建築士が考える耐震性

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積雪地で設計する建築士のほとんどが知っているこの事は、一般の建て主さんには知られていない。(3000N/m2で積雪1mの荷重)。

「緑の家」の耐震性能は原則地域で決められた設計積雪量を満たしての耐震等級3となる。このため設計積雪量が2mを超える地域では屋根が少し小さめだったりして、工夫をしながら耐震性を確保している。2mの地域であっても当然積雪1mで耐震等級3を取得も出来るが、明らかに2mより耐震性は劣る・・・と言うより屋根に雪が0.35m以上あるときは一般の家より弱い耐震性となる。0.35mとは法では積雪量の0.35倍だけの荷重で耐震性の検討をしてもよい建て付けであるから。積雪2mなら0.7mで、積雪2.5mでようやく1mに近い0.875mの雪の重さの時の耐震性を確保している。このことは改めて機会を設け説明したい。

ピンク矢印が「緑の家」の耐震等級7の位置する所。建築学会発行の冊子の「性能規定化から20年・その現状と未来の概要から」

耐震等級3は上の表では「特級」にはいり、震度7クラスが襲ってきても、最大被害で中破以下を想定しており条件によっては軽敏な被害で済む。中破を含む被害を住戸が受けると2年以内に半数以上の住戸で建て替えや住み替え又は更地として、その住戸は現存していないとのデータが、熊本地震(益城町)の2年後の調査が得られた時は、衝撃的だった↓。

https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/00154/00189/

しかし私も中越地震、及び中越沖地震で2度ほど震度5強~6を体験して思うことは、よほど裏付けがはっきりしていない建物(設計)以外は壊したくなる気持ちはわかる。震度6でもそう思うのだから震度7というとんでもない揺れを体験した人の心は、何の性能の裏付けがない建物には怖くて住むことが出来ないと思う。幸いにも現在のところ震度7の地震は局所的である(直下型になることが多いため)。このため震度7に一生で出会う確率は大変低いので、震度7クラスの地域に住んでしまったとしたら運が悪いと思ったほうが良いとの割り切りも必要である。なぜなら「緑の家」の建物でも震度7クラスに襲われれば中破となることもあるため。中破とは半倒壊などには至らないが、変形が少し残るか、残らないにしてもサッシの調整範囲外の変形を受けるので、気密性は破壊される確率が高い。中破を防ぐために更に建物の耐震性を上げたほうが良いのか?になるのだが、阪神淡路大震災を始め新潟の中越、熊本の地震から証明されるように、同じ震度7地域でも倒壊する建物と軽敏な被害で済む建物にはっきりと分かれる。この理由は建物の設計や施工のミスが無い前提であるが、地盤の強さによるところが多いとの調査結果が多数ある。つまり地震に強い建物を造る第一条件は、地盤がよいことにつきる。建物自体の強さはその次ぎに考えること。戦後人口が増えてから開拓された土地や地域を避けることは無論、数千年前までさかのぼり、その土地が河川だったり海だったり沼や谷だったところはほぼ地盤が悪い。戦後の埋め立て地は最悪となる。但し・・・その埋め立て地でも耐震等級3以上を余裕で確保すれば中破以下ですむ。その状態でも「震度7クラスに襲われたなら中破でも運がよい」と思っていれば良いだけのこと。とどのつまり地震に強い家を希望しても、その土地がかつては海や沼、河川だたっところで建てるならそれは難しいが中破以下なら問題なく可能となる↓。

https://www.jsce.or.jp/library/eq10/proc/02003/6-0073.pdf

また現代の耐地震の最高技術である免震構造は、戸建て住宅において第三種地盤(同等を含む)上での運用を原則禁止しているシステムがほとんど。

第三種地盤とは「腐植土、泥土その他これらに類するもので大部分が構成されている沖積層(盛土がある場合においてはこれを含む。)で、その深さがおおむね三十〇・八 メートル以上のもの、沼沢、泥海等を埋め立てた地盤の深さがおおむね三メートル以上であり、かつ、これらで埋め立てられてからおおむね三十年経過していないもの又は地盤周期等についての調査若しくは研究の結果に基づき、これらと同程度の地盤周期を有すると認められるもの」

建築基準法施行令第八十八条第一項、第二項及び第四項の規定

事務所のある三条市内でも免震構造を以前検討したが、ボーリングデータを見ると三条市の多くがこの第三種地盤相当に該当しており、計画できなかった。結局無難な制震テープを採用した(耐震性を増やすために壁を増やす必要がないところとあくまでもプラスαの評価が無難)。一方実際は行政がこの第三種地盤として三条市を指定はしておらず第二種地盤として取り扱うが、第三種により近い第二種地盤面と理解している。冒頭の表で特級(耐震等級3以上)で建築しても中破から軽敏な被害と巾が広いのはこのためであるともいえる。では第三種地盤面上の建築はどのような耐震性にアップさせるかというと、法では軟弱地盤地域となり、構造を検討するときに割り増し係数という数値があり、通常の1.5倍の許容耐力にする事になる。通常の耐震等級3が建築基準法の1.5倍だからその数値の更に1.5倍であり、現法基準より2.25倍の耐力となる。この耐力で戸建て住宅を現在の木造で造ると、ほとんど窓が無い家になるか、全て8帖で仕切った壁があるプランになり自由はほとんどない。こんな家が良いかというと・・・バランスが悪くこのためか行政が指定する軟弱地盤地域はほとんどない。

第一種地盤 とは岩盤、硬質砂れき層その他主として第三紀以前の地層によつて構成されているもの又は地盤周期等についての調査若しくは研究の結果に基づき、これと同程度の地盤周期を有すると認められるもの 。 第二種地盤とは 第一種地盤及び第三種地盤以外のもの。

建築基準法施行令第八十八条第一項、第二項及び第四項の規定

建物の耐震性をアップしたいならまずは地盤の良い第二種地盤面を選び、それが無理なら軟弱地盤地域係数1.5を乗じると法では定めているので、本来は免震装置や制震装置を設置を考える前に、この流れとなる。地盤が悪いところに何をしても本来の効果は発揮されないとのこと。戸建て住宅では第一種地盤面上となることは現実にはない。

一般財団法人 土地総合研究所

今回は地盤の話をしたが、以前話しした地震地域係数も危うい基準。未だ新潟県内は法で定められた上の図のとおり地震地域係数を0.9としているが、「緑の家」はこのコメントがあったその後から0.9の地域でも可能な限り1.0として構造計算するようにしている(つまり耐震等級3より10%強い耐震性)。多分多くの設計者が新潟家県内なら0.9で行っていると思うが、この係数は大地震時の地震の強さが低い地域の係数では無く、地震の発生する間隔が他地域より低いので0.9と一割建物の耐震性が低くても良いという変な理屈の数値。新潟県は全域0.9なのに20年前に震度7クラスの地震が2度3年おきにほぼ同じ中越でおきている。更に熊本地震はこの地域係数が0.8~0.9と日本一低い地域だったにもかかわらず、震度7が2日置きに訪れた事は、この地震地域係数が何の冗談かと思う確率であった。

このように耐震性を計画する思考は・・・設計者の判断で随分変わるところが多いのである。

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