新潟ではこの6年間で大きな地震が2度あり数十名の方が亡くなっています。しかし都市直下型地震である1995年の1月17日におこった阪神淡路大地震では、その100倍の6000人以上の人が亡くなりました。あれから15年経ち、被災者以外の人の脳裏からから少しづつ記憶が薄れてきております。
我々建築士は、この阪神淡路大地震を教訓にいろいろ学び、改善策を実施してきたと思います。が、今でも一般の木造住宅の4号建築物特例という法律が改善されないままです。4号建築物特例とは、普通の規模の木造2階建ての構造の安全チェックはその設計者が建築士の場合は、その建築士に一任し行政ではチェックしませんと言うものです。
この法律を建て主さんは知らないと思います。家を作るときは行政に確認申請を行い、この時点で行政(国)が構造も大丈夫かどうか見てくれると思っている人がほとんどでしょう。
しかし行政は一般の木造住宅の構造にはタッチしません(長期優良認定取得住宅等を除く)。その家の構造は設計者(法人を含む)が全て責任を持ち、行政は関与しません。
行政チェックやダブルチェックと言われる機能は、ここではありませんし、もしかしたら設計者のシングルチェックさえも「感」によってしかされていない場合が多くあるのではないかと考えます。
さて、この構造チェックをしていない設計者もいまだにおり、それを確認するには、プランが決まった基本設計時点で
「構造計算書」か
「壁量計算書」を
見せてください。
とお願いすればよいのです。
「構造計算」は専門知識が多少要るので少ないでしょうが、壁量計算は建築士であれば誰でもできるくらいもので、逆にこの壁量計算(四則演算程度)ができない人は建築士になれません。この壁量計算は安全性を確認する一番簡単な根拠(私は雪国の家では甘いと思いますが、法律ではOK)です。
基本設計終了時点でこれらの構造チェック(ラフでも)が終了していなければ、そのプランは絵に描いた餅(安全性が確認できない建物は家ではない)と同じで、きっとこの後も構造の安全確認はしないでしょう。
「構造確認は後で行います」
といっている設計者は多分こういうでしょう。
「今までの経験で大丈夫」
こういう人(会社)が一番危ないですね。
また、「4号建築物特例は住宅程度の小物件には必要だ!」
という業界関係者がいらっしゃいますが、私もそう感じます。
が、問題はその特例をいい事に構造の安全確認を設計者が決められた手順で行わないと言う事があるので、性善説が成り立たなくなっている事です。だから行政チェックによって法律が守られ建て主さんを保護しなければならなくなってきている状況であるという認識です。そうなるとまた確認申請料が上がり、建て主さんの負担が増え、また行政の肥大化を招きます。本来なら法律を守らない設計者が悪いので、4号特例を廃止するより
「法律を守らない設計者を一時免許停止のように厳罰に処す」と決めるとすぐに改善されるはずです。このほうが建て主さんにずっとメリットがあります。
最近は小屋裏収納のロフトや中間収納、太陽光発電パネル設置など、家がどんどん重くなってます。重くなると言う事は耐震性を増さないと家が壊れやすくなります。またその耐震性アップの方法は法律で決まってます。姉歯事件がきっかけで行った国の調査で、これを知らなかった設計者が関与した建物が100棟以上が法律違反となった関東の大手建設会社があり、きっと調べると全国的に相当多数の家が安全性に疑義がありそうだと言う事で4号特例が廃止される議論になったのです。
怖いですね。スキップフロアーや組み込み駐車場による大開口など、アクロバット的な家も多いですね。日本の諺の「のど元過ぎれば・・・」となってはいけませんね。
さて、阪神大震災の亡くなった人のうち5000人は木造住宅での圧死です。倒壊した木造住宅の大部分が古い法律時の耐震性しかない建物や腐朽した建物でした。現在の法律に沿って安全確認をし、上のようなアクロバット的(一般的でない)な事をしなければ倒壊等が起きる可能性が極めて低いと国はアナウンスしております。
因みに新潟でおこった地震の被害は地盤が原因である場合が多くあり、まずはがけ地や埋立地(過去に潟だったところ)の場合は、上物構造の安全確認ができたとしても家が傾くリスクがあると思ってください。この場合は、簡単に傾きが修繕可能かどうかが重要ですし、家具の倒壊防止も重要です。
過去の教訓を活かしたいといつもこの時期に思い出します。
コメント
こんにちは。 雪上博人様
コメントありがとうございます。
おっしゃるとおりです。構造設計は建物の最優先される骨格です。私もそう認識しています。
また、雪上博人様から
「中越地震や中越沖地震の経験から平成12年6月1日施行の建築基準法および付随する告示等を守って設計していれば田麦山地域で観測された震度7程度の揺れでも崩壊(層間変形角1/30以上)はまず起こらないとの感触を持ちました。」
とおっしゃっていただくと、心強い裏付けがあると感じますし、私もそう考えます。
設計者が建物の構造安全性を確認することは、法律で決められているので本来プレカット屋さんに○投げ状態で、それが設計者にフィードバックされないのは×ですが、ゆるく考えてもせめてそのプレカット工場で確認した構造チェック図(表?書類?)が建て主さんにしっかりと渡る事は必要(履歴とチェックできる)ではないかと思ってます。
雪上博人様のコメントには勇気づけられました。ありがとうございます。
2010年1月16、17日には阪神淡路大地震から15年ということで特集番組が組まれていました。住宅の応急危険度判定に約2週間滞在した経験があったので他人事ではない気持ちで視ていました。住宅の崩壊が原因で人の命を奪ってはいけないと構造設計の重要さを再認識しました。
その後の中越地震や中越沖地震の経験から平成12年6月1日施行の建築基準法および付随する告示等を守って設計していれば田麦山地域で観測された震度7程度の揺れでも崩壊(層間変形角1/30以上)はまず起こらないとの感触を持ちました。
工務店の中には、構造が不得手なところもあるでしょうが、ほとんどのプレカット会社が構造チェックをしてくれているのでそれが、構造的に不適格なものが出来てこない抑止力になっているようです。本来はプレカット会社任せでは無く、記事本文で書かれておられるように、全ての設計者が判断できるようにしたいものです。