住宅の安易なリフォームやリノベーションに対し
・・・まとめ

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「て・こあ」築102年時の外観。
外観の改装時にペガラスのサッシをあえてシングルガラスにダウンし、建設当時に近づけた。ソーラーパネルのみ増えた。

今までリフォーム・リノベーションは強くはお勧めしないとの理由が

1.耐震性が担保出来ない、

2.それをしっかり説明しない

であった。

しかし当ブログは築100年を超えた古い民家である「て・こあ」の記事が219もあり、カテゴリートップの超高断熱で345、家の論評330、家の設計が266に次いで4番目に多い。超高断熱と家の設計のカテゴリーは様々なところで重複しているので、それを除くと2番目に多い記事数となる。「て・こあ」は間違いなくリノベーションであるがこの記事数でわかるとおりMY関心はとても高いのである。

譲り受けた築96年の「て・こあ」。母屋の屋根は既に瓦から金属葺きになっていたが一部はペアガラスのサッシが取り付く。

築103年になった古い民家の既存不適格建築である「て・こあ」。平成12年の新耐震法ばかりか、建築基準法が出来る以前の大正7年の建物なので、当然基礎は全くなく柱立てである。このためここを利用する方には「現在の耐震基準を満たしていない」と記載されたパンフを用意して読んで頂き理解して頂けるように努めている。

そんな危ない建物を利用してもらうなんて建築士として問題ないのか?とのご指摘もあろうが、それについては持論がある。

昔の建物は、昔ながら使い方をすれば容易に地震でこわれない

という想い(思考)だ。

まず客観的な事実として、この地域で平成16年と平成19年におきた大きな地震による倒壊、半壊はおろか被害も少しだけだったことがある。特に震源地が近い中越沖地震ではこの地域の平均的な揺れは震度6弱とのことで、道路のひび割れが起こった場所もある。しかしこの「て・こあ」では部分的に壁にヒビが入ったが特にそれ以外は問題なかった。実際固有振動数も実測し裏付けがある。

被害が少なかった理由として

1.建築場所の地盤が昔からの地山である。

2.建築当時とおなじように2階に物がほとんどない。

が大きい。

木造住宅はその建築場所の地盤によって地震時の運命がきまる。これは過去の地震を振り返っても皆同じ。中越地震で震源地であり震度7を計測した旧川口町でも、倒壊した建物が集中したのは、埋め立て地や谷地であった。岩盤上の家の倒壊は見られず小から中損壊程度になっている。また阪神淡路大震災で高速道路の柱脚が倒れた場所は全て旧河川の埋め立て地と合致している。よい地盤は建物の最も基本的な耐震性となる。

「て・こあ」は古い寺院で江戸時代のころからこの付近に建っていた。建て替えもあったので当時と少し場所は変わったかもしれないが、基本的に山の麓で200年も同じ地形の場所。地盤はとてもよい。今の住宅地は昭和になってから人口が増え、核家族化も進んだことで、低地や潟、谷地を埋めて住宅地として変化した場所であるが、ここは200年以上前から何も変化していないまさしく無難な土地である。

譲り受けた当時の「て・こあ」は2階にはほとんど物がない。写真は屋根下地を冬前にいぶしている。

また冒頭、

昔の建物は、昔ながら使い方をすれば容易に地震でこわれない

と言った。これはまさしく

2.建築当時とおなじように2階に物がほとんどない。

のこと。100年前の生活では、物は最小限であり、2階にあるとすればそれは布団だけ。本もおもちゃもTVもタンスも余計な物は一切無い。つまり2階の積載荷重は人と布団のみ。多分6帖に二人と布団なら18kg/m2となり現在の積載荷重の1/10である。これだけ少なければ建物への地震力の負担は少ない。地震力は重量に比例するから軽ければ弱く少ない耐力壁でも倒壊には至らない。例えば仮設の足場は強風では直ぐに倒れるが、軽量が故にあんなに華奢でも地震で倒れることはないし、施工中の木造建築物も同様に、地震では倒れることはほとんどない。ところが近年では2階の押し入れには目一杯の本や道具。更にベットやTV等物にあふれた生活行っている。豊かになったのであるが、その重さにより地震には弱くなっている。「て・こあ」では重いペアガラスのアルミサッシを排除し、薄いシングルガラスの木製戸に変えたことも軽さへの拘りでもある。

このようにメンテナンスも含め古い建物でも100年前と同じ条件で使えば当時の建築時に想定したままの耐震性はある。そのため「て・こあ」は過去の大地震でコンクリート基礎もないのに問題なく今も建っているのであると私は推測する。

2020年1月号 断熱省エネ改修の特集が組まれた建築技術。

さて、連載のまとめである。

リフォーム・リノベーションは新築は無理だが中古なら安いという理由で取り込むことでは失敗する。その建物に想いがあるから残したい、何か新築より面白くなりそうだ・・・そんな気持ち取り込むことである。そして耐震補強をするのか?しないのか?または「て・こあ」みたいに特殊な裏付けがあるのか?など検討し安全性の担保する。その次ぎにもし用途が住まいなら温熱環境は大事である。温熱環境が悪いといずれ手放したり、新たな欠陥を生んでしまう。その温熱環境のリフォーム・リノベーションの疑問に答えるべきよい書物が株式会社建築技術さんより発刊されている。毎年同様に住宅技術評論家の南雄三氏監修の特集であり私も執筆させて頂いた。是非一読して頂ければと思う。専門書なので専門用語が多く深い造詣のわかり難い内容であるが、当ブログの読者さんならもんだいないだろう。

今から8年前に行われた超高断熱への改修事例を担当し執筆させていただいた。

最新号である建築技術1月号はこちらから購入できる。

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