建築士が考える耐震性 その3

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この1ヶ月は長期優良住宅を3件申請し、2件とも認可され1件は認可待ちとなっているので、結構ハードな師走となっている。長期優良住宅の審査基準は地域担当によっても変わるので気を遣う。

当然3件とも当然耐震等級は3での取得で、また3件とも地震地域係数は1としている。3件の内訳では名古屋市と神奈川県と新潟県であり、このうち新潟県のみ法律上の地震地域係数は0.9で良いことになっているが、「その1」でお伝えしたとおり0.9を1.0と10%上乗せして、下の図のとおり計算し耐震等級3を取得している。

この地震地域係数は非合理的な考えで作られているのでそのうちに改正されるであろう。このような事が設計者のさじ加減(思考方法)であり、構造優先で考えた時に、意匠とのバランスの取り方・・・つまり天秤の支点位置が設計者の思考でかわるのである。

さてその3では大事な柱の根元の金物(ピン)について少しふれたい。

画像に alt 属性が指定されていません。ファイル名: 231101.jpg

上の図はある「緑の家」の1階の柱の根元の金物選定図である。この図は設計者が工事監理で最も気を遣う箇所の一つである。特にこの1階の柱脚金物は、最も耐力が必要で且つ重要な接合部となる。どんなに耐震性が高い耐力壁があっても、それに見合ったこの柱脚金物が無ければ、この部分の耐震性が突然「0」になる。これは過去何度もこのブログで説明しているが、木造軸組工法というこの建て方は、ピン構造である。

ピン構造とは棒と棒の接合部がピンでつながっているような力の伝達工法となる。イメージでは下の写真のとおり。

まさしくピンが刺さっているピン構造。日本鋳造株式会社さんのHPから

これを木造住宅として模式図をかくと左のように柱と梁で表される。

垂直が柱、水平が梁に相当する。接合部がピンの場合は自立出来ないほど不安定になることは誰もが経験している。

ピン構造ではこの時矢印のように横から力をかけると簡単に倒れる。

ところがたった斜めの材一本入れるだけで倒れることはなくなる。とても簡単に柱と梁が維持される。だがしかし、どこか一つのピンの部分がとれてしまうと簡単に完全にバラバラになって壊れる。

左のように一本の斜材が入るだけで構造は安定する。しかし接合部が破壊されるとバラバラに倒壊するほど脆い。

ここがピン構造の脆いところである。よってこのピン部分は他のどの材よりも壊れにくくしなければならない。当然斜材でなく面材による耐力壁も同じ考えで計画する。

そこで再びこの下図だが、

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これは地震時にそのピンにかかる力を計算して必要な金物を選んでいる図である。ピンク矢印のところなら50KNの力がかかるので50KN以上の耐力がある引き抜き金物(柱の根元の金物(ピン))を計画し、ピン部分が先に破壊されないようにする。

ここで・・・上の図の計算では耐震等級3、耐風等級2での計算結果だが、これを耐震等級1、耐風等級1に2ランク下げて再計算すると・・・

全ての柱の根元にある必要な柱脚金物は全く変わらない。

木造の許容応力度設計における構造計算の流れを知っている人は「なにを当たり前のことを言っているのだ」となるが、構造計算を自身でおこなったことがない建築士や普通の人は不思議に思うはずである。許容応力度設計では設置される耐力壁の強さと力の伝達を考えて、その力で壊れないような柱の根元の金物(ピン)を計画するようになっている。このようにすれば、家の倒壊に際しピン部分は一番最後に破壊され、計画した耐震性が確保される。よって、耐震等級1でも耐震等級3でも耐力壁計画が同じなら柱のピン部分の計画はかわらない。ピンが変わるのは、1.耐力壁の強さがかわったとき、2.耐力壁の設置位置がかわった時になる。

ここで合理的に思考できる人はわかるだろう。耐力壁の強さが変わったときに、原則柱の根元の金物(ピン)がかわる。これを頭にたたき込めば・・・・

「適当な耐力壁追加だけではNG。相応の柱の根元の金物(ピン)に変える必要がある」

という大前提がわかる。すると仮にリノベーションの時に、耐力壁補強も同時に行うことが巷で多く行われているが、この時に柱の根元の金物(ピン)がその耐力壁以上の強さに変更しなければならない。しかし実際そのように計算して補強が行われることは極めて希なことである。つまり柱の根元の金物(ピン)が変わるとそれを基礎に伝えるアンカーボルトや座金も変える必要があり、アンカーボルトの設置は通常基礎と同時に施工されるので、ほとんどのリノベーションにおける耐震補強で強さに見合った金物の設置をしていない(基礎を新たに造るコストがかかりすぎて行われない)。となると・・・最もあってはならない、柱の根元の金物(ピン)が先に壊れる部分も出てくる。それが想像できるので、リノベによる改修は通常賛成できない立場になる。実際熊本地震では柱脚のホゾ(ピン部分)が抜ける事で倒壊に至った事例が数多く報告された。

他の追加補強でも同じ考えで、例えば多くの制震装置において、設計者が通常の耐力壁を計画した後に、追加でその装置をメーカー判断で取付けることがおおい。その際柱の根元の金物(ピン)の追加を求めなかったり、全体の計画を配慮せずにいい加減な追加措置に納まることが多い(私が問い合わせた複数の制震装置がそのような回答)。

このような事が想定されるので、安易なリノベーションは反対しているし、「緑の家」が制震装置を安易に積極設置する事はないのである。

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