超高断熱の防湿層の位置は地域によって決める

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多くの設計事務所は、狭い地域だけで仕事を行っておりません。つまり建築する地域の環境条件が変わる事を知っております。そこで設計するにあたり条件設定をし、シミュレーションする癖を身につけております。一方多くの工務店さんは地域限定(所謂地元密着)がゆえに経験で物事を考える傾向が強く、条件が変わると家造りの根幹が破綻する事になります。この事から一般的ではない家(超高断熱など)を造るときに、設計事務所のほうが得意ということがわかるかと思います。今回はその具体例として超高断熱性能をもつ建物の防湿層の位置を考えてみたいと思います。

以前もご紹介していますが、

「緑の家」の防湿層※の位置はAグレードとBグレードでは違います。但しこれは新潟県の平野部での条件であり、環境が変われば防湿層の位置も変えます。

※防湿層とは気密フィルムなど湿気を通しにくい素材で、室内側の高水蒸気圧の壁内への流入を防止し、壁内結露を防ぐ重要な役目をもつ。

例えば現在施工中のAグレードの伊達の家上山の家では、新潟県平野部での標準仕様と違い、Bグレードと同じ防湿層の位置となります。

それは・・・

壁面各構成部材の透湿抵抗と断熱性能の比率から定常計算によって実在水蒸気圧を計算し、RH(相対湿度)%を推測します。カビの問題がわかる前は各層境界におけるRH(相対湿度)90%を超えなければOKでしたが、現在ではRH(相対湿度)80%以下でOKとしております。その根拠でAグレードにもかかわらずBグレードの防湿層と同じ位置になります。

例えば下は新潟県の平野部における条件で計算したものです。

新潟県の平野部ではマイナス2℃とした場合、一番厳しい境界層θ2でもRH(相対湿度)が80%以下。よってOKとしている。

各層θにおけるRH(相対湿度)が健全である事がわかります。

これを外気条件だけ山形県の上山市に変更すると・・・

外気温度をマイナス10℃とすると、一番厳しい境界層θ2のRH(相対湿度)が96%とほぼ結露域になる。

θ2においてRH(相対湿度)が90%を超えほぼ結露に至る事になります。

そこで防湿層の位置をBグレードと同じ室内側にすると・・・

外気温度がマイナス10度でも、一番条件のキツいθ3のRH(相対湿度)が63%と安全性の高い壁内となる。

内部結露はおろか、壁内の一番厳しいRH(相対湿度)でも63%と安全性が飛躍的に上がります。

では最初からAグレードもBグレードのように内部側に防湿層を設ければ良いのでは?と思われると思いますが、Aグレードの位置にある防湿層のほうが、

  1. 気密性能が高くなる
  2. 電線類の配線が自由になる

ことから新潟県ではやはりAグレードの位置で防湿層を設けた方が良いと思われます。

この計算は定常ですが冬季非定常計算すると余裕が出る場合が殆どですから、この定常計算で行ってOkなら安全側となり問題ないと判断しております。

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コメント

  1. さく より:

    返信ありがとうございます。
    現場の施工のばらつきを見越して透湿抵抗の高いものを使用して、高い安全率を設定しているのですね。参考になりました。

    実は私は茨城県で緑の家と近い外壁の断熱仕様(充填HGW105mm、付加ネオマフォーム100mm)で建築を考えている施主でして、緑の家の防露計算の考え方が気になり質問させていただきました。

    自分でもAsama様と同様に定常の防露計算をして見たのですが、防湿シートの透湿抵抗をあげるほど、冬の結露は安全側になるのですが、夏の結露が不利側になるのでどうするべきか悩んでいます。冬と夏のバランスを考えて、防湿シートの透湿抵抗値を設定すべきなのか、冬を優先して高い透湿抵抗の防湿シートを使って安全率を確保するべきなのか、Asama様の考えをお聞かせ願えないでしょうか。

    • Asama より:

      さく様
       
       コメントありがとうございます。

      >防湿シートの透湿抵抗値を設定すべきなのか、冬を優先して高い透湿抵抗の防湿シートを使って安全率を確保するべきなのか、Asama様の考えをお聞かせ願えないでしょうか。

      その前に夏の結露の条件はどのようなものでしょうか?
      室内側にポリの防湿層を設けた外部36度RH(相対湿度)55%で内部27度RH(相対湿度)70%という「緑の家」では過酷な状態でもポリエチレレンフィルムの外側でRH(相対湿度)82%と許せる範囲の感じです。

      夏の結露とはエアコンの使用した室内温度低によるのではなく・・・その殆どが内部の蒸し返しによるRH(相対湿度)の上昇と過去の論文では報告されております。つまり木材を初めGWなど吸湿物質がある木造の壁内部は、西日などで外壁が熱っしられその熱が吸放湿物質まで影響を及ぼすと、昼夜の湿気の吸湿とパージが連続的に行われることで、ある時間においてRH(相対湿度)100%になる現象です。特に雨がかりの多い外壁が問題であるとされております。また欧州の夏型結露と日本の夏型結露の問題は原因が少し違うと報告されております。

      https://arbre-d.sakura.ne.jp/blog/2017/12/27/post-14634/
      https://arbre-d.sakura.ne.jp/blog/2017/12/16/post-14381/#more-14381

      そのため外側に吸放湿物質と言えないネオマなどの厚い外貼りがある場合、吸放湿部分である木造壁内の温度変化は半分になり、上の蒸し返しによる夏型内部結露の危険性が少なくなります。よって全てGWで断熱をする繊維付加断熱と比べネオマ外貼り断熱が夏の結露に対し安全側に働きます。

      しかも・・・内部気密層の時は、万一壁内がRH(相対湿度)上昇のよる壁内にカビが生えたとしても、気密防湿層の外側になるので室内の影響は限りなく少ないと思われます。

      で、私の考えは・・・
      ネオマフォーム100mmで付加断熱された茨城あたりの建物では、防湿層の位置は柱の内側でも外側でもよい。もしどちらが無難かと言えば柱の内側の方が壁内にカビが生えた場合、室内へのリスクが少ない(ポリエチレンフィルムの時)と思います。

      >冬と夏のバランスを考えて、防湿シートの透湿抵抗値を設定すべきなのか、冬を優先して高い透湿抵抗の防湿シートを使って安全率を確保するべきなのか、Asama様の考えをお聞かせ願えないでしょうか。

      冬を優先に考えたほうがよいと思います。夏は外壁自身を遮熱(真っ白な色)または断熱性の高い素材を使用し、しっかり機能する通気層を設ける事で外壁内の温度変化が押さえられるので、これだけでも夏型結露の心配はほぼ無いでしょう。

      • さく より:

        Asama様

        丁寧でわかりやすい回答ありがとうございます。

        >その前に夏の結露の条件はどのようなものでしょうか?

        防湿シートのダンタイトが100%の実力を出せたと仮定して、透湿抵抗を仕様値の0.372とし、内部27℃RH60%、外部は今年7月の水戸の平均31.9℃RH78%の条件で計算しています。この条件で防湿シートの外側でRH92.6%です。実際はAsama様のおっしゃるように防湿シートの実質の透湿抵抗は施工時の小穴の影響でもっと低いとは思われますが、素人にはその塩梅が難しく、厳し目の計算をしています。

        >そのため外側に吸放湿物質と言えないネオマなどの厚い外貼りがある場合、吸放湿部分である木造壁内の温度変化は半分になり、上の蒸し返しによる夏型内部結露の危険性が少なくなります。

        ネオマフォーム外貼りにそんな効果があるとは知りませんでした。ありがとうございます。これで安心できます。

        >冬を優先に考えたほうがよいと思います。夏は外壁自身を遮熱(真っ白な色)または断熱性の高い素材を使用し、しっかり機能する通気層を設ける事で外壁内の温度変化が押さえられるので、これだけでも夏型結露の心配はほぼ無いでしょう。

        ・断熱性・遮熱性・防水性の高い外壁を用いる
        ・確実な通気層を確保する
        ・外壁の雨がかりを減らすために軒の出を確保する
        教えていただいた上記のことを参考に工務店に相談してみようと思います。

        • Asama より:

          さく様
           
           コメントありがとうございます。

          >内部27℃RH60%、外部は今年7月の水戸の平均31.9℃RH78%の条件

          この設定がキツすぎます。
          内部はよいですが、外部で両方(気温とRH)の平均とすると間違います。仮にこの31.9度とRH78%の空気の露点温度(空気の湿気量)は約27.6度となり、水戸ではまず出現しない外気条件です(今年でも多分27度を超える露点はない)。

          気温だけの平均やRH(相対湿度)だけの単独平均を何かしらに使うことはあるのですが、これらを組み合わせた条件は普通は使いません。せめて一時間毎の平均で見ることが必要です。また透湿抵抗値は安全側に考えてもよいのですが、細かい過去データがあるアメダスはそのまま使ってもよいでしょう。

          今年の7月の一時間毎の外気とRH(相対湿度)の一番厳しい時はざっと見た所7月18日の11時でこの時の露点温度は26.3でこの瞬間だけです。多くを占めるの露点温度は25度台なのでこの条件で計算すると高い透湿抵抗値を入れてもRH(相対湿度)90%を超える事はないでしょう。8月でも露点温度が26度を超える時間は数時間だと思います。
          そんな感じなので夏型結露は蒸し返しによる事が原因となります。

          • さく より:

            Asama様

            返信が遅くなり申し訳ありません。
            いつも丁寧でわかりやすい説明ありがとうございます。

            > 内部はよいですが、外部で両方(気温とRH)の平均とすると間違います。
            わざわざ水戸の気象データまで確認してコメントいただけるとは。本当にありがとうございます。1か月平均と1時間ごとの平均を比べるとこれほど差があるとは思いませんでした。確かにかなり厳しい条件で見ていたようです。

            おかげで安心して家づくりができそうです。

            ありがとうございました。

  2. Asama より:

    さく様
     
    コメントありがとうございます。またレスが遅くなり申し訳ありません。

    >質問1 防湿フィルムの透湿抵抗が0.07なのは
        JIS規定値0.144に対しマージンを見ているのですか?

    ご指摘のとおりです。ポリエチレンフィルムの透湿抵抗は施工の状況で変ると考えております。もしタッカーの打ち損ねが有ったときにはその小穴から多量の湿気が侵入すると考えております。下のページでその事を解説しております。

    https://arbre-d.sakura.ne.jp/blog/2016/01/10/post-0-388/

    >質問2 緑の家でお使いの防湿フィルムの透湿抵抗値は
        フィルムメーカーの仕様値ではいくつくらいのものをお使いなのでしょうか
        (0.2mm厚のフィルムだとメーカー仕様値はもっと高いように思えましたの)

    「緑の家」ではメーカー指定はなく『「住宅用プラスチック系防湿フィルムB種」同等以上品』として設計図に記載されております。聞かれればダンタイト、ダンシーツ(日本住環境)又はボーダー(ジェイベック)でしょうか。それでも計算数値はJIS規定の数値の半分としております。

    工場内生産でない現場生産の住宅は、品質管理が甘いためこのような薄いシートなどの安全率は高いにこしたことはありません。
    数年前に実測したある「緑の家」では、やはり計算値より悪い値がでた壁内箇所が有り、原因は窓廻りの僅かな隙間とサッシフレーム熱橋による温度低下が原因でRH(相対湿度)が高くなっている箇所がありました。タッカーの打ちそこねなどを一個でもないように施工すればよいのでしょうが、現実的にそれら全てを監理してもコストに跳ね返るだけの効果があるか・・・それよりもシートの位置を変えるだけで安全率が倍になるならそちらを選択します(世の中には更に配線によるシート貫通も少なくするような施工もあり)。

    シロアリ防止用のターミメッシュもそうですが机上の空論にはならないように・・・と心がけております。。

  3. さく より:

    いつも楽しみに拝見させていただいています。
    昔の記事で申し訳ないのですが質問させてください。
    質問1 防湿フィルムの透湿抵抗が0.07なのは
        JIS規定値0.144に対しマージンを見ているのですか?
    質問2 緑の家でお使いの防湿フィルムの透湿抵抗値は
        フィルムメーカーの仕様値ではいくつくらいのものをお使いなのでしょうか
        (0.2mm厚のフィルムだとメーカー仕様値はもっと高いように思えましたので)