ずいぶん前から何度も「換気は難しい」とブログでお伝えしている。
先に宣言しておくと換気システムは建て主さんの好みでよいと思っている。我々はその選択のため、情報を正しくお伝えするのがその役目であるとの認識。
では一通り説明して「なにがお勧めか?」と聞かれれば、超高断熱でコストを抑えた「緑の家」は
「第一種全熱交換型換気システム(ダクト有、ダクト無し共に)が無難」
となるだけで、必ずこの換気システムがが万人によいとは限らない。
私は運がよいと言うか、33年前(1990年)にR2000並の高断熱高気密にであった時に、現在の恩師(赤林先生)から当時の最先端の換気について実験実測に関与させていただいた。このとき私が設計していた建物は第三種換気である。当時(1992年前後)の気密性能はC値で1~1.5がおおく、その性能で確か3棟くらいの換気効率を実測した。実測はトレーサーガスを家に一定濃度になるまで充満させて、そこから換気システムを動かし、ガスの濃度が定常状態になるまでの推移を時間ごとに解析すること(その逆もおこなった)。これは家丸ごと実測するので大規模測定となり、大学機関でないと無理である。今でもネットを検索すれば当時の記録が出てくると思うが、あまりに古すぎて(1992年前後)まだPDF化されていない頃だから、専門の論文タンクにしかない。
この実測結果は今の「緑の家」に大きな影響を及ぼす。第三種換気では、風上と風下の部屋の換気効率が全く違っていた。簡単な話、風上は正圧(圧力が高くなる)なのでより多くの新鮮空気が入るが、風下は負圧(圧力が低くなる)なのでほとんど入らない。
第三種の排気側はトイレと風呂の排気パイプファンだったが、これが風上に側に設置されていると設計通りの排気量が出ない。実測でなくとも計算すれば簡単で、風速6m/sくらいの風上側壁面にかかる圧力は上の図より+18~+20Paに、風下側は-10Paになり、パイプファンのP-Q曲線から通常のパイプファンは最大20Paなのでフードの圧損を考えると排気できない。ターボ型のパイプファンでようやく30Paくらいなので20Pa時の風量は1/2くらいに落ちる。当然新鮮空気口が風下にあれば-10Paもあればほとんど新鮮空気は入ってかない。
実測結果を見た恩師は「浅間君、第三種換気は新潟のような卓越風が強地域では難しいよ。第一種にしたらよいのでは・・・」とはっきり言い切られ、納得してそれでその当時(1995年前後)から第一種換気システムになっている。注意が必要なのはこのときの第一種は熱交換なしのダクトレス型である。このように実測と計算はほぼ一致していたので、当時から換気扇のP-Q曲線は大事だと認識して必ずチェックする。だからP-Q曲線を表示しない換気扇メーカーは信用しないのは当然のこと。ただダクトタイプの第三種換気システムは当時から静圧(圧力を高く出来る)が150Paを超えているので排気側は問題ないが、新鮮給気口側はやはり影響を受けやすい。
さて卓越風とは、地域別、季節別に吹く最も頻度の多い風向の風のこと。新潟県では冬期南西から北西の風がほとんどを占める。しかも風速4m/s以上の風の時は原則卓越風である上の方位。まずは建設地の風を知ること。そこで勘のいい人は「なら卓越風の側に給気口をつけ、卓越風と反対側にパイプファンのような排気口をつければよいのでは・・・」となるが、
風をよく知っている人は言うだろう。
「野中の一軒家ならそれでOK。しかし市街地であると、周囲の家で風向は変化し、わずかに風向が変われば今まで正圧だった壁面が負圧に変わるので、現実的に正圧の壁が特定できるのは家が建ったあとである。しかも周囲の家が建て替えればそこで再び正圧面がかわる可能性がある。」
それを裏付けるように10年ほど前に一時期流行した風をつかんで窓を設けようとう3.11後の電力不足でエアコンを否定する省エネ行為が流行したが、当時から私は窓から想定した風を入れるのは相当風をしっている人で且つその人でも近隣建物が変化すれば無理であると知っていた。第三種換気の自然給気口も同様で大変難しいのである。第三種換気では換気扇の差圧がせいぜい20~30Pa程度。温暖な季節で風速3m/s以下ならいざ知らず、6m/sも吹けば負圧面の壁面は-10Paにもなる。まぁほとんど入ってこないだろう。
ということで日本のような市街地に建築する場合は第三種は風頼りになるので避けたいと感じ、30年前から第一種換気を新潟県では使い続けている。新潟県以外でも風が読めない以上第一種を使うことは理にかなう。
しかし冒頭の通り、換気システムは好みでよいと思っている。第三種換気で風があっても家の中が全く換気されない事はなく、換気がされてない瞬間が多々あるだけで人に大きな影響があるわけでもない。一方第一種換気システムはその点ある程度は風の影響を受けにくい換気である。それを示したのが下のブログの論文(技術資料として書籍になっている)。是非しっかり読んで頂ければ、風上風下のある第一種換気システムと第三種換気システムの違いがわかる。第三種は風によわいのが結果に表われている。換気システム選定は消費電力やメンテナンス、快適性の前にその目的である換気がしっかりされることが重要である・・・と私は考える。