駆除しても近隣に加害住宅があれば、再び加害の被害にあう可能性があるからで、特にピアノをはじめ一般家具まで加害するアメリカカンザイシロアリを完全に駆除することは難しいと書いてある。しかも大規模駆除したときに、近隣にその話題が出ると心無い方からの誹謗中傷を受けてしまう恐れがある。このシロアリは元々日本には存在していなかったので、最初の発生原因だと思われる住宅が、誹謗中傷を受けることが想像できるからである。つまり大規模駆除はできず部分駆除となると、やはり一度ではその完治は難しいといえる。下にその報告書の一部を引用としておく。以下はすべて公益法人日本しろあり対策協会発行の機関紙からの抜粋である。

最後に、仮にしろあり薬剤の保証が10年あっても、これはシロアリに加害された部材の取り換えなどで加害前に戻すことの修繕保障と、加害時に駆除およびもう一度予防措置を、無償で行う保証があり、さらに免責事項や加害割合もあるのでその点は注意が必要である。必ず施工を行う前に確認する必要がある。

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