あるホテルに宿泊したときのお風呂場入り口にあった換気扇のスイッチ。スイッチは2つ有り、24時間換気の強弱と換気扇のON、OFFスイッチである。当然24時間換気のデフォルトは常時ON。24時間換気という言葉が理解されるようになったと思わせるスイッチ。
今日の話題は数値的な事で少しわかりにくいはず。換気が大事だと思われた方のみお読み頂ければと思う。第一種とか第三種換気というシステム話ではなく、単純に何のための換気量か?の話である。
住宅において換気の決めごとは三つある。一つは法令で義務化された24時間換気システムの設置。これは20年ほど前にシックハウス対策で決められた建材類から放出する有害物質の希釈のため。近年では法で規定された有害物質を発する建材はほとんどなくなり、どちらかというと建て主さんが持ち込む家具や小物のほうが有害物質を出している可能性が高い。よってその役目は低くなったが、通常は室内の空気に対し一時間あたり半分を入れ替える量であり
V1=0.5C(m3/h)
となる。V1:換気量、C:部屋又は家の気積である。
二つめは、燃焼時の酸素供給と廃ガスの排出。室内でガスなど燃焼させた時に必要な酸素を供給するために換気すること。廃ガスや燃焼により必要酸素濃度以下になると不完全燃焼を起こすためこの防止である。こちらの換気量は機器の発熱量ごとに定められており、通常は
V2=T・K・Q
T:定数、K:理論廃ガス量、Q:燃料消費量。
通常V1からV3の3つの中で一番大きい換気量となるが、瞬間的なので個別の換気システムで対応し、通常の換気とは混同しない。
三つめは人が原因で汚れた空気の希釈である。人が出す汚れた空気の代表は匂いや二酸化炭素である。通常は
V3=20~35×家族の人数(m3/人h)
である(V3:一人の一時間あたり換気量。25だと椅子に座っているような時で35は掃除などして動いているときの呼吸量から必要な換気量)。
V1とV2は法的に義務となるが、V3が住宅において義務ではないが、健康を考えた時には義務に近い意識が必要だとコロナ禍でわかったのではないだろうか。
さてここで四人家族で100m2の家の瞬間換気量の大きな順から並べると、
V2>V1>V3となる。
但しV2は短時間の瞬間換気なので一般的にはV1>V3となりV1を満たせばOKであるため、現在はV1のシックハウス防止による換気装置が指針となっている。
ホテルも短期間の住宅と言え24時間換気システムは必要であるため、最近の新しいホテルはこのようになっていると考えられる。
但し・・・これはV1のCを家全体と考えた場合である。仮にこのホテルのように5帖程度の居室での気積ではV1=10m3/hでOKとなり、V3の25~35m3/人hは満たすことができないというより半分以下である。
実はここにオーブルデザインの「緑の家」の換気に対する考え方がある。
「緑の家」での換気計画は以前もご紹介したとおり、寝室・個室中心のV3で示す換気計画である。
まず家における滞在時間を考えて頂きたい。寝室は人にもよるが6から8時間は必ず滞在する。これを一週間で一サイクルにすると49時間滞在。一方居間は4時間程度、休日は6時間程度とした場合、32時間滞在となる。比率は1.5倍寝室が多い。しかも寝室は閉め切って使う事が多いのでその気積は8帖で32m3であり、一方居間は閉めきることがほとんどなく、寝室を除く家全体となるため寝室の数倍の気積となる。気積が大きければ希釈量が多いので影響は当たり前だが穏やかになる。そこで「緑の家」では寝室でのV3を最重要視して換気計画をする。
仮に四人家族ならV3は通常25m3/人hなので100m3/hになる。その一方一番換気量の多いV1でもし30坪(100m2)くらいの家ならV1は125m3/hになる。
ここで個室2室(4.5畳2つ)、寝室が1室(10畳1つ)だと人の就寝する人数から個室25m3/hを2つ、寝室に50m3/hを一つ計画することになる。この合計が100m3/hなので先ほどの法律で定められたV1の125m3/hの残りが25m3/hとなりこの25m3/hを居間(リビング)に設ける事で合計125m3/hとなり法律で定められた換気量をぴったりクリアーする。
最近この計画で確認申請を申請したところ、審査員から寝室、個室重視のこれでは個室換気になり居間(リビング)の換気量が不足すると指摘された。しかし居間(18畳)の気積は吹き抜けもいれて100m3にもなり、そこから計算される換気量は50m3/h。これが更に必要なことになるとしたら、各個室とあわせ150m3/hの換気量となり、シックハウス法から見ても過換気になる。すると各個室の換気量20m3/人hに下げて130m3/hとすれば良いのではないかとの考えが起こる。しかしこれでは人が就寝中に出入り口を閉めていたら明らかに換気不足(CO2濃度が1000ppmを超える)となるのでNG。
そこで「緑の家」のお家芸のCF(循環ファン)で解決。出入り口を閉めても居間まで続く廊下やホールにCFで空気を循環させるとの説明で審査員も納得。実際も緩やかだが各個室は十分な換気がされ、且つ居間(リビング)もCFにより換気されこれで解決される。実際のデータは上の通りで終日居間のCo2濃度上昇は寝室より低い。
一方居間に家族全てが長時間滞在したらどうなるか?とのご質問もあろうが、それは一年でみると一時のこと。この一時的なことで全体の換気量を増やす必要もないが、緊急対応措置として風呂CFをから風呂排気換気にすれば100m3/h弱の換気が追加され、更に四人分の換気量増で問題は解決される。お風呂場への換気経路もほとんどの場合居間を通過する。コロナ禍においては、Co2濃度センサーを設置するなどして換気に過剰に敏感になった方もいらっしゃったであろう。このような非常時の時には一時Co2の濃度が上がってもやむ得なく、非常時を標準にして換気過多に計画するより、非常時の対応さえ考えてあればやはり標準時を中心に計画することはOKであると考える。
尚、誤解を恐れずに言えば、コロナ禍で良かったことは、世の中の多くの人が住宅内でも換気を意識したこと。そこで一人あたり25m3/hから35m3/hが必要だよね・・・との数値を多くの人が覚えることになった。この数値で換気すればCo2濃度を1000ppm未満に抑えることができるからである。換気量は多い方が間違いなくよいが、換気量が増えると空調の制御が難しくなる。つまり温度や湿度を管理するのにより多くのコストがかかる。最低限度の換気量であっても就寝中も安心してCo2濃度が1000ppm未満になることが良い換気計画だと私は思う。それがV3を基軸として考える換気計画でV1を基軸とはしない。
そこで寝室や個室の換気量を25~35m3/hにしているのである。ところが最近、就寝中に勝手に換気量を下げる機器や、そもそも寝室に最低必要な50m3/h(一人あたり25m3/h)の換気を故意にしない小換気システムがある。これは本末転倒である。また湿度に反応し換気量を絞るデマンド換気もV1を無視した換気量なら法に抵触する換気システムといえよう。あくまでも義務であるV1は満足しつつ、個室への最低一人あたり25m3/hのV3を中心に計画すべきである。